07 第七番
「早く! 誰かおいでませんか、開けて下さい!」
例祭でガーデンクォーツ全員が集まっていた神殿の門を、昼前に誰かが叩いた。神官は門を開け、息をのんだ。
「ウォルフ!」
三年前に村から逃がしたできそこないが、血の気のない顔で黄色の男たちに抱えられていた。できそこないの名前を聞いた村人たちは囁き合った。ウォルフを抱えた男たちは叫んだ。
「早く医者を!」
神官は急いで医者に掛け合い、ウォルフを病院に担ぎ込ませた。
ざわつく神殿内で、男たちはヘリオドールだと名乗った。神官はフェレットと名乗り、ヘリオドールの腕に抱えられている物に目を止めた。布がかぶせられた、四角くて薄いものだった。
「失礼、それは?」
神官の問いに、ヘリオドールの長はそれを大切そうに抱えた。
「ウォルフ殿が描かれた楽絵です」
神殿内にざわめきが広がった。ヘリオドールは言った。
「ウォルフ殿はあなた方のように植物の命を歌わせることはできなかった。しかし、人の命を歌わせることはできた。これは、ウォルフ殿の命で描かれた楽絵だ」
部族長が楽絵の布を取り払うと、音楽が流れ出た。神官は後に評する。それは不快な音などではなかった。ただただ痛々しい、悲しみを歌い上げた命の挽歌だった、と。村人たちは息をのみ、絵に目を移して口を覆った。
「なんて、赤黒い!」
一色の濃淡だけで描かれた、息をしていない死んだ森。倒れた木にひび割れた土。音楽をそのまま映し出した、見るに耐えない傑作品。村人たちは目をそむけ、耳を塞いだ。ヘリオドールの顔がしかめられた。
「目をそむけなさいますな。しかと聴いて頂きたい。これはこの世界の今の姿だ。これでもまだ足りないというのなら、先ほどお連れしたウォルフ殿の辟易した様を見るがよろしかろう」
初めに声を発したのは神官だった。
「世界はどれだけの血を失い、苦しんでいるのでしょうか」
「あなたのことはウォルフ殿から聞いている。あの子の言った通りだ、あなたは目をそむけない」
「しかし、事を悟ったのはあの子が先のようだ。愚かにも、わたしは顔料のありように気付いていなかった」
「わたしたちは何も楽絵のすべてを否定しているわけではありません。あれは美しい。それは命の美しさに他ならない。それを伝え説くとき、楽絵は非常に良いものだ。だからこそ、使い方を誤ってほしくないと感じるのです」