8、店主&男僧侶
『おや、男僧侶様にはあしらわれてしまいましたね。
そのおかげで新しい情報が手に入りましたが・・・
少し腑に落ちませんね。
気に入らないと言いましょうか?
・・・あら、進行役の役目をはみ出してしまいましたね。
今回は女商人様が最後に言っていた店主様と、
男僧侶様に再挑戦といくみたいですね。
では、またお会いしましょう。』
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
前任の勇者の情報を聞きたい。
あと、日替わり定食。
「前任の勇者様・・・ですか。
・・・構いませんよ。
そうですね、まだお昼までに時間はありますから、お店も、時間も大丈夫でしょう。
さて、何からお話ししましょうか?」
あなたの娘、昔はこの店の看板娘で、人気の娘だったと聞いた。
そして、前任の勇者と恋仲であったとも。
彼女の事からお願い。
「・・・そうですね。
私が前任の勇者を語るとなれば、あの子の事を話さなければなりませんね。
では、あの子と彼の馴れ初めからお話しましょう。
あれは24年前のある日の早朝の事です。
あの子がいきなり店に男を担ぎこんできたのです。
びっくりしましたよ。買い出しにいった娘が食材だけではなく、人間を持ってきたのですから。
何でも、店の向かいで呆然と座り込んでいるのを見て、哀れに思い連れてきたのだとか。
買い出しの前と後で同じ姿勢で呆然としていれば、それは気になりますからね。
彼はまるで何も感じていないように無表情でした。
私や娘が話しかけても、無表情のまま椅子に座ったまま。
もし、あの時誰かが蹴飛ばしても彼はそのまま倒れて、呆然としたままでしたでしょう。
証拠に彼の服は土で汚れ、誰かの靴跡も残っておりました。
あまりに見ておけない様子でしたからでしょう、娘がいきなりあの男の面倒を見ると言いだしたのです。
私はあまり賛成できませんでしたが、人道的な面から強く反対もできませんでしたからね。
それからというもの、あの子は彼の面倒をかいがいしく見ました。
仕事に支障をきたさなかったため、私としても責める訳にいかず、そのまま穏やかに時が流れました。
彼はときどき、フラっとでかけると、どこかからお金を持ってきました。
帯剣していた様子からみると冒険者の仕事でもこなしていたのでしょう。
不定期とは言え、彼の持ってくるお金は一回の額が多かったですから、ある程度贅沢ができるようになりました。
たまにとはいえ、仕事をこなし始めた彼は娘となら普通に会話できるようになったのです。
まるで、熟年の亭主関白な夫婦を見ているような感じで、少し嫉妬してしまいました。
実態はまるで違うのですがね。
そんな日々が続いて、ようやく彼は明るい様子になってまいりました。
初めて彼を見たときとはまるで別人で、これが生来の気質ならば、一体どんな事が有ればあのような、死者のような様子になれるのか、そんな事に恐れると同時に、
そのようなことがあっても、笑えるようになった事に安心しました。
そして、2人は当たり前のように恋仲になりました。
その時です。彼が勇者であることを聞いたのは。
驚きもありましたが、納得したものです。
この店ですが、いまでこそ皆さんに愛されておりますが、当時はまだ駆け出しのお店でした。
しかし、娘の器量と、ある程度の安さ等といったことから、そこそこの評判をいただけるようになりました。
そのせいもあって、堅気ではない乱暴な方々がお店の邪魔に来る事もしばしばあり、迷惑していたものです。
しかし彼は、その乱暴そうな方たちをその腕一本で、鎮圧されたのです。
あの不定期で、不自然な大きな収入も、勇者として名を馳せた方ならば、と納得致しました。
そして私たちは家族となり、幸せな日々を送っておりました。
そんなある日、彼が冒険者として、少し遠い村に行かなければならない仕事が入ったのです。
彼らが結婚してからというもの、あまり外に、特に長い時間出かけるような仕事がなかったため、娘は心配していました。
勇者なのですから、心配など無用だと、彼はその村に出かけて行きました。
それが私にとって、彼らが一緒の姿を見た最後の時になりました。
そ、その日の晩、あのげ、外道共が私の店にやってきたのです!
あいつらは私の店を荒らし、お客さまを追いだし店を占拠したのです!
そして、法外な金を出すか、店を出て行けと脅してきました。
いくら彼の稼ぎで少し贅沢できるようになったとはいえ、そのようなお金はありませんでした。
そのことを伝えると、あ、あいつらは、む、娘を攫っていったのです!!
は、反抗しようとしましたが、荒くれものたちにわ、私などが適う訳が有りませんでした。
抵抗しようと向かって、ズタボロにされ、襤褸雑巾のように捨て置かれました。
そ、そして、次の日の夕方彼が帰ってきて、変わり果てた店と私、そして、見当たらない娘の様子を見ました。
私は勇者とは違い、魔王等というものは見たことが有りません。
しかし、あの時の勇者の顔はまさしく、魔王そのものでした。
あの時ほど彼が怖いとも、自分が情けないとも思った事は有りません。
そして、彼は大金と彼の故郷の料理のレシピを残して、再びこの店に戻ってくる事は有りませんでした。
・・・後に騎士が店に来て、娘の末路を教えられました。
彼が娘を探しだしたとき、彼女は奴隷として売られ、心を病み、誰とも知らない男の子供を身ごもっていたそうです。
彼女を買い戻そうと彼も努力したらしいのですが、その努力もむなしく、売られた先でし、・・・死亡した、と。」
ごめんなさい。
踏み込んではいけないところだった。
「い、いえ、これは私が勝手にお話しした事です。
それに、心の整理もできないままでしたので、吐き出せて少しは良かったのかもしれません。
あの子も彼ももう帰ってこないのですから。」
・・・きっと、
きっと彼女は幸せでした。
ひどい目にあっても、心が壊れても、愛している人が助けてくれると思っていられるほどの信頼があった、彼女は、きっといつか、どこかで
救われたと思います。
「そう、そうだったらいいですね。
そういう事にしておきしょうかね。もう・・・あの子たちはいないのですから、私の心の中だけでも幸せであったと、
そう、信じる事にします。」
うん・・・
今日は、ありがとうございました
「いえ、こちらこそ少し救われました。
・・・・・・もし、よろしければ、男僧侶という方に娘のことを詳しく聞いておいてくださいませんかね?
私に娘の最後を伝えに来た騎士というのも、男僧侶様のご命令だったそうです。
彼ならばあの子の最後を知っているかもしれません。
私はあの時娘の最後を聞きだす勇気が有りませんでした。
いえ、今も有りません。
ですから、あなたに聞いてほしいのです。」
分かりました。
では私はこれで。
「ええ、今度はお客様としてお越しください。
彼の残した料理をふるまいますよ。」
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「おや、女商人様からは話が聞けましたかな。」
ええ、あまり気分のいいものではなかったけどね。
ところで・・
「そうですか!それは悪い事をしました。
でしたら、次は南の村に向かってはどうでしょう!!
女騎士が話したでしょうが、前任の勇者を裏切った村人女がいるはずです!
彼女の話もきくべきでしょうね。ええ、聞くべきでしょうとも。
それでは私は忙しいので、失礼します。」
・・・南
全ての話の前書きを改訂しました。
あるていど核心に触れるかもしれない天の声(進行役)が登場しておりますので、是非ご一読を
話の流れを変えてしまって申し訳ございません
次は村人女・・・・ではなく今の代の魔王です!
自称勇者の彼女は実は方向音痴だったのだーーー