6、騎士隊名誉顧問-元女騎士-
『貴族子女様
何か御隠しになられていた事がお有りのご様子でしたが・・・
今はまだ、謎のまま。
これがどのように関わっていくのかは私も見当がつきません。
あくまで私は進行役ですから。
さて、貴族子女様にあまりよろしくない評定をいただいた女騎士様
彼女はどんな定規をもって、前任の勇者を語るのでしょうか。』
「あんたかい?昔の勇者の事を聞いて回ってるっていう、自称新しい勇者様は。」
えぇ、そう。
昔の勇者と関係が深かったそうだから、是非訊きたい。
「そうかい。いいよ、なんでも聞いてくんな。
あたいが勇者の魔王討伐の旅に加わったのは2回目の旅さ。
1回目の旅には当時あたいの上の地位にいた男魔法戦士ってやつが同行してたからね、1回目の旅に同行することはできなかったのさ。
男騎士は魔法も剣もなんでもござれ!国一番の腕前の近衛兵士様だったのさ。
そんで、一度の魔王討伐に報いるため、お互いに思っておられた王女様とご結婚!とくらあ。これが今の国王様さね。
そんなことで2度目の討伐には1度目の旅でノウハウを知ってた勇者様と、老魔法使い、それに加えて国で騎士の中で1番目のあたい、男魔法戦士の幼馴染で、回復役として王女様の次にすげえ男僧侶の4人で行ったんだよ。
旅は順調なものだったさ。なにしろ魔族の国までの道にある主要な都市や村は、前回の旅で全部解放してるし、前の魔王軍最強と言われた四天王なんて輩も勇者様が倒しちまってるんだ。
これで前回の旅より時間がかかったらどんなボンクラだってお話さ。
それでも魔物の被害は少なくなる事はあっても、なくなる事はないんだ。
村に立ち寄れば魔物退治の依頼を受け、復興する為に物資が足りなけりゃ、近くの貴族のとこまでいって勇者直々にお願いしたりしたもんさ。
そんな旅の中、とある村に寄ったときに村人女が勇者に言い寄ってきたのさ。
その女の言う事にゃ、『前回の旅で魔物に襲われているところを勇者に助けられ、惚れてしまいました、以前は気持ちを伝える時間がありませんでしたが、諦めきれません。
魔王が倒せていない事は残念ですが、まためぐり合えたこれも天のお導き、あなたの旅が終わるまでお待ちしますので、どうかお付き合いください。』だとさ。
あたいは一目でこいつは怪しいなと思ったもんさ。魔王討伐にはどれだけの年月がかかるかも分からない。それなのにそんな事を軽々しく言える女は碌なもんじゃないねってね。」
勇者にもそのことを言ったの?
「もちろん、勇者にも伝えたさ!ただの村娘なんか、あまり信用するもんじゃないよ。ってねえ。だけど、勇者は旅に出る前に貴族子女にこっぴどく振られてるからね。地位のある女を信用できなくなってたのさ。
なら普通の村娘の方が信用できるって言ってね。結局二人は少しの間村に滞在して、旅の間は手紙のやり取りをしようと約束して、旅を続けることになったんだ。無事に魔王を倒したら結婚しようとか言ってさ。
あたいは最後まで反対したんだけどね。
そして、あたいが懸念した通り、あの女から手紙が来ることは無かったよ。勇者は最初、旅をしてるからすれ違ったんだと自分に言い聞かせていたよ。
旅の内容を面白おかしく書いて、次に向かう街を記して、次の街で半月待っても、あの女から連絡が来ることは一度もなかったよ。
途中からは痛々しいぐらいに明るく振舞ってさ、手紙に書く内容はどうしようとか、あたいに相談してきたり、何度も預り所に足を向けて、あの時の勇者は正直見ていられなかったね。
あまりに痛ましいもので、魔王討伐にも影響が出ちゃいけないって思ってさ。よく相談を受けてたりしてたもんさ。確実に届くにはどこに頼めばいいのか、女の人が喜ぶ贈り物はなんだとか、まだ信じてくれてるかな?なんて不安な胸中もあたいにはよくうち明けてくれたよ。」
他の仲間たちはどうしてたの?
「あいつらはてんでだめさ!!男僧侶は街に着くなり勝手にいなくなるし、どこへとも知れない連絡をよくしてたから、信用できないね、老魔法使いは国一番のひねくれ者で、勇者の事を嘲笑ってたくらいさ!!
それでも勇者は不安に思う事はあっても、あの女の事はずっと信じてた。
だけどね、そんな勇者にとって最悪な事が起こったのさ。
あれはとある集落に立ち寄った時、性質の悪い流行病がはびこってたのさ。運の悪い事に、その病に効く薬ってのが国元にまで帰らないと量を確保できなかったのさ。
近くに言付けを頼める貴族はいないし、一番近くの貴族領はあの貴族子女の領地ってことで頼みづらい。そんな事情からも一度国元に帰る事になったのさ。
そして、その帰り道にあの女のいた村があったもんだから、少し寄り道して、立ち寄る事にしたんだよ。あたいは寄り道が決まった時から嫌な予感がしてたんで、反対したもんさ。魔王を倒してからにしようって、病に苦しんでる人たちに早く薬を届けなきゃいけなかったしね。」
いったいなにがあったの?
「・・・立ち寄った村では最悪な光景がひろがっていたんだ。
村に近付くにつれ、明るい声や盛大な鐘の音が鳴り響いて、何かおめでたいことがあったのがすぐわかったよ。
けどあたいの胸騒ぎは収まらなかった。
村に到着した時にあたいの胸騒ぎが的中しちまったことを悟っちまったんだ。
村では結婚式が催されてたのさ。
勇者と結婚の約束をしたあの村人女と、誰とも知らない男との・・・ね。
そっからの勇者は前とは違う意味で見ていられなかったよ。
まるでなんかの抜け殻のように眼からは生気が抜け落ちて、ぶつぶつと独り言を唱える事が多くなり、それでも魔物と対峙した時は鬼気迫るように屠っていったよ。
そんな勇者の事が、あまりにも見ていられなくなってね。
ある晩勇者に訊いてみたんだ。
『あたいじゃダメかい?あたいは貴族子女みたいに女らしくないし、村人女みたいに純朴じゃあないけど、だけど!!あんたを裏切る事だけは無い、だからあたいを選んではくれないかい。お願いだよ。あんたのそんな苦しい姿をこれ以上見ていたくないんだよ。』ってね。
そうさ、あたいも馬鹿な女さ。惚れた女のいるあいつに、旅をしながら、あいつの相談を受けているうちに、そんなあいつにあたいも絆されちまったのさ。」
それからの彼はどうなったの?
「それからのあいつは以前のように、まだ見ていられる様子に戻ったよ。ただ、裏切られることが立て続けになったせいか、あたいにべったりするようになっちまったけどね。
何をするにしてもあたいが側にいなけりゃそわそわするし、重大な決断をするときには真っ先にあたいに相談してくるようになったんだ。
部屋も一緒、飯も一緒、果ては風呂や便所まで一緒にしようとか言い出す始末さ。
ただ、魔物を相手にするときはそんなことは無くて、まさに勇者、獅子奮迅の活躍で、魔王の元まで一気呵成に突き進んだのさ。
魔王の下にたどりついたら、勇者は何をするでもなく魔王を切り捨てちまった。
あたいたちが活躍する間もなくね。あまりの手ごたえの無さにびっくりしちまったさ。
勇者も何か違和感を感じ取ったらしいけどね。だけど、いくら調べてもなにかあるわけでもないし、魔王が復活した原因も分からないから国へと帰る事になったのさ。」
勇者はかなりあなたに依存してたみたいだけど、何故彼はあなたから離れたの?
「さあね、国に凱旋して、ちょっと経った時さ。いきなりあいつがひどい顔をしてあたいを悪しざまに罵ってきたのさ。
周りも何の騒ぎだと集まってきたところで、あいつは一方的にあたいに別れを言い渡して城から去って行っちまったよ。
それからあいつは城に来ることもなくなり、城下へ定住しちまいやがった。
噂じゃ新しい女をとっかえひっかえで堕落した生活をしてたらしいがね。」
一体なぜあなたはそんなに悪く言われたの?
「・・・忘れちまったよ。
想い人からの罵倒なんざ憶えていても辛いだけだからね。
聞きたいことはこれで全部かい?
あたいも暇じゃないんだ。無いんなら、これであたいは行くよ。」
最後に一つだけ、
あなたにとって、勇者はどんな人だった?
「忘れたい男さ。尽くした覚えはあっても非難される謂われはないからね、さすがにそこまでできた女じゃないあたいからしたら、一時の気の迷いを起こしちまった過去の男さ。
でもまあ、勇者の役目をこなしてたあいつは良い男だったね。」
そう、わかったありがとう。
「じゃ、あたいは行くよ。
あと、あいつの城下での女遍歴なんざ知ったこっちゃないから、自分で調べるんだね。」
さて、人間不信になった勇者は城から去って
どうなるのでしょうか
ファンタジーと銘打っておきながらラブコメ風味になってる
この矛盾・・・これからファンタジーになるのでしょう
きっと、たぶん、めいびー、そうだったらいいなあ