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勇者の妹君  作者: 伊藤桜子
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兄妹

ヴァルツ王国、マグレーディ村。

王都より遠く離れ、国の果て、東の森に隣接したこの村はかつて国から捨てられた村と言われていた。

東の森には魔獣も多く、村を囲むのは木の杭ばかり。

そのため獣害や魔素による作物への害も多かった。

資源と言えば、強い魔素のある森には珍しい薬草はあった。

しかし魔獣のリスクを負って採集する程のメリットもなく、討伐隊や貴族の援助もないまま。

かつてあった名前はいつしか忘れ去られ、人々よりマグレーディ<不毛の地>村と呼ばれるようになる。


状況が変わったのは10年程前だ。

ある日、村へ流れの家族がたどり着いた。

元冒険者のその夫婦と二人の子供。

夫は剣の腕前で魔獣を制圧し、妻は浄化の魔法により土地を清めた。

それによって森の浅いところまでは大人であれば行けるようになり、薬草が採集できるようになり、村の作物もよく育つようになった。

はじめはよそ者に警戒していた村人であったが、夫婦の人柄も良く、ついには夫婦は村にはなくてはならない存在となっていた。


二人の子供は男の子と女の子。

兄は母親譲りの濃い蜂蜜色の髪と新緑の瞳。

妹は父親譲りの濡れたような黒目黒髪。

二人は才能に恵まれていたが、妹は体が弱く、過保護な兄に世話を焼かれる日々を送っていた。




静かな午前、私の部屋の窓からは柔らかな陽が差し込む。

「レイティシア、これでいいわ。強化しておいたから、当分は大丈夫よ」

濃い蜂蜜色の髪、新緑の瞳の母、セシルの白い手から赤い石のついた指輪を受け取る。

「ありがとう、母様。」

指輪からは暖かな気配を感じる。

それを右手の中指につけると、体のだるさが和らいだような気がした。

「…もうすぐ誕生日でしょう?兄さんーーアレクシスに、そろそろ話そうかと思ってるの」

「そう、…そうね。一度皆でお話をしようと思ってたところよ。でもアレクシスは、あなたから聞きたいでしょうね」

「うん。そろそろ森のリーファが見頃だし、きっと見に行こうって誘われるから。そうしたら、話そうと思う」

「相変わらずね、あなた達は」

母はまぶしそうに笑って、私を抱きしめた。

「きっともうすぐその誘いが来るわ。準備しなきゃね」

母の予感は良く当たる。そういう事であれば、兄はすぐにでもここへ来るだろう。

「お昼ご飯をバスケットにつめておくわ」

「うん、ありがとう」


ーーコンコン


「シアー。はいっていい?」

耳触りの良い少年の声が聞こえる。アレクシスだ。


「はーい。どうぞ」


「ただいま!あ、母さんもいたんだ」

濃い蜂蜜色の金髪、新緑の瞳、青年になりかけの危うい美しさすら兼ね備えた兄は、黙っていれば美少年だ。

「おかえりなさい。まったく、お邪魔虫はランチの準備をしなくちゃいけませんからね。すぐに退散いたしますよ」

「あっじゃあ…」

「バスケットに二人分、つめておきますから、あなたはデートのお誘いでもしなさい?」

「…さっすが母さん!シア!でかけよう!」

「はいはい、着替えるからリビングで待ってて」


アレクシスは黙っていれば美少年なのだが、家族ーー特に私の前では立派なシスコンと化し、残念なイケメンとなってしまう。

だがその残念さんの…


「あ、アレクシス」

「ん?」

「おかえりなさい」


とびきりの無邪気な笑顔は、最上級だ。

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