表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最強の魔術師は新たな目標を得た。

思いつきでiPadのメモ帳に書き殴った文章。

放置プレイもアレなので、短編にしてみました(・ω・`)

 

 彼は、ちっぽけで弱い子供だった。


 身体は健康。

 食欲も年相応。

 裕福ではないが家族仲も良好。

 仲の良い友達もそれなりにいる。

 いたって普通の子供。

 何の取り柄もない、弱い子供。


 この世界には、ヒトでない者達――魔物という生き物が存在する。

 魔物は普通の人間以上の力を持っており、魔術や戦闘の訓練をそれなりに積んだ者でなければ太刀打ちはできない。

 もし彼が魔物の群れのど真ん中に放り出されれば、間違いなく死という結末が約束されるだろう。


 でも、だからどうしたというのか。


 自分は確かに弱い。

 だが、人間社会の中で普通に生きていく分には、その弱さを気に病む必要はない。

 もし理不尽な暴力を振るおうとする者がいたとしても、そんな暴力から自分たちを守ってくれる立場の人がちゃんといる。まして、彼らは金銭的見返りを求めて、その立場にすすんで立っているのだ。これに甘えない手は無いだろう。


 そうだ。自分たちのことは、自分たちではない他の誰かが守ってくれる。


 たとえ弱くたって、力が無くたって、自分たちはただ一生懸命生きていればそれでいい。


 彼はそう思っていた。




 ――しかし、魔物達の起こした理不尽を突然目の前に突きつけられた時、その価値観は一変した。




 目に映るのは、かつて彼が両親や妹、友達、そして色々な人達と過ごしてきた大切な故郷"だった"場所。

 今は、見渡す限りの血河屍山となっていた。

 みんな、押し寄せた魔物の群れに殺された。彼だけが生き残った。

 ある者は頭からバリバリと食い尽くされ、ある者はひと殴りで挽肉同然の有様にされ、ある者は五体を分断された。


 町の守衛を果たすはずだった魔術師たちは、守ってくれなかった。彼らはあまりの魔物の数に恐れをなし、逃げてしまったのだ。ここにある死体は皆、町の住人のものである。


 どうしていいか分からずに町を虚ろな目でさまよっている途中、千切れて転がっていた誰かの腕につまづいて転ぶ。

 その薬指にはまった指輪。

 それは父が若い頃、自らの想いとともに母へプレゼントしたという品に他ならなかった。


 彼は泣き崩れ、そして絶望した。






 彼はこの日、自分という存在の無力さを初めて痛感した。

 そして思った。

 強くなろうと。

 自分と、自分の守りたいものを守れる強さを得ようと。

 あのむごたらしいワンシーンを二度と見ないで済むよう、自分が強くなってやろうと。


 彼は努力した。

 有名な魔術師から教えを受け、そのことごとくを自分のものにした。

 剣術や体術といった武術にも必死で取り組んだ。

 彼は自らを高めるために、あらゆる努力を惜しまなかった。


 そして、彼はその高めた力を遺憾なく発揮し、人間に害をなす悪しき魔物を次々と塵芥に変えていった。






 やがて手足が伸びきった頃には、彼は最強の魔術師の一角としてその名を轟かせていた。


 絶大な威力を誇る攻撃魔法を操ることから【破壊神】という二つ名で呼ばれ、周囲に恐れられている。


 街一つを容易に滅ぼす力を持った強大な魔物を、一瞬で消し炭にできる力を持った最強の魔人。

 それが、世間に伝わる彼の噂だった。尾ひれが付いている点も多々あるが。


 だが、その代償に――




「あの、すみません、道を教えてくれませ――」


「ひっ!? ご、ごめんなさい!! 俺、なんか知らん間にやらかしましたか!? ごめんなさい!! 生きててマジでごめんなさい!!」




「あ、そのボードゲーム知ってますっ。僕、前の町で見たことが――」


「う、うわ!! な、なんですか!? このボードゲームが欲しいんですか!? ドウゾドウゾ、差し上げます! 差し上げますからどうかイジメないで下さい!!」




「あの、他に席がないので、隣に座らせてもらっても――」


「は、はい!! どうぞ遠慮なく座ってください!! ていうかむしろ席全部お譲りします!! 俺らは立ち食い派なので!!」




「あのー、そこのボク? どうしたの? 迷子? お母さんは一緒じゃな――」


「びえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!」




 ――人間関係がうまく作れなくなった。


 彼はあまりに力をつけ過ぎたせいで、周囲の人々から恐れられ、遠ざけられるようになってしまったのだ。


 上記を見れば分かるように、普通に話しかけただけでも、あからさまに怯えきった態度を見せてくる。別に取って食べようというわけでもないのに。


 彼は人間が嫌いじゃない。むしろ好きだ。性格や態度だって粗野ではなく、穏やかであると自覚している。強くはなったが、戦いや荒事は好きではない。


 ……うん。力さえ差し引けば、人畜無害な人間だと我ながら思う。


 だからこそ、彼はそんな周囲の反応がなおさらショックだった。


 確かに彼は強くなったが、それでめでたしめでたしではなかった。

 神様はイジワルなのだ。欲しいものを手に入れても、また次に欲しいものが生まれる。それを手に入れた後にも、また別の何かが欲しくなる。そうやって決して満たされないように、ヒトをお創りになられたのだ。






 そして、「強くなる」という目標を達成した彼に生まれた、新たな目標。


 それは、友達を作ることだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ