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-OVERKILL-  作者: ASB
2/5

King vs Joker




「岸先輩!!お飲物を買って参りました!!」


真田はそう言うと右膝を地面につき、頭を下げながらコーラを前に差し出した。呆然とそれを見つめている俺は、差し出されたコーラをそっと受け取った。


「真田っち……?待って!?態度が急に変わったね……?」


真田は頭を上げた。そしてゆっくりと口を開いた。


「僕の事を剣で破ったのは岸先輩が初めてです!岸先輩!僕を弟子にしてください!」


真田が真剣な眼差しで俺を見つめている。こんな事になるなら、わざと負けておけば良かった。




そう……真田とのoverkillの試合は一瞬で終わったのだ。








overkill 第2話


King vs Joker








ーーーーー



『両者用意が整った様ですので、試合を始めます』


3…


2…


1…



真田から唐突にoverkillの試合を申し込まれた俺は、暇だからと試合を受けた。俺の余裕そうな表情がよっぽど気に入らなかったのか真田は俺を睨みつけていた。


白い空間にいた俺は、気がつくと建物の中に立っていた。どうやら面白い事になりそうだ。


「いいフィールドじゃん!ねえ真田っち!」


俺の声が建物の中に反響する。


「岸先輩いいんですか?ここは僕のホームグラウンドと言っても過言ではないです……武道場ですよ?」


真田は少し嬉しそうだ。俯きながらもニヤリと笑っているのが分かった。


「ホームグラウンドだかなんだか知らないけど、本物の騎士には勝てないよ」


俺の表情も真剣になり、そう言った。

やつのoverkill登録名は幸村だ。恐らく苗字の真田と合わせて有名な戦国武将を意味しているのだろう。俺の登録名はKnight。騎士という意味。苗字の岸と掛けているつもりだ。え?滑ってるって?


登録名からも分かるように、これは剣士と剣士の戦いという訳だ。


「本当に分かってますかKnight。僕は元剣道部ですよ。しかも僕を剣道で打ち負かした人は誰もいない。つまり、剣同士の戦いには負けた事がないということですよ」


真田は一定の距離を保ちながら俺を睨んでいる。その手には日本刀が握られている。制限時間はどんどんと減っていく。試合はもう始まっているのだ。overkillにはファンタジーの様なかっこいい必殺技や魔法は存在しない。つまり完全に剣と剣で戦う事になる。


「それにしても真田幸村といえばあの徳川家康を追い詰めたとして有名な戦国武将な訳だけど、彼が使っていたのは”十文字槍”という槍だったはずだ、それなのになんで真田っちは日本刀を使ってるんだ?」


剣先を俺に向け構えている真田へ純粋に質問を投げかけた。俺はあぐらをかいて座っている。その俺の態度にまた腹が立ったのか煽り気味に真田が答えた。


「チンピラみたいな見た目な割に歴史については少し詳しいみたいですね。こりゃあたまげた。そうですね、確かに真田幸村が使っていたとされている武器は”十文字槍”です。ですが、僕が持っているこれは刀として徳川に仇を討つために作られたと言われている妖刀”村正”。真田幸村はこの妖刀”村正”を所持していたという説もあります。自分よりも強い相手を倒す為の武器。僕はそこに魅力を感じました。だから僕は村正を使う事にしたのです。岸先輩、いや、Knight。あなたは僕が倒します」


俺は少しだけ答えに納得し立ち上がった。


「まぁまぁそんな熱くなるなよ幸村さんよ。俺が本当の意味で負けるのはあいつだけで十分だぜ」


俺は鞘から剣を抜いた。俺の剣を見て、真田は驚きの表情を浮かべる。


「まさか、その剣……」


俺は鞘と剣が擦れる音を聞きながら敵との距離を測る。


「あぁ、そうさ。俺の剣は日本刀なんかじゃないよ。アーサー王物語に存在する人物、アーサー王が使用している伝説の剣”エクスカリバー”。まあ、残念ながらoverkillでは魔法の力は宿ってないけどね。さて、そろそろ決着をつけるか……幸村!!!!!」


俺はそう言うと抜き終えた剣を構え、真田との距離を走って詰めていく。


「「ウオオオオオオオオオ!!!」」


真田も俺に向かって走り出した。2人の唸り声が武道場に響き渡る。2人は剣を大きく振りかぶった。


カキィィィーーーンという強い金属音と共に2人の剣が重なり合う。


俺は一歩後ろに下がり距離をとった。そして真田の左の脇腹を目掛けて剣を横に振った。すると真田はニヤリと笑った。


「もらったああああ!!」


真田はそう叫ぶと剣を前に突き出してきた。剣道でいう”面”を取りに来たのだ。やはり真田は剣道のクセが抜けていない。

剣道で1本を取るためには正しい姿勢で刀を振らなければならない。つまり真田のその姿勢でどこを狙っているか分かるのだ。

俺は横に振っていた剣の方向を変えて真田の剣を弾いた。そしてそのまま真田の左足首を思い切り蹴り飛ばした。重心を完全に失った真田は、足をすくわれて仰向けに倒れた。すかさず俺は左足で真田の胸を踏み抑え、喉元にエクスカリバーを突きつけた。地面に倒れた真田は村正を離し、両手を上げた。とても悔しそうな表情を浮かべている。


「overkillってのは剣道じゃねえんだ。殺し合いなんだ。……覚えとけよ!真田っち!」


俺は冷めた顔で真田を見つめた後、ニコッと笑った。そしてエクスカリバーをそのまま突き刺した。







「じゃ、じゃあコーラで……」


試合が終わり、態度を急変させた真田は好きな飲み物をしつこく聞いてきた。俺は嫌な予感はしていたが、好きな飲み物を適当に答えた途端に真田は走り出し、1分もしないうちに戻ってきた。


「岸先輩!!お飲み物を買って参りました!!」


真田はそう言うと右膝を地面につき、頭を下げながらコーラを前に差し出した。呆然とそれを見つめている俺は、差し出されたコーラをそっと受け取った。


「真田っち……?待って!?態度が急に変わったね……?」


真田は頭を上げた。そしてゆっくりと口を開いた。


「僕の事を剣で破ったのは岸先輩が初めてです!岸先輩!僕を弟子にしてください!」


こうして冒頭に繋がる訳である。

それにしてももし仮に真田を弟子にしたところで何をすれば良いのだろう。剣の指導か?いやいやそれは面倒くさい。


「真田っち……。俺には無理だ」


俺は素直に断った。……つもりだった。


「まさか……岸先輩、もう弟子をとれない程沢山の弟子を抱えているのですか……?」


真田は残念がりながらも目を輝かせている。


「いや、待って待って!そんな訳ないって!」


俺は必死に否定するがそんな俺の声はもはや彼には届かない。


「そんな謙虚な所も素晴らしい。きっと沢山の弟子がいるのだ……。そうだ、そうに違いない。岸先輩!私、真田 覇紅、岸先輩に一生御使いいたします!」


真田の真剣な眼差しに呆れた俺は大きなため息をついた。


「はぁー。じゃあよろしく頼むよ真田っち」


その俺の発言に間髪を入れずに真田がツッコミをいれる。


「真田っちという呼び方は馴れ馴れしくなってしまうのでやめていただけると幸いです。これからは真田とお呼びください」


俺はまた大きなため息をついた。




ああ、面倒くさい事になった。










ーーーーー





俺は夜の街中を1人歩いていた。


右頬をかすめた弾丸の感覚がまだ残っている。このゲームはリアリティーがあまりにもありすぎる。やはり俺はこのゲームは好きになれない。


overkillが始まり雷牙に先手を取られた俺は、見知らぬ都会の街並みに取り残されていた。雷牙がどこから俺を狙っているか分からない。雷牙は遠距離型のスナイパーライフルを持っている。どこか遠くから俺を狙っている、と考えるのが妥当だろう。


ゲーム開始時に遠距離型なのにも関わらず俺の近くに来たのは、先手ダメージを与えに来ただけではない。おそらく彼は俺が本当に初心者かどうか確認しに来たのだ。彼はそこまで考えてこのゲームをプレイしているはずだ。


雷牙がその確認をしに来た時、俺は街にたたずむ沢山の高層ビルを眺めていた。彼はきっと俺が本物の初心者だと思ったはずだ。事実、俺は本物のoverkill初心者な訳だが。


残念ながら俺はoverkillは初心者だが、殺し合いに関して初心者な訳ではない。


彼は俺を本物の初心者として殺しに来るだろう。その場合考えられるのは、セオリー通りに1番このマップで強いとされる強ポジションから俺を狙撃してくるということ。


もちろんそれがどこかはまだ分からない。だが、高層ビルが建ち並ぶこのマップであれば、彼は必ず高い所にいるはずだ。見渡しがいい程、敵を見つける事が容易になるからだ。

俺が持っている武器はハンドガンだ。中距離以上の戦いでは勝ち目がまるでない。


つまり、奴に勝つためには、高所にあるこのマップの強ポジを見つけ出し、彼に見つからないように強ポジとの距離を詰めながら、近距離交戦に持ち込む事が必要不可欠だということだ。


すでにダメージを受けている俺は逃げて時間を稼いでも負けるだけだ。俺からダメージを与えに行くしかない。


ビルの物陰に隠れながら移動していると、一際大きなビルを発見した。雷牙はあのビルの屋上にいるに違いない、そう思った。

俺はその後も上手く障害物に隠れながらそのビルに近づいていった。


「ここは……?」


ビルの中に入ると受付ロビーの様なものがあった。大手企業がモデルのビルなのだろうか?

それにしてもここに入るまでに雷牙に撃たれなかったのは何故だろう。ここのビルの屋上にいるならビルに入ろうとする俺を狙撃するはずだ。ビルの中に入られたら近距離戦になる可能性があるからだ。だが、俺は撃たれなかった。これはこのビルには雷牙はいないのだろうか。


俺は階段で最上階に向かう。俺の体力も随分と落ちたものだ。20階まで上がった頃には息切れをしていた。それにしても、都会のビルは何階まであるんだ……?


なんとか最上階まで着いた俺は最上階の部屋には入らず、そのまま銃を構えながら屋上への階段を登っていく。雷牙は扉に向かってスナイパーを構えているかもしれない。

俺は勢いよく屋上の扉を開けた。


夜の少し冷たい風がフワッと入ってくる。夜の都会の眺めはとてもいい。だが、少しだけ明かりは少ない。この街に俺と雷牙、2人しかいないからだろうか。それにしてもこのビルの屋上に雷牙はいなかった。一体どこで待っているのだろう。

Kingに相応しい場所はどこなのだろう。


俺は屋上を後にし、最上階の部屋に入った。すると沢山のモニターが設置されていた。この街中の防犯カメラに繋がっているのか?


……いや、違う。


この部屋の全てのモニターはある場所を映していた。

スカイツリー位の高さの塔だが、スカイツリーではない。真っ黒なそれは展望台があり、てっぺんは王冠をモチーフにしたようなオブジェがあった。まるでチェスの駒、Kingの様だった。あれだ、あそこがKingのいる場所だ。つまり、ここはこの街のモニターの管理ビルなのだ。

さっき屋上に上がった時感じた暗いという違和感。それはこの街の全てのビルに設置されたモニターはあの塔に向かって設置されているということだったのだ。俺がどこにいるのか、あの塔からビルに設置されたモニターを見れば確認出来るということだ。

やはりこのマップを知り尽くしている。連戦連勝のスナイパーはやはり強ポジで待ち構えているということだ。残り時間は25分。あの塔の展望台まで行くのはかなりの時間がかかる。階段を登っていたのではもう間に合わない。俺は策を練ることにした。







ーーーーー




「師匠〜、そんなこと言わないで下さいよ〜!ほら!ほら!ほらほら!」


真田は俺の目の前でしゃがみ背中に乗れと言って来た。この歳になっておんぶされるほど恥ずかしい事はない。しかもどこも怪我はしていないのに。


「だからいいってば!それよりももう公開戦始まってるぞ。早く観に行こうぜ」


俺は公開戦を映しているスクリーンがある第1ホールへ向かった。


ホールに着くと中はとても騒ついていた。雷牙が押されているのだろうか。いや、まさか、雷牙を倒せる奴なんてあいつくらいしか……。

俺は公開戦が映し出されたスクリーンを見て驚愕した。

そこには先に帰ると言っていた詩都が映っていた。しかもあいつはoverkillには興味が無いと言っていた。いや、でも心の底ではoverkillをやってみたかったのかもしれない。だって今、あいつは戦っているのだから。言ってくれればいつだってoverkillについて教えたのに……。


「あの人、初めて見ました。雷牙さんに挑戦出来るほどkill pointが高いんですか?」


真田は不思議そうな目でスクリーンに映っている詩都を見つめる。

kill pointとは簡単に言うと戦闘力の様なものだ。最初は1000pointから始まって、勝つとpointが上がり、負けると下がる。つまり、勝ち続けている人はkill pointがとても高いという訳だ。

ちなみに雷牙のkill pointは15600。化物レベルだ。俺は試合をあまりしていないのでpointだと2500pointだ。


「真田は詩都の事知らないのか。そりゃあそうだよな、あいつoverkillこれが初めての試合だしな」


俺は呆れた顔でそう言うと、真田は驚いたように言った。


「overkill初めてで雷牙さんと試合を……?それは可哀想に……。ボロ負けですね。ほら、彼、Kings towerの展望台にいますよ。時間内にこの場所を探し出すのさえ初心者じゃ難しいんじゃないんですか?Kings NightはoverkillのMAPの中で一番広いMAPですからね」


スクリーンはモニター管理ビルにいた詩都から切り替えられ、展望台にうつ伏せになりスナイパーを構える雷牙を映していた。この高さの展望台から狙撃が出来るとはかなりの腕前だ。流石はこの共創学園No.1スナイパー佐伯雷牙といったところか。


その時、街中のビルに設置されたモニターの画面が一斉に切り替わった。


『あれ〜?これ見えてる?……あ、見えてるっぽいな。どうもこんばんは。俺の名前は葉山 詩都……ってもう知ってるか。今回は佐伯 雷牙、あんたに伝えたい事がある』


モニターには制服で右頬から血を流した詩都が映っていた。どうやら、モニター管理ビルから放送をしているらしい。


「師匠、これってみずから自分はモニター管理ビルにいるよって教えているようなものではないんですか?」


真田は少し不思議そうにそう俺に問いかけた。


「ああ、そうだな、でもあいつにはそれをしてまででも伝えたい事があるんだろう」


俺は詩都がただの馬鹿でないことを願いながらスクリーンを見つめる。


「とりあえず真田、その辺に座ろうぜ」


俺は空いていそうな適当な場所を指差しながらそう言った。真田は了解ですといってついてきた。


その時、詩都がまた話し始めた。





『佐伯 雷牙、俺とゲームをしないか?』


詩都の目は、決して勝負を諦めてはいない目だった。あいつはこの試合、勝つ気でいる。雷牙を潰す気でいる。下剋上。唯一Kingに対抗出来る存在。



それが……Joker








第3話

Highbinder's wisdom


ーーーーーーーto be continued...













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