第1章「出会い」1
僕は大原優。都内の私立高校に通うさえない男だ。クラスでは地味な存在で、今まで「友達」というものに出会ったことがない。いつも独りだ。
いや、友達はいる。それは「音楽」だ。特にスピッツが大好きで、よくレンタルショップで借りたり、バイト代が溜まったら通販で買ったりしている。僕が特に好きなのは「さざなみCD」というアルバムだ。そんな僕は、今日もスピッツのCDを借りようとレンタルショップへ向かった。ここは比較的大きな店で、スピッツのCDは結構多く揃っている。僕はいつも通りスピッツのコーナーへ行き、いつも通りCDに手を伸ばすと、誰かの手に触れた。
「あ、すみません」
僕がそう言って相手の方を振り返ると、とても美しい、というか、可愛らしい女性がいた。「あ、こちらこそごめんね」
女性は笑顔でそう言うと、棚の方に向き直って、スピッツのアルバム「ハチミツ」を手に取った。
「このアルバム好きなんだよね……。よし、今日もこれにしよ」
女性はそう言うと、レジへ向かっていった。
僕は今まで他人に興味がなかった。しかし、彼女を見たその瞬間から僕は彼女に惹かれた。可愛らしい笑顔、声。僕は早くも勝手に「恋」をしてしまった。彼女もスピッツが好きなんだろうか。もしそうだとしたら……。と、色々空想しているうちに、僕は今日何を借りようとしたのか忘れてしまった。今日はとりあえず前にも借りた「ハヤブサ」を借りて帰った。
その日の晩、ベッドの中で僕はあの人のことを思い浮かべていた。今度もまた会えるといいな。そう思いながら眠りにつくのであった……。
1週間後、CDを返す日がやってきた。僕はレンタルショップへ向かった。返却口にCDを返すと、僕はまたスピッツのコーナーへ向かった。僕は熟考の上、「空の飛び方」を借りることにした。そして「空の飛び方」を手にとろうと手を伸ばすと、また誰かの手に触れた。「あ、すみません」そう言って相手の方を振り返ると、そこにいたのはあの人だった。「あ、ごめんなさ……あれ?君はこの前の……」
僕は緊張して声が出なかった。
「ごめんね。私もそのアルバム借りようとしたけど、今週は君に譲るよ」
それは悪い気がした。
「い、いえ。今回はあなたに譲ります」
「そう?嬉しい。ありがとう」
そして次の一言で僕はどきっとした。
「君って優しいんだね」
返す言葉が見つからなかった。
「い、いえ……そんなこと……」
「じゃあ今週はありがたく譲らせてもらいます」
そう言って、女性は去っていった。
それにしても可愛い。こんなにも人を好きになったのは初めてだ……あれ?よく考えたら僕、ヤバい奴じゃないか?僕はなんだか虚しい気持ちになり、この日は何も借りずに帰ることにした。