中国の国境の街丹東で北朝鮮を垣間見た話
なんとなく色々な意味で気になるけれど、行くのはちょっと勇気が無い。私達日本人にとって北朝鮮はそういう国だと思います。そんな北朝鮮をチラッと、だけど確かにこの目で見てきた思い出を少し語ってみようと思います。
見てきたと言っても入国したわけではありません。中国の北朝鮮との国境にある街、丹東を旅行した時のお話です。今から五年前の2011年夏のことなので、現在とは異なる部分もあるかもしれませんが、ご了承下さい。
当時私は中国に留学していて、夏休みに中国人の友人と一緒に丹東を観光しました。
丹東は鴨緑江という川を挟んで北朝鮮と接する国境の街です。中国にいながら対岸に北朝鮮が見えるということで、人気の観光地になっています。
川には鴨緑江断橋という、朝鮮戦争の時に破壊されて途中で途切れた橋がそのまま残されていて、それも定番の撮影スポットです。
すぐ奥にその後作られた橋が写っていて、そちらは今でも中国と北朝鮮を結んでいます。
途切れた橋の先、少しだけ見える対岸が北朝鮮です。大きな建物は見えません。何も無いな、という印象です。そんな中で、おそらくここに行った人は十中八九写真に撮っているだろうと思われるものがこれです。
わかるでしょうか。観覧車が見えます。ズームして撮影したものがこちら。たぶん動いていなかったと思います。
北朝鮮側には何も無いのに対し、中国側はまさに観光地といった風情でとても賑やかです。川岸にはホテル等のビルが建ち並び、人が多くて活気があります。
鴨緑江断橋付近でひと通り写真を撮ったら、いよいよメインイベントです。
川岸からでも北朝鮮は見えることは見えるのですが、せっかくだからもっと近くで見てみたいですよね。というわけで、船に乗って川を移動しながら北朝鮮の景色を見に行きました。
橋に着いたらすぐその辺にいるおじさんに船に乗らないかと声を掛けられます。外国人だとぼったくられたりしそうで心配ですが、同行した友人の旦那さんが交渉してくれたので安心しておまかせしていました。
船の乗り場は何カ所かあって、橋のすぐ近くの乗り場からは遊覧船にも乗れます。暗くなったらライトアップも。派手ですね。
私達が乗ったのは遊覧船ではなく、もっと小型のモーターボートでした。
私達は橋から車で少し行った所の乗り場からボートに乗りました。タイミングが合えば何組か乗り合わせるみたいですが、他にお客さんがいなかったので、操縦する人以外は私と友人夫妻の三人だけという貸切状態です。
なお、ボートの上から撮った写真はありません。揺れて撮り難いですし、もし何か撮ってはいけないものが写ってしまってトラブルにでもなったら怖いのでやめておきました。撮っちゃまずいものがあったらそもそも観光なんて出来ないんでしょうけどね。
救命胴着を着て船に乗り込んだらいざ出発! 風を切って進むボートは揺れるので、なかなかスリルがあります。落ち着いて見たいという方は遊覧船がおすすめです。ただモーターボートのいいところは、遊覧船よりも岸に近付けるということです。北朝鮮がすぐそこに!
そうしてボートに乗って北朝鮮を眺めたわけですが、見える景色をひとことで言うとやっぱり「何も無い」でした。
川沿いには畑があるようで、時々農作業をする北朝鮮の人が見えます。建物はほとんど見当たりません。あとはただ草むらが広がっているだけです。
所々には国境を監視する兵士がいます。彼らも船に乗った観光客なんて見慣れているのでしょう。特に反応はありません。と思ったら、ある兵士が私達のボートについて川岸を歩いて来ます。こちらを見ながら。しかもニッコニコの笑顔で。なんかすごく怖いんですけど!
後で聞いたところによると、北朝鮮の兵士はよく観光客からタバコ等を投げてもらったりしているらしく、私達が見た兵士もそれが目的だったのでしょう。
そんなに簡単に物品を移動させたりしていいものなのでしょうか。日本で生まれ育った私は国境というものに馴染みが無いので、不思議な感じです。
満面の笑みの兵士を離れ、ボートはまた進みます。途中で遊覧船とすれ違うと、向こうの乗客達が私達に向かって手を振るので、こちらも振り返します。観光客はほとんどが中国人のようです。みんな楽しそうにしていました。
再び川岸に視線を移すと、放牧されているのか、羊か山羊が草を食べています。
有刺鉄線が張られている場所もありました。それが人の出入りを防いでいるのか、それとも家畜が逃げないようにしているのか、私にはわかりません。ただ有刺鉄線があったのはごく一部で、大部分は柵も何もありませんでした。
ボートから北朝鮮を眺めた中で一番印象的だったのは、水遊びに来ていたらしい子供達です。幼稚園くらいの小さな子達が十人くらい、彼らを連れてきたのであろう大人の女性と一緒にいました。
手を振ってみても、子供達の多くは無反応。ただじっとこちらを見ていました。さっきすれ違った遊覧船の乗客達とは違って、笑顔なんて全くありません。服装も、日本の子供はカラフルな色やキャラクターが描かれたような可愛い服を着ているイメージですが、彼らの服はとてもシンプルでした。色も柄も無し。
その中の一人の男の子が、真っ直ぐこちらを見て腕を動かしていました。バイバイと手を振るのではなく、大きく両腕を動かす変わった動き。まるで、手旗信号でもしているような。もしかしたら何かメッセージを送っているのかもしれないと思いました。でも残念ながら私はそういう知識を持ち合わせていなかったため、彼の伝えようとしていたことはわからないままです。メッセージでもなんでもなく、ただでたらめに振り回していただけなのかもしれませんが。
彼らの目に、私達はどう映ったのでしょう。船に乗って珍しいものでも見るように自分達を眺める観光客を、どう思うのでしょうか。
遊覧を終えて鴨緑江断橋に戻って来ると、もう夕方です。日が落ちて薄暗くなった中、中国側のビルにはカラフルなネオンが灯っていました。一方、川の向こうの北朝鮮には明かりが全然無く、暗い世界が広がっています。
川を一本隔てただけなのに、見える景色は全く違うなあ、としみじみ。
もちろん北朝鮮も都市部へ行けばもっと賑やかなのかもしれません。でもこれが、国境の街丹東で私が見た北朝鮮の姿でした。