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02 第二番

「ウォルフ、村を出る気はありませんか?」

「え?」

 フェレットの言葉に、俺は思わず聞き返した。自分で思ったよりも大きな声が出て、礼拝堂に響いた。フェレットは言った。

「あなたはここにいるからそんなにもぼろぼろになる。村を出た方が良いと、わたしは思います。今のあなたなら、絵を売ってなんとか生計も立てられるでしょう。どうですか?」

「いや、でも、母さんは……」

 学校で沢山の人と関わってほしいと願ったのは、誰であろう両親だった。だから俺は、学校での自分の扱われ方を言っていない。そのおかげで両親は、愛する息子は村中から異端児扱いされながらも真面目に頑張って二人の願いを叶えてくれていると信じていた。

 母さんと父さんは俺に気を遣って、俺の前では決して楽絵を描かないし飾らない。心苦しくて息苦しい気づかい。それは俺の本望じゃなかった。それでも、必死に俺を愛そうとしてくれている、居心地をよくしようとしてくれる。そんな両親に、出て行くと言う勇気などなかった。

「では、わたしが話をしましょうか」

 俺は顔をはね上げた。フェレットがそれで、俺の本心に気づいてしまった。優しい笑みを浮かべて、こう言った。

「その口ぶりだと、村を出て行くことに抵抗はないようだ。だったら、お手伝いしますよ」


 家に帰ると、俺は母さんのぎこちない笑みに迎えられた。

「こんな時間にどうしたの?」

「え、っと、まあ、いろいろ……」

 俺は答えることができず、後ろから口を開いてくれたフェレットに全てを押し付け、自室へ逃げた。母さんは何かを押し殺して笑んでいた。

 じっとしていると落ち着かなくて、俺は荒々しく荷物をまとめた。手に取った革の鞄に、小遣いと画材を次々と押し込んでいく。今まで使っていたスケッチブックは今日捨てられたから、代わりに予備に買っておいた真新しいものを。そして、鉛筆にコンテに水彩・油彩用の絵の具、描きためてあった何枚かの絵も詰め込んだ。

 一通り鞄に入れ込んで、俺は息をついて窓の外を見つめた。外は高い空に太陽が光ってとても綺麗だった。木の葉は家々の壁にまだらの影を落としながら、風に身を任せて揺れていた。この綺麗な空の下なら、鞄にぶち込んだ鬱憤も、きっと風が吹き飛ばしてくれる。俺は鞄のボタンを閉めた。村の外で絵を描こうと鞄を開いたら、少しずつ外へ出していこう。そう、思えた。

 トントン、と部屋のドアがノックされた。開ければフェレットがそこにいた。これで、この村から逃げられる。

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