08 第八番
右手に微かなぬくもりがあった。それに誘われるように目を開けると、涙にぬれた母さんの顔が見えた。
「ウォルフ!」
俺の手を握っているのは、どうやら母さんらしい。俺の手を両手で包みこんで、何かを言おうとしたみたいだったが、言葉にはならずに泣いてくず折れた。辺りを見渡すと、そこは白くて明るかった。大きな窓辺には黄色の人がいた。その人はやんわりとした微笑みを浮かべた。
「三年ぶりの故郷だそうですね。どうですか」
俺はぼやけている意識の中でつぶやいた。
「右手が、あったかい」
その暖かさは、俺に現実を教えた。
「俺、もう死んだかと思ってた。生きてるんだ」
「そうですよ」
言ったのは、懐かしい声。フェレットか。
「死ぬのが運命かと思ったんだ、あの時は。でも、助かったんだな。よかった」
思い出せば体を駆け巡る感覚。血液が失われていく恐怖、死に向かう恐怖。それを受け入れる以外に道がない。そのときに思ったことはただ一つ。生きたい。
「よかった。俺、助かって本当によかった。――怖かったよ、母さん…!」
「ウォルフ!」
母さんが俺に抱きついてきた。母さんは結構綺麗な方だけど、今日の顔はくしゃくしゃだった。俺の顔もたぶん、くしゃくしゃだった。