イケメンはヤンデレる(やめて怖い!)
イケメンは本気で好きな人が出来るとヤンデレる。
と、いままでの経験から学んだ。
というかいままでの私どうしたってぐらい付き合う人間はイケメンが多かった。
爽やか系イケメンは、爽やかに笑いながら束縛してきた。
王子様系イケメンは、ベタベタに甘やかしながらも監視してきた。他の子と話すとね、ほら、ヤキモチレベルじゃないぐらいに・・・ね?
セクシー系イケメンは・・・うん、とにかく朝と言わず夜と言わず辛かった。主に身体が。今夜は離したくないとか、おま、それ毎日だから。
インテリ系イケメンはよくわかんない理論展開して軟禁したがった。もはや犯罪っていうか・・・。
まぁ他にも何十何百と色々いたが、ともかくイケメンにロクなやつはいない。
奴らは自分が特別であることを知っていて、特別扱いされることを当然としているのに、本当の自分を見て貰いたい願望が強すぎる。
そしてそこに漬け込む私マジ悪女。
と思わなくもないが、好きでやっているわけじゃないのだ。
私は天使である。
自分で言ってて痛いことこの上ないが、真実である。
私の配属された上司は愛の女神というやつで、平凡スペックの私にこう宣ったのだ。
ーー人間界で愛を集めてきなさい。
愛を集める。
それ即ち愛を受けること。
愛されること。
平凡スペックの私にはハードルがハンパなく高かった。
これで美人だったり可愛かったりすればアイドルでもモデルでも目指して大衆から愛を受け取れば手っ取り早いのに。
まず私のスペックで愛の女神に配属されたことがおかしいのだ。
と愚痴を言いつつ、上司の命令は絶対なので渋々でも従うしかない。この配属が無事に終われば輪廻に戻れるのだ。頑張れねばならない!
上司に渡された愛の砂時計を満杯にすれば任務達成だ。
最初は、沢山の友人をつくった。
友愛だって愛には変わりない。
だが、砂時計はなかなかたまらなかった。
だから男女交際をしてみた。
なんと効率の良いことか。と。
私は調子にのった。
どうすれば男が堕ちるか、どうすれば愛されるか。
ーーなんて、考えなくとも何故かイケメンに愛の告白される不思議。
むしろ怖かった。恐怖すぎる。
え、愛の女神様の加護でも持ってんの!?
と混乱しつつ、まぁ、イケメンと付き合ったわけですけど。
執着ハンパない。
なにこのヤンデレ。
いや、愛の砂時計は順調に溜まったのだけど、精神は確実に擦り減った。
私は愛の女神様の部下であるから、スキルを使えばどんな人間でも愛せる。
相手の心は操れないが、自分の心は操れるのだ。愛の女神様のちからコワイ。
内心ドン引きだった。
しかし愛ってすごい、と再確認できた。
相手がどんな人であっても愛していたら許せた。許容できた。
スキルを解除して我にかえれば・・・自己嫌悪に沈んだ。
愛って、マジ怖いんですけどぉーー!
愛の砂時計が溜まるまで何度も繰り返した。
相手が人間の生を全うするまで供に過ごし、神の身元に送られたのを確認したら、また年齢を巻き戻し次の相手と添い遂げた。
最後の方はもはや作業だったな、と思う。
え、ちゃんと愛し合ってたけどね。
女神様のスキルほんと怖い。
別にイケメンを狙ってないのに、やってくるのイケメン。
モテ期か。いらんわ。
いやこれマジで女神様がなんかしてんじゃないのかな。
そして砂時計がたまって、女神様に身元へ参上して数分。
とんでもない事を言いやがった。
「次の配属先は魔界よー」
「・・・・は?」
突然すぎて使い捨てられた感半端ない。
というか魔界って、地獄だよね?
え、左遷!?
左遷なの!?
天使失格ってことですか?
天使が魔界に配属なんて聞いたことないんだけど。
「貴女とても優秀ねぇ。こんなに早く愛を集められた子はハジメテよー?どんなに可愛ぁーい子でも時間かかるのに・・・流石はサタンちゃんに愛されてる子!」
「え、あの・・・えー・・?誰?サタンだれっ!?」
「あらあら?サタンちゃんを知らないのぉ?ふふふー・・・可哀想」
目の前で美しく微笑む愛の女神様に動揺する。目線は胸・・・。
ーーうわ、羨ましい・・・てか、食べちゃいた、待て。私待て。
動揺し過ぎて変な思考に辿り着きそうな自分を叱咤し、女神様を見上げる。
「サタンちゃんはね、魔王よ」
「・・・・・・」
「サタンちゃんはね、まお」
「言い直さなくても聞こえてました!大丈夫です!」
魔王とか、会ったこと無いんですけどぉ!
「サタンちゃん・・・んー、貴女的には優くんって言った方が分かり易かったかしら?」
「・・・・・・・優?」
「ええ、貴女が手玉にとった男のコの1人よー。貴女に会いたいが故に輪廻に廻らず魔王になったみたい。人間だった頃は西園寺優って名前の子。やっぱり愛って偉大ねー」
「・・・・・・」
マジか。
え、なにそれコワイ。
「あの、私、輪廻に戻りたいって希望で・・・」
「うん。そぉーなんだけど、サタンちゃんがどーしてもって言うからオーケーしちゃった!」
だって私、愛の女神だし!
と笑う目の前の女性を、私は呆然と眺めた。
ーーどうしよう。
何人目に添い遂げた男だったのか、最早記憶に無いが、優という人物は覚えている。というか忘れるはずも無い。
イケメンはヤンデレる。
どんなイケメンも、結局は愛に溺れる。
優は、その詰め合わせだ。
西園寺優。西園寺家の長男で、皇帝と呼ばれ学園に君臨していた。
涼しげな目元に滑らかな黒髪。
色気の漂う首筋。
鍛えられた身体。
優秀な頭脳から紡ぎ出させれる辛辣な言葉。
けれど、私にだけは甘く、何処までも甘く愛を囁いた。
そして、閉じ込めた。
深く愛して。
壊れる寸前まで抱いて。
男でも女でも、無機物でさえも私が他のモノに奪われないように依存させて。
愛して愛して私を愛し、そして、最後は・・・
「・・・・いやいや女神様。冗談キツイですって。優がどんな愛し方するか知ってますよね?ねぇ?」
「てへぺろ」
「やめろ。可愛いだけです」
「だ、だって、私だって恐かったんだもーーん!!新任の魔王のくせに、ちょっと前まで人間やってたくせに、前の魔王ちゃんよりこわいし強いし、そんなの、断れないじゃない!」
「・・・・・」
いやぁ、あー。うん。
そりゃ、優ですからね。そうなりますよね。
「いーじゃない、愛されてるんだから!」
そういう問題じゃないんです女神様。
ここで次の配属先に行ったら一生輪廻に戻れない気がするんです。
戻れたとして、確実にヤツも付いてくると思うんです。
あの、以前なら女神様のスキルで彼を愛してたんで許しちゃってたトコも、今の私にとってはただの恐怖でしかないんですよ。はい。
愛してた時でさえコイツないわーとか思ってたんで。ほんとに。
「未来に希望を見出せません」
「・・・・・」
「そんな目で見ないで下さい」
そんな顔しても食べちゃ痛いぐらい可愛いだけだ。
イケメンはヤンデレる。
笑えない。
ほんともう、
ーー死後の世界までストーキングされるのは、思った以上に恐かった。
てか愛の力で全部片付けるのやめてぇ!
イケメンはヤンデレる!
イケメンは私にとっての鬼門にしかならない。
これから地獄へ配属されるけれど、イケメンに会うのが怖くて怖くて堪らない。
誰か、誰か私を輪廻に戻して下さい!