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猫になりたいな  作者: 夏樹聡
第2章「二人の関わり」
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第2章「二人の関わり」3

今日は僕の誕生日だ。そしてなんと、父がエレキギターを買ってくれた。「前から何回か欲しいって言ってたろ?これ弾いてプロのミュージシャンにでもなればいいさ」そう言って父は笑った。中古で2万円くらいだったらしい。ミュージシャンか……。せっかく買ってくれたんだし、それも悪くないと思った。夢が一つ増えた。といっても他に夢なんてないが。僕は早速スピッツの曲をカバーすることにした。しかし、やはり最初は上手くいかない。スマホで上手い人の動画を見ながら真似して練習していると、電話がかかってきた。双葉さんからだ。

「もしもし?どうしたんですか?」

「あ、優くん。いや、何してるのかなと思って」

「あ、実は今日僕の誕生日で……」

「え、そうなの!?おめでとう!」

「ありがとうございます。それで、父さんがエレキギターを買ってくれて、今練習してたんですよ」

「へぇー、すごいなぁ。でもね」

「でも?」

「私もギター持ってるの。アコギ」

「え?いつから?」

「高校生のとき。お父さんが買ってくれたの」

「そうなんですか」

「でも高校生のときはスピッツの曲あんまり知らなくて別の曲弾いてたんだ」

「へぇー。なんの曲ですか?」

「BUMP OF CHICKENの「天体観測」とか、Mr.Childrenの「HANABI」とか、色々」

「あー、あれもいい曲ですよね」

「だよね。他にもいっぱい曲弾いて練習して、今も時々弾き語りするよ」

「そうなんですか」

「……あっ、そうだ。今から私の家に来ない?せっかくだから私の弾き語り聞かせてあげようか」

「えっ、いいんですか?」

双葉さんの歌声は以前カラオケで聞いたが、弾き語りは聞いたことがない。

「うん」

「じゃあ、ぜひ聞かせてください」

「わかった。じゃあ迎えに行くね」

「はい、わかりました」

「それじゃ、またあとで」


それから15分ほど経って、インターホンの音が聞こえた。

僕は急いで玄関に行きドアを開けた。

「こんにちはー」

「あっ、双葉さん」

「じゃあ行こうか」

「はい」

僕は外に出て、ドアを閉めた。

「あれ?車は?」

「ああ、歩いてきたの。案外優くんの家から近かったからさ」

「あ、そうなんですか」

「うん、歩いて10分くらい」

10分!?ものすごく近所じゃないか。

「すごい近所に住んでたんですね、僕ら」

「ふふ、そうだね」

そして、本当にすぐ双葉さんの家に着いた。

ちょっと古めのアパートの2階、201号室が双葉さんの家だった。

「さ、入って」

「お邪魔します」

双葉さんの部屋は質素な感じだった。その中でもギターがすごく目立っていた。

「あれがさっき言っていたアコギですか?」

「そうだよ。いつも一人で弾いてるの」

「じゃあ早速……聴かせてください」

「うん、わかった。なんの曲がいい?なんでもいいよ」

「じゃあ…スピッツの「シロクマ」で」

「お、私の好きな曲じゃん。わかった。じゃあ適当に座って」

「はい」

僕は床に座った。双葉さんはギターを取り出し、試しにギターを鳴らし始めた。

「こんなもんか。よし、じゃあいくよ」

双葉さんはギターを弾き始めた。イントロからすぐに引き込まれていった。

「慌ただしい毎日、ここはどこだ……」

相変わらず双葉さんの歌声は美しかった。

そして、曲はサビに入った。

「今すぐ抜け出して、君と笑いたい、まだ飛べるかな」

高音はもっと美しかった。僕には語彙力が全くないのでそれしか言えない。ただ、本当に双葉さんの歌声はかわいらしく、美しかった。

「どうだった?」

歌い終えた双葉さんが僕に聞いてきた。

「すごくよかったです!ギターもすごく上手いし、本当に歌手としてやっていけますよ。お世辞抜きで」

「ありがとう。でも最近はロックな曲にハマっててね、前はスピッツの中でもポップな曲とかバラードが好きだったんだけど、最近は「8823」とか「放浪カモメはどこまでも」みたいなロックな曲を聴くようになったんだよね。もちろん今でもポップな曲は好きだけど。だから今度はエレキを練習したいと思ってるんだよね」

「あ、じゃあ今度僕のエレキ借してあげましょうか?」

「え?いいの?」

「もちろんです」

「ありがとう」

ここで、なぜか双葉さんの顔から笑顔が消え、悲しそうな表情を浮かべた。

「どうかしましたか?」

「うん……ちょっと真面目な話していい?」

それまでの雰囲気とは一変して僕は戸惑った。

「は、はい……」

そして、双葉さんはゆっくり話し始めた。

「私ね、働いてないの」

「私今年22歳になるんだけどね、未だに働いてないの。なんとか職を探そうと頑張ってるんだけど、前に働いてたときみたいに長続きしないんじゃないのかとか、職場での人間関係とかが不安で、正直言うと働きたくない」

双葉さんは泣きながら話す。

「ごめんね。ほんとダメ人間だよね、私」

僕ははっきり言って、なんだそんなことか、と思った。

「大丈夫ですよ。双葉さんは不安を感じながらも職を探そうと頑張ってるんですよね?それだけで凄いことだと思いますよ。だからそんなに悲観的になることはないです」

「優くん……」

すると、突然双葉さんが抱きついてきた。

「ちょっ、双葉さん!?」

「優くん、ありがとう。私頑張るね」

双葉さんは僕の身体から離れると、満面の笑みを浮かべていた。

「ま、まぁ元気になってよかったです」

「うん、ありがと……あ、そうだ!」

「なんですか?」

「バンド組まない?」

「え!?」


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