第1章「出会い」2
1週間後、もしかしたらまたあの人に会えるかもしれないと思い、レンタルショップに向かった。店内を見渡し、スピッツのコーナーも見てみたが、あの人は居なかった。仕方なく帰ろうとすると、あの人の姿が見えた。僕はスピッツのCDを探すふりをして、あの人が僕に気づくのを待った。あの人が、スピッツのコーナーに近づいてくる。そして、あの人の声が聞こえた。
「あ。君、よく会うね。スピッツ好きなの?」
振り向くと、あの人が立っていた。僕は緊張気味に答えた。
「は、はい……。そうです」
「そうなんだ。私もスピッツ好きなんだよね。私は大原双葉。よろしくね」
そう言うと、双葉さんはニコッと笑った。
まさか自己紹介されるとは思わなかったが、僕は反射的に答えた。
「え、偶然ですね。僕も大原って言うんです。大原優です」
「へぇー、そうなんだ。あ、そうだ。ちょっと話でもしようよ」
「話?」
「うん。ちょうど暇だからさ。いいかな?」
僕は完全に双葉さんに惹きこまれていった。
「は、はい……いいですけど」
双葉さんは出口を指差して歩き出した。僕は双葉さんについて行った。外に出ると、双葉さんは近くにあったベンチに座った。僕も双葉さんの隣に座った。
「私もね、スピッツ好きなの。あ、さっき言ったか」
そう言って彼女は笑った。
「君……優くんでいいかな?優くんはなんの曲が好きなの?ちなみに私は砂漠の花」
「そ、そうですね……強いて言うなら僕はスターゲイザーですかね」
双葉さんは手をパンと叩いて言った。
「スターゲイザー!あれいいよね!でも私まだまだにわかなんだよね。知ってる曲もあんまりないし。優くんはどう?」
僕は自慢気味に答えた。
「一応マイナーな歌とかアルバムは知ってます……「オーロラになれなかった人のために」とか」
「オーロラ?何それ、なんかロマンチック」
双葉さんが目をキラキラさせている。
「ミニアルバムなので5曲しか入ってないんですけど、全曲にオーケストラアレンジがされているのが特徴なアルバムです。今はスピッツはバイオリンとかはあんまり使わないので結構レアですね」
「へぇーそうなんだ。今度買おうかな」
「おすすめですよ」
双葉さんはうなずいて、あ、そうだというような表情をした。
「そういえば優くんって何歳?」
「18歳です」
いつのまにか、双葉さんと普通に喋れている自分が居た。
「へぇーやっぱり若いね!私なんてもう22だよ」
「22歳って、双葉さんも若いじゃないですか」
「いやぁ、もう若くないよ。おばさんだよ、おばさん」
双葉さんは苦笑いしながら言った。
「22歳ってことは、大学4年生ですか?」
すると、途端に双葉さんの表情が暗くなった。
「あ、大学は……行ってないんだ。やめちゃったの」
「え?なんで……」
双葉さんは僕の問いかけに答えず、話を逸らした。
「あ、そうだ。今度食事にでも行かない?おごるからさ」
僕は嬉しくも感じたが、逆に疑問も感じた。この人、やたらとグイグイ来るな……まだ3回しか会っていないし、そんなに会話もしていないのに、と。
でも、やっぱり嬉しかったので、僕は承諾した。
「は、はい。いいですよ」
「じゃあ明日の1時、駅前に集合ね」
「はい。わかりました」
「じゃあ、またね」
双葉さんは立ち上がり、こちらを向いて手を振りながら去っていった。まさか食事に誘われるとは思わなかったな……とにかく、明日が楽しみだ。