第1章「出会い」3
次の日の午後1時、僕は駅前へと向かった。辺りは大勢の人で賑わっている。
10分ほどすると、「優くーん!」
双葉さんの声が背後から聞こえた。
振り返ると、双葉さんが手を振りながらこっちへやってきた。双葉さんは膝に手をついて苦しそうに息を切らしている。
「ごめんね……遅れちゃって……」
「いえ、僕は大丈夫ですけど、双葉さんは大丈夫ですか?」
「うん…….大丈夫。ごめんね、遅刻してることに気づいて急いで来たから……」
双葉さんは一息ついて、よし、と言った。
「じゃあ行こっか。ついてきて」
「はい」
僕は歩いている双葉さんを見た。今日は白いカーディガンに薄ピンクのシャツ、白のフリル付きスカートとおしゃれな格好をしている。
「双葉さん、今日おしゃれですね」
「そう?ありがとう」
その後は特に会話もなく、しばらくして、双葉さんと僕は、「chérie」と言う名前の喫茶店へとやってきた。
「ここ、お気に入りのお店なんだ。ちなみにお店の名前は「シェリー」って読むんだけど、意味はフランス語で「愛しい人」って意味なんだって」
双葉さんが笑顔で言った。
「優くんには愛しい人はいる?」
実は双葉さんが好きだなんて口が裂けても言えない。
「……いませんね」
「そうなんだ。実は私もいないんだよね。彼氏募集中」
そう言って双葉さんは苦笑した。
僕たちは席に着いて、双葉さんがメニュー表を手にとって口に手を当てて考えている。
「んー、どれにしようかな。あ、先に決めちゃう?」
そう言って双葉さんは僕にメニュー表を差し出してきた。
「いえ、双葉さんが先に決めてください」
「そう?わかった」
その時、
「いらっしゃいませ」
店員が水を持ってやってきた。
「ご注文お決まりになりましたら、ボタンを押してください」
そう言って、店員は去っていった。
「どれにしよっかなー……あっ、これよくない?」
双葉さんはいちごパフェを指差して僕にメニュー表を見せてきた。
「あ、いいですね」
「だよね。じゃあこれにしよ。それじゃあ、はい、優くん決めちゃって」
「じゃあ……僕もいちごパフェで」
「いちごパフェにするの?わかった。じゃあ店員さん呼ぶね」
双葉さんはボタンを押した。
パフェを待っている間、僕はやっぱり双葉さんのことが気になって聞いてみることにした。
「あの……なんでここまでしてくれるんですか?まだ4回しか会ってないし、それにあんまり喋ってもないのに食事にまで誘ってくれるなんて……」
「え?うーん」
左手にあるカウンターの方を向いていた双葉さんは僕の方を向き直って、曖昧に答えた。「なんでだろ。私にもわかんないな。ただ、悪いことはしないから安心して」
双葉さんはそう言って笑った。
「は、はい」
すると、双葉さんは頬をついて言った。
「あ、強いて言うならナンパかな?」
「え!?」
僕は思わず大きい声を出してしまった。近くの席に座っている2、3人の人が僕の方を一瞬チラッと見た。
「なーんて。冗談冗談」
「そ、そうですよね……」
その後は特に会話もなく、気がつけばお互いパフェを食べ終わっていた。
「じゃあそろそろ行こうかな」
双葉さんはそう言って席を立った。僕もそれに続いて席を立った。双葉さんがレジで会計をすませると、僕たちは店を出た。と、ここで双葉さんが一言。
「あ、そうだ。連絡先交換しない?優くんとはもっと仲良くなりたいし……」
僕は別に構わないと思ったが、やはり気になるのでもう一度聞いてみた。
「いいですけど、本当にいいんですか?まだ会ってからそんなに経ってない男に電話番号教えても……」
すると、心なしか双葉さんの表情が一瞬曇ったように見えた。
「い、いいの。優くんは悪い人には見えないし、それにスピッツが好きな人と友達になりたいから」
「そうですか……わかりました。これ、僕の番号です」
「ありがとう」
僕たちは連絡先を交換しあった。
「じゃあ、また電話かメールするね」
「わかりました」
「じゃあね、優くん」
そう言って、双葉さんは帰っていった。
「友達になりたい、か……」
僕は今まで友達と呼べる者がいなかった。友達が出来るのは嬉しい。今は素直に喜んでおこう。