《4の国》の内国海洋大学校生たちの大冒険?なろう版
コメディーほど笑いが無いので、ファンタジーにしておきました。
近くて遠い4つの世界のお話
世界の始まりはスープ皿に満たされた粘度のある命の水
天から落ちた滴りが水面を押し出し、それは王冠へ、王冠から神へと変化し
波紋は大地となった
波紋から成った大地は、大きな大きな輪の形をしていて
それを四柱の王冠の女神達が、それぞれ守護している
これはそんな世界の《4の国》の話
欲と機械の国、科学が発達した国
仕組みを理解できずとも使える”力”に溺れるかもしれない、危うい国
《4の国》の中央よりも東寄りにある、背骨のような山脈を境にした東方の国。この国は西方の国とは違って南北に長~い土地を持つ1つの国だった。長~い土地は四季に恵まれ風光明媚かつ、伝統とサブカルチャーが混然一体となっているカオスな国である。穏やかな輪っかの内側である内海の覇者たらんと、内国海洋大学校と呼ばれる船乗りの学校が創立されて早100年。
そんな学校の男子生徒の修学旅行実習は、デカい手漕ぎ船でひたすら人力のみで進むと言う過酷なものだった。
それに比べて女子生徒の修学旅行実習は、大きな最新式の船で生徒自らが計画を立て操舵し、船内店舗の運営をしながら楽しんでしまおうと言うイベント……のはずだった。
「なんで急に颱風が発生したのよ!!」
「内海のヌシが寝返りをうったのよ、おばあちゃんがそう言ってた!!」
「どんだけ激しい寝返りなのよ!!」
折角甲板でパーティーの準備が中止になった生徒たちは、キーキー言いながら机や料理をしまう。船内にパ-ティ会場を移動させて外を眺める女子生徒たち。唐突な颱風発生と共に、海上保安庁から寄港命令が入ったために、進路を港へと変更。細かく班分けをして順番に食事を取り、海を渡る。
そして運命の時が来た。
ドカンと音と振動が響く、この船の船長を拝命している内国海洋大学校の首席は、夕飯代わりのフルーツサンドウィッチにかぶりつくのを一時中断。口についた生クリームを舐め、ナプキンで拭きつつ、ブリッジに駆け込み確認の声をあげる。
「何事?」
「首席、船底へ謎の物体が接触。現在のところ浸水は無いのですが、念の為に隔壁を降ろしましょうか」
「そうして頂戴、他には?」
首席に答えるのは、現時刻の責任者である次席。ソナー担当の生徒と共に機器に張り付いていた。
「後ですね~、首席……」
「何?」
「舵が壊れました、反応なし~」
「まじか~~~!!……港と海上保安庁へ通達、牽引電波で引っ張ってもらおう。あぁぁぁ、私の経歴に傷がついたぁ~」
現在この最新式の船には生徒しか乗っていない。内国海洋大学校で船舶資格を取ったとはいえ、経験のない船乗り女子だけしか乗船していないのはどうかと思うだろう。しかしこの船は牽引電波で外部から操作可能、早い話が見えない綱で繋がっていて何かの際には引っ張ってもらえると言う船なのだ。
詳しい仕組みはわからずとも、使えてしまうのが《4の国》の科学の力。
だから女子生徒だけの船旅も可能だったのだが……、そういう物は大抵お高い代物だったりする。
「弁償ですねぇ~。私、次席でよかった~」
「まて、私が払うのか?無理無理、うちは漁師だぞ、無理!!」
「家だって、サラリーマン家庭ですもの~。首席、マグロとりに行きましょ!!」
「私はマグロよりカツオ派なんでな……」
「う~、振られたぁ~」
まだ学生の身、不安に曇りそうになる女子生徒たちの心を、首席と次席はわざと明るい調子で吹き飛ばすようにマシンガントーク。通信士が港に連絡を飛ばす、それ以外は周りの海の様子と船の破損を注意・監視するしかやることが無いのだ。
すると港から、『牽引電波準備中、10分後から開始』との連絡が帰って来て、一安心の女子生徒たち。
「しかし謎の物体ってなんだ?セオリー通りならば大鯨か?」
「センサー・ソナーには反応なし、大帝烏賊かもしれませんよ?」
「うげー、烏賊は目玉が怖くてなぁ……。警戒怠るな、カミに喧嘩を売る気はないからな」
「やー」
そしてドカンと嫌な音と振動が再び響いた。鯨か、はたまた烏賊かは、カミのみぞ知る。
颱風は晴れ、船は砂浜へとうちあげられてしまった。生徒たちは取り合えず浜辺へと降り立ち、生存確認をする。不幸中の幸いで生徒たちはみな無事、しかし通信機器はいかれてしまい、うんともすんとも言わない状況。せめて夜ならば星の位置で現在位置が確認を出来るのだが、颱風一過の眩しい太陽しか空には浮かんでいなかった。
「困ったね」
「GPSも壊れたし、狼煙か、狼煙をあげるのか?」
そんな感じで笑えない冗談と共に、朝食作りを開始する。腹が減っては戦は出来ないのだ、しないけれども。そんな風にキャッキャウフフと浜辺でキャンプをしていると、遠くの方から馬に乗った人間がやってきた。その人は金髪碧眼、すらっとした体躯でまるで王子様のような男性だった。
「もし。お嬢さん方!!」
そう声かけてきた彼、なんて爽やかな美声。女子生徒たちはその王子様(仮としておこう)に目を剥いた、そして騒めきだす。
「まさか異世界トリップ!?」
「騎士?いいえ、王子様じゃないの?」
「やだ、あの方『こいしず』の王子様そっくり、乙女ゲーの世界に転生じゃないの私たちってば!?」
「今の声完全に王子様だったわよね、声だけで孕むわ~ん」
「まさか、ヒロインは?ヒロインは誰?」
「待って、『こいしず』はデフォルトネームが無いのよ。それは……」
プレイヤーがヒロインだからッッッ!!!!!
女子生徒たちは雄たけびをあげながら、王子様と思われる男性に駆け寄って行った。王子様(仮)は思いっきりビクついて、踵を返して逃げていった。追うヒロインたち(自称)、逃げる王子様(仮)、そしてそれを見つめながら朝食を腹に収める首席は、照り焼きチキンサンドウィッチをちまちまかじる次席に聞いた。
「なんだ、『小石ズ』って」
「そういうゲームがあるんですよ、疑似恋愛ゲームっす」
「へぇ~、アクションものかい?」
「恋愛モノですって、どこからアクションの香りが?」
「え、だって追いかけっこしているじゃないかい……」
「おぉう……」
王子様(仮)の仲間だろうか、黒髪や赤髪や茶髪や銀髪の騎士っぽいコスチュームプレイヤー(仮)が途中合流したのだが、ヒロインたち(自称)の剣幕に大いにビクつき、一斉に逃げ出す。人間の足で何故に馬に追いつくことができるのか、さすが内国海洋大学校の生徒……と思いながら双眼鏡で観察しつつ、食後のお茶を楽しむ首席だった。
なかなか終わらない追いかけっこに飽きてきた頃、いつの間にか離席していた次席が甘いものの皿を両手いっぱいに持ち、主席の座る簡易テーブルへと帰ってきた。
「マジで『こいしず』の世界にトリップかなぁ。攻略対象に激似の騎士っぽい人たちが合流したよ~、ヒロインたち(自称)が群がる群がる」
「そろそろ止めた方が良いかな?」
「デスヨネ~、R指定入る前にドゾ」
止めるためにホイッスルを鳴らそうと口にくわえた首席。このホイッスルを鳴らすと、何があっても整列しなければならない、そう学校で調教……もとい訓練されている生徒たちなのだ。息を吹き込むと、耳をつんざく轟音がなり響き、浜辺の砂は舞い上がる。まるで落雷、砂埃と焦げ臭いにおいが鼻をつく。ホイッスルを口にくわえたまま目が点になる首席に、次席が感極まったように抱き付きこう言った。
「首席、チートですか?チートでホイッスル魔術を!!首席、アンタ天才かよ……」
「ちげ~よ、私のホイッスルはそんなもの出ません」
「なるほど、ホイッスルがチートアイテム……」
「チートってなんなのよ?」
砂煙が落ち着くと、砂浜にはヒロインたち(自称)がぐったりと伸びていてまさに修羅場。その側には黒いローブを着た美女が1人杖を掲げていた、……まるで魔女のような出で立ちの人だった。あれ、もしかしてピンチ?かしらと、主席と次席率いるモブたちは、ひきつった顔で両手を上げた。
「年若い乙女が奇声をあげて男を追いかけまわすなど、品位に欠けますわよ。恥を知りなさい」
「「「「「あ、悪役令嬢!!」」」」」
美女にそう怒られ、ヒロインたち(自称)は声をそろえて失礼な事を言った。美女はその美しいかんばせを曇らせて言う。
「だれが悪役ですか、失礼な……。わたくしは《3の国》医療大国の護衛官を務める魔術師です。《4の国》から船が難破してくるかもしれないと通報を受け、あなた方を探していました。それがこんな事になるとは……」
「申し訳ありません。私が内国海洋大学校女子船舶隊の船長を務めるものです、船員たちが失礼をいたしました」
丁寧な説明をいただき、自らも名乗る首席。
ヒロインたち(自称)の誰かが、「しゅせきってば、クラス全員召喚された学生の中の勇者みたい~」なんて言ったが無視した首席。どうせ首席には意味がわからなかったので。彼女は護衛官の美女様と固く握手し、次席を紹介する。こちらも握手し簡易テーブルへと誘い、お茶を薦めつつ状況を確認し合った。
美女様は簡易テーブルセットに座っても麗しかった、その後ろに先程の逃げまくっていたカラフルズが整列する。あらためてじっくり見ると美形だと思った首席だった、興味はないけれども。
美女様にまずは世間話とばかり次席が口を開く、彼女はほんわかとした女性なので会話もスムーズに進むだろうと言う配慮。
「じゃあ、騎士様たちなんですね~。わおモノホン、萌え」
「我が国では騎士ではなく護衛官と称しています、次席殿」
「女性が隊長なんてすごいですね~、尊敬しちゃいますよ~」
「隊長と言っても、夫達がわたくしを祭り上げているだけです。一番爵位が高いからと言って……」
「夫達?」
今、美女様から凄い発言が発せられた。首席と次席は顔を合わせ、同時に首を傾げると美女様は近くに整列していた騎士……ではなく護衛官たちを見ながら
「先程追いかけられていた、これら5人がわたくしの夫達です。現在、我が国で適齢期の貴族が私しかいないので……、どうやら我が国の高位貴族は女性の出生率が低く、一婦多夫状態が続いているのです……」
「悪役令嬢逆ハーレム……、まじか」なんて声は無視した次席だった、ちなみに首席も頭の中でハーレムだと思ったが言わなかった。空気の読める首席、しかし空気の読めない先程の落雷ショックから復帰したヒロインたち(自称)は、一斉にざわざわと騒めきはじめる。
「女が少ないって……まさかの花嫁召喚モノなの。やだ、まさかの玉の輿?それともR指定に突入?」
「真実の愛で、婚約破棄宣言!?」
「待って、それだとヒロインざまぁ展開もあり得るわよ……」
「そ、それは困るわ……。無一文でダメ男と放り出されるなんて無理~!!」
《4の国》は欲と機械の国、その力の象徴は『電気』……。しかしだからと言って、どうしてこんなに電波候補生が多いのか……。本気ではないと思いたい次席であった。
それに夫だから婚約破棄ではない、不倫の末の離婚だ。
美女様はたまに意味の分からない単語が含まれているが、おおむねヒロインたち(自称)の発言を理解して、眉間をつまむ。
「……わたくしの夫達を、不貞な駄目男と言っているのでしょうか?」
「お腹がすいてうわ言を言いだしたようです、無視して下さい」
「食料と水、薬など提供いたしましょうか」
「船に積んでありますので、1週間ほどは大丈夫でっす」
もともとその日程で航海する予定だったので、不足している物資は無い。首席は少し考えて、ニヤニヤと美女に言う。
「医療大国と言っていましたね……。出来れば馬鹿につける薬をいただけると、ありがたいかなと」
「我が医療大国と言えども、その薬はありませんわ」
「デスヨネ~」
にっこりと笑いあい、その後に大爆笑する首席と次席と美女様。輝く笑顔で美女様を見守る夫たち、それを蕩けるようなまなざしで見つめるヒロインたち(自称)。なんとなく居心地の悪いその他の生徒たちであった……。
難破しリアル異世界である魔法の国《3の国》に漂流した、《4の国》内国海洋大学女子船舶隊は、期限までキャンプを楽しみつつ用意してもらった馬車で帰宅する事になった。
国との連絡係兼世話係となった美女様は、浜辺近くの別荘へ居を移し一緒にキャンプを楽しんだ。魔術師である彼女は、薬の開発研究と次代の女王としての帝王学を学んでいると言う、実はすごい人だったのだ。現在は女公爵兼護衛隊長官……、チートはここにいたのである。
「王子殿下はいらっしゃるのですが、王妃が複数の夫を持つのはどうかという事で私が女王の冠をいただく事になっているのです。わたくしは先々代女王陛下の直系の孫なので、まぁ仕方ないかなと……」
「仕方ないで5人の夫ですか……、凄いです」
「《3の国》は役割の国ですから、王族の血を引く女としては普通なのですよ。他の国の方から普通とは見られなくても、ですわ」
ふんわりとほほ笑む美女様に首席は好感を持った。複数の夫なんて卑猥だなぁなんて思っていたが、与えられた役割を逃げ出さずにこなす姿を、眩しく思ったのだった。どうやら次席も同じように感じたらしい……
「私、美女様と夫様たちの薄い本がいっぱい作れるわ……」
いや、同じではないようだ。目をキラキラ輝かせる次席に、意味は分からないまでも、美女様と首席はドン引いたのだった。
こんな感じののんびりとしたキャンプ中に、事件を起こそうとしたヒロインたち(自称)も少なからずいた。美女様の夫たちに擦り寄るもあえなく玉砕。怒り心頭の首席や次席に捕まり船室に閉じ込められたりした。
「ひ~、まさかの監禁フラグ~!!死ぬの?私死ぬの?」
「死ぬわけないだろうが。拘束したまま強制送還だ、こいつらを馬車に積み込め」
チャレンジャーは複数いた模様。
ちなみに
内国海洋大学校と呼ばれる船乗り学校の男子生徒の実習は、デカい手漕ぎ船でひたすら人力のみで進み、進み過ぎてヤオヨロズのカミの国である《2の国》へとたどり着いてしまった。
「まじか、異世界トリップ~~~~~!!」
「うさみみっ娘の村なんて、どんなご褒美!?」
「まさかの奴隷ハーレム、いけちゃう?もふもふハーレム!?」
なんて言ったものだから、動物神に蹴っ飛ばされて、その勢いで《4の国》へと帰還できた……のかはわからない。
という文章を入れようとしたのですが、さすがに普通の人間が4から2へ手漕ぎ舟では無理と思い削除。せっかくなのでここに載せます。しかしシチュ的に乙女ゲーというより少女漫画っぽいよな……と思います。
余談として医療大国の夫の人数最多となった美女様、女王陛下を越えた。ちなみに王子は金髪くんではありません。
読んでくださって、ありがとうございました。