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疑惑



「ふたりでどこか出かけない?」

 誘ったのは、まどかのほうだった。

 翌日、教室で時田を見つけると、まどかは早速話を持ちかける。

 時田は驚いたのか、目をしばたかせる。

「え……いつ?」

 その反応がおもしろくて、つい笑ってしまいそうになる。

「今日の放課後。制服デートってやつ」

「なんでまた、急に……」

 こらえていたものの、やはり笑ってしまい、まどかは胸の内をそのまま告げる。

「したことないなあって思ったから」

 いぶかしげな時田の視線を、やんわりと返す。

「イヤなの?」

「……いいけど」

 まどかをじっと見つめた。

 一瞬、まなざしが変わったことに、まどかも目をしばたかせる。

「……おまえ、身体は平気なのか?」

 どうやら欠席したことを、心配していたようだ。

「うん、もうすっかり」

 身体も、それから心もすっきりしている。

 仁王立ちしながら頷くと、

「だから放課後、ちゃんと空けておいてね」

 身をひるがえした。

「おう」

 時田の返事が耳にとどくと、まどかは自分の席に戻った。


 授業が終わり、帰りの準備を済ませる。だが、肝心の時田の姿がなかった。

「時田くんだったら、さっき出ていったみたいよ」

 葉子が教えてくれたので、まどかも同じように後を追う。

 なんとなく、予想はついていた。

 場所も、それから用件も。

 案の定、校舎裏で、他の女生徒からの告白だった。

「……悪いけど」

 律の騒動の後、一度増えたものの、まどかと復縁したことが知れ渡ると、数は大分減っていた。

 それでも、ゼロではない。

 かといって、ここで出て行くのも、なんか違う気がする。

 やっぱり、教室で待とうと背を向けた時だった。

 身体が急に、むずむずしてくる。


 ――やばい


 思いはするものの、自分ではどうにもならない。

 自分のことなのに。

 校舎に入る時間もなく、まどかはその場で、元に戻ってしまった。


 ――まずい、まずいまずい。これはまずい。


 半分、パニックになっていた。

 白いうさぎのまま、犬にでも見つかったら、ひとたまりもない。

 焦ってどうにかしようともがいていると、

「ん?」

 よりにもよって、時田が来た。

 まどかは視線を逸らせず、動けずにいた。

「……うさぎ?」

 しゃがみこんで、まどかを見つめる。

 それからひょいと抱きあげた。

「落としものーーじゃねえよなあ。ってことは野良犬ならぬ野良うさぎってやつか?」

 抱きあげて、あたりを確認する。

 次に目を向けたのは、制服だ。

 不自然に散らばっている。

 そのままにしてほしいけど、そのままではまずい。

 かといって、何も思いつかない。

 よけいに動けなくなったその時だった。

「あ、時田くん。まどか来なかった?」

 顔を出したのは、葉子だ。

 走ってきたのか、少し息を切らしている。

「林原? いや会ってねえけど」

 まどかは助けを求めるように、葉子を見た。

 目が合う。

 葉子の顔色が、一瞬にして変わった。

「あ、え、と、時田くん。その、うさぎ……さん、は?」

 多少、動揺は隠せなかったものの、時田は気にする様子もなく、答える。

「あ、こいつ? なんか居たんだよな、ここに」

 佐々木の? と訊かれたものの、そう言うわけにもいかず、葉子はそのまま下に目をやる。

 視界に入ったのは、まどかの制服だった。

 やっぱり、と、つぶやいたのが聞こえて、すぐさま拾いにかかる。

「それもさ、なんか脱ぎ捨ててあったみたいで」

 なんか誤解されそうで、触われねーし、と、時田が目を逸らす。

 葉子がとっさにしゃがみこんだ。

「あ、あたし片づけておくから。時田くんはまどかを待っててあげて。それとそのうさぎさん」

 その子も、私が連れて行く。

 葉子はそう言いたかったのだろう。

 けれど、言えなかった。

「あ、いいわ。こいつはおれが預かるから」

 先に答えられてしまったからだ。

「じゃ」

 それだけ言うと、さっさと校舎に入っていってしまった。

「……ごめん、まどか」

 制服を抱えた葉子が、申し訳なさそうにつぶやいた。


 教室に戻ったものの、幸か不幸かまどかが元に戻る気配はなかった。

「おせーな、あいつ。どこ行ったんだ?」

 荷物はあるから、先に帰るわけにもいかない。

 時田は一度まどか(うさぎ)をおろして、頭をなでた。

「やっぱ食うとしたら、にんじんか?」

 持ってねえし、と、荷物をあさる。

 出てきたのは、チョコレートだった。

「これ、食わせていいのか?」

 顔のあたりでちらつかせると、まどかはチョコをキャッチした。

「ふうん。においでわかんのかな」

 興味深げに様子をながめる。

 時田はそのまま、包みを開ける。それから慎重に、はしっこだけを指に乗せてくれた。

 なめると、あまくておいしかった。

「……なあ」

 時田がふと、うさぎに向かって言った。

「行くとこないなら、おれんとこ、来るか?」

 まどか(うさぎ)は顔をあげる。

 その瞳は、なんだか切なそうに見えた。

「おまえさえ、イヤじゃなければ」

 まどかはまばたきをくり返す。

「なーんてな」

 にやりと、時田が笑う。

 その時だ。

「あ、時田くん、まだいた」

 今度はクラスの女子だった。

「生物の先生が呼んでたよ。レポートに不備があったって」

「マジ?」

 まどかはとっさに鞄の影に隠れる。すると時田は荷物の中にまどかを入れて、

「いいか。すぐ戻ってくるから、大人しくしてろよ」

 まどかの頭を、もう一度なでる。

 教室から出ていくと、入れ替わりで葉子が来た。

「まどか、まどかいる?」

 すぐに顔を出すと、制服を持ってきてくれた。

 とたんに、元の姿に戻る気配がする。

 そして、その通りになった。

「外見てるから、着がえちゃって」

 葉子の言葉にあまえて、まどかは着がえをすます。

「――ありがと。助かった」

「ううん、こっちこそ。遅くなってごめん」

 時田くんが戻ってくる前に、退散するね、と、葉子は頷きながら言う。

「うさぎはーーなんて言おう」

 急にいなくなったら、心配するんじゃないか。

 そう思えるくらい、彼の手はやさしかった。

「そのことなんだけど、まどか」

「ん?」

「言わなくていいかも」

「どういう意味?」

 葉子が腰かけると、自身の顎に手をそえる。

「なんとなく、だけど、時田くん、知ってるような気がする」

 まどかのこと。

 言葉にはしないものの、まなざしが、そう語っていた。

「え、だって、でも――」

「確信がなかったし、ちょっとびっくりしたから、さっきはああしたんだけどね」

 ふふ、と、葉子が笑う。そのまま立ちあがった。

「どっちにしろ、彼ならきっと大丈夫だよ」

 また、明日ね、と、葉子は鞄を持って出て行く。

 混乱しているのは、まどかだけだ。


 ――行くとこないなら、おれんとこ、来るか?


 ――おまえさえ、イヤじゃなければ。


 ふいによみがえる、その言葉。

 同じことを昔、だれかに言われた気がする。

 いつ?

 どこで?

 思い出そうとした、その時だ。

「おい、どこ行ってたんだよ」

 レポート用紙を抱えて、時田が戻ってくる。

「あ、ごめん。ちょっといろいろあって」

 なんとなく、彼の顔を見ることができなかった。

「いろいろ、ね。こっちはこれ再提出だわ。明日までに」

「え、ホントに?」

 覗きこむと、けっこうな量があるようだ。

「ま、なんとかなるだろ」

「――手伝う」

 とっさに、まどかはそう言っていた。

「いやいやいや。今から出かけるんだろ」

「あんたの家で、勉強会。これも立派なデートでしょ」

 紅茶とお菓子つけてね、と、まどかは自分の荷物を持つ。

 それから先に、階段をおりていった。


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