5、貴族子女
『やはり、筆頭宮廷魔術師様はあまり知りませんでしたね。
ただし、有力な手掛かりが手に入りましたね
老魔法使い、彼は残念ながら近くに居ませんが
彼に話が聞けたら、前任の勇者の事が一気に理解できるでしょう。
本日のお相手は貴族子女様
彼女はなかなかバイタリティあふれる方です。
そんな彼女に前任の勇者は惹かれたのでしょうかね。
それでは私はここで失礼します。』
「勇者、様ですか。」
そう、貴族子女様は勇者の過去の女であったと聞いた。
他の人は知らない面を知っているはずだから聞いてみたい。
勇者はどんな人だった?
「勇者様は、私にとっては特に何か思うところのある人物ではありませんでしたわ。
だってそうでございましょう?勇者として創せ・・・いえ、召喚されたのですから、復活する魔王を倒すのが使命。その果てしない使命を終わらせるまで、安息の時は訪れないことが分かり切っているのですから。
ですから、彼の事は割り切っておりましたわ。私はその当時、思い上がりも
甚だしく、自分は伯爵の地位に留まるような者ではなく、いずれは侯爵、公爵を拝命する事が当然であるとも、使命であるとも思っておりましたの。
そのためには何を犠牲にしてもよいと思ってございましてね、彼はその時の踏み台の一つでございました。丁度よかったのでございますの。
利用することに罪悪感を抱かずに済み、彼と特別な関係であると言うだけで一種の箔となり得るのですから。」
魔王が復活する事を知っていたような口ぶり・・・
知っていて教えていなかったの?
「いいえ、私も最初の魔王が倒され、次の魔王が誕生するまで知りませんでしたとも。
ただ、彼を利用するため関係を結んだ後、すぐに新しい魔王が誕生したため、優先的に情報が得られる立場におりましたので。
魔王が滅ぼせないことが分かり、完全に割り切りました。彼は私がのし上がるための踏み台であり、我が国に益をもたらす道具である、と。
今思えば、この時からですわね。私の仮面が綻び始めたのは。
これでも私、昔から演技派でしたのよ。しかし、彼の基は人当たりのよい人物でしたから、友好関係も広くお持ちでしたわ。そのような彼に辛く当たる私はあまりよろしくないように見られ始めたのです。
そのような風評で私の地位を脅かされてはたまったものではないと、彼の悪評を流し、次の魔王討伐のためと銘打って訓練の時間を増やすよう進言し、私から注意を逸らすよう色々と工作いたしましたわ。
おかげで、その時は何の影響もありませんでしたわ。そう、その時だけは・・・
勇者様が2度目の魔王討伐をなさり、凱旋なされる時には私は既に伯爵の地位を追いやられ、子爵に、しかも地方の辺境に飛ばされましたわ。
左遷された時は荒れましたわ。王は私を正当に評価なさらない、正当な評価が得られないのであれば私(わたくし)が王の座を獲るべきである、などとも考えました。
・・・なんとも思い上がりの激しい娘でございました。身の程を弁えると言う事を知らない小娘でありました。」
今はそのように見えないけど。
「そうですか?
そのように見ていただけるならそれは勇者様のおかげでございましょう。
荒れていたとしても、領土を治める貴族でございましたから、執務はこなさなけらばなりませんし、未だに侯爵、公爵となる事を諦め切れきれない私は執務に忙殺されました。
当然です。辺境であるという事は、すなわち魔族との境が近いのでございます。人や物は常に足りず、魔物や魔族の被害は甚大。
そんな中、勇者様のご活躍のおかげで目に見えて執務の負担が減りました。
彼が訪れれば近隣で暴れていた魔物を倒し、病が流行り壊滅寸前の村に訪れれば、薬を揃えるよう奔走し、物資が足りなければ御自慢の膂力を活かして採取し・・・
全体としての執務の量は変わりませんでしたが、誰それが亡くなったとか、被害がどこそこまであったので支援を、などといった暗い話題から、どこそこが解放され、物資を確保できるようになった、魔物が倒され新たな資源を見つけたなど、明るい話題が著しく増えたのでございます。
その御活躍は離れている我が領地にも影響が及ぶほどでございましたわ。
そして、後に首都へと訪れた時、私は後悔いたしましたわ。
彼の、勇者様のご様子が以前と全くお変わりになっていらしたのです。人懐っこい笑顔は見当たらず、誰かと話していても上の空、顔色はまるで幽鬼のようでございましたわ。
恥ずかしながら、その様子を見て初めて、彼を1人の人間であると見たのでございます。辺境という事で自分の領地の民と距離が近くなり、もし自分の領民が彼の様に追い詰められていれば、追いつめられるような状況で有れば、と考えたのでございます。
しかし、私は彼に許しを請う事はできませんでした。
怖かったのですわ。彼を、勇者様を追い詰めたことが私の将来に更に不利益をもたらすかもしれないと考えれば、一歩を踏み出し彼に近づく事を恐れ、そのまま領地に帰り、逃げるように執務に邁進しましたわ。
それがただの逃げである事は気づいておりましたのに・・・」
あなたに、
あなたにとっての勇者はどんな人だった?
「勇者様は私にとって一筋の光明でしたわ。
それは小娘の時であってもです。思い上がりの強い時はその光明を掴むどころか、勇者様すらも私のせいで、その光を陰らせてしまいました。
それでも彼は勇者という光をこの国にもたらし、私も結果としてお救いになられました。」
そう、分かった。
話してくれてありがとう。
「このように勇者様のことを聞いて回っていらしてるのですね。
お次は誰の所に行く予定なのでしょうか?」
次は騎士隊名誉顧問の女騎士様のとこへいくつもり・・・
「そう、
彼女は私よりも性質が悪い女よ、あまり信じすぎないようにした方がいいわ。」
・・・御助言感謝。
お次は過去の女その4です
とびとびですが、足りない頭ひねって考えたものですので、ご了承を