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天雲秘譚  作者: 八剱ユウ
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―――――

こんな舞台裏の話、どうでもええ、という方も居るかもしれませんが、舞台裏、もしくは舞台袖の話です。

 幽世と現世が入り混じる、無限なる漆黒の虚空に、無数の星が緩やかに浮遊している。

 ちらちらと輝きを放つそれらの中に、一段暗く輝く星があった。

 青銀と朱金が入り混じった美しい星だ。

 赤き大地シリウス、と、その星に生きるものたちは呼んでいる。

 そして、卵を暖める親鳥の如く、一体の竜神が星を抱くようにその翼を広げていた。



 数多あまた存在する創世記や太古から続く信仰の根源に、人は必ずその姿を見出す。

創世はじめの水”、または“元始の光”、と人は畏れ、崇めた。

 シリウスの真の支配神であり第一の創造主、≪朽ちぬ黄金≫のりゅうである。



 途轍もない巨躯は落ち着いた黄真珠色に輝き、夜空のような皮膜を持つ翼は緩やかに星を覆っている。

 彼のものは目を閉じながら、全てを見て、聞いていた。

 笑い会う人の笑顔、手負いの獣の息遣い、羽化したばかりの虫の羽ばたき。

 全てを居ながらにして見渡しているのだ。


『崩れた。巳左幾が。とうとう』


 泣いているようにも聞こえる、低い声。

 ゆっくりと目を開く。現れた黄金色の双眸には底知れぬ叡智が閃いている。


『しかし、時を誤ればそれだけでは済むまい』


 唐突に、第三の声が虚空に響く。遅れて、龗の巨体を取り巻くように、新たなものたちが顕れる。

 各々(おのおの)異なる姿を持つ、龗と同等の四体の神属である。


 一体は、老いてはいるが、荒ぶる力を漲らせる筋骨隆々の体躯に、夜闇の瞳と毛皮を纏う獣面の男神。


 一体は、二対の翼を持ち、燃えるような赤い羽衣ういに孔雀に似た極彩色の尾羽を持つ、翡翠の瞳の鳳の如き姿をとる男神。


 一柱は、銀灰の髪と紫紺の瞳で、骨のような白い肌と額に五つの同色の複眼を持つ以外は姿形こそ人間と瓜二つの、完璧な美貌と豊かな肢体を備えた女神。


 一柱は、鮮やかな白金色の長い髪を持ち、女神と同じく人の姿をとる、一段と強い輝きを湛えた三眼の男神。


 全知全能のこの五大神こそ、天地創造のさいの折、いまだ完成しきらぬ星の呼びかけに応じ集った神客人かみまろうどであり、またの呼び名を常世神という。

 龗は五神がそろうとシリウスを覆っていた翼をゆるゆると開いた。

 朱金の星が淡く煌めく。


『“煉獄”が動いている。かつて無いほど迅速に』

『ああ、早急に手を打たねば浸蝕が手に負えぬほどになろう』

『とうとう餓樹者が現れよったな』

『他の四地はどうか?』

『埜巴多と多汰喇は当面の間は問題無い。ただ、奈加和祈と出津海、…特に出津海には注意せねば』


 五神は、しばし黙した。


『……楔は?』

『残り、三』


 随分と減りよったな、と誰かが呟く。


『祇らもよくやっているが、余裕は無さそうであるな』

『人の中にも勘のいい者は兵を募って防衛に努めようとしているようだが…、楔を持たねば思うほど通用すまい』

『こうなればそなたが導いた“幕無し者”が生きてくる、か』

『……嬉しくはないが。結局のところ、≪眠れる君≫の危惧した通りと成ってしまったのは無念だ』

『だが、朗報もある。サミトナの荒野に極めて資質の高い星を見つけた。しかも、≪眠れる君≫が直々に采配をしたと』


 シリウスの一点を指で指し示す。他の四神は感嘆の声を上げて目を凝らし、そこに居る者を見た。

 すると、シリウスに不自然に波紋が生じた。波紋は見る見る雲に変化し、青銀の海上にて嵐となった。


『各々、もう少し下がりなさい。それ以上近付くと、我等の影響で星が無駄に荒れよう』


 その一言がきっかけとなり、五神は一体、また一体と消え去っていった。シリウス意外にも、彼らが庇護せねばならぬ星はいくらでも存在するのだ。

 その中で、ふと、去ろうとしていた白金の男神を龗が呼び止めた。


『どうしたのだ、金の』


 龗はじっと白金の男神の青い三眼を見つめながら言った。


『そなたと≪くらの番人≫が随分と気に掛けていた者。やはり現れたよ』

『ほう、そうかね?』


 気の無い素振りで応えるが、白金の男神よりも永く存在する龗はこれが表向きだけであるのを見抜いていた。白金の男神もまた、それを解っていての態度であるが。


『まあ、よいわ。我はしばしこの場に止まり、出来うる限り防波堤を築く。そなたもそなたの思うことをすればよいよ』


 龗の言葉に、白金の男神は静かに微笑む。


『ふむ。ではそうしよう』

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