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3、騎士隊隊長

『近衛兵団団長様はあまり勇者の事を知りませんでしたね。

でも、彼の事を知る導入部分としては良い役割だったのではないでしょうか?


今回は騎士隊隊長様、彼は当時から優秀だったそうですね。

それも前任の勇者の指導役に選ばれるほど・・・

そんな彼なら色々知っているでしょう。


勇者の物語は加速していきます。』


「前任の勇者様のこと、ですか・・・」



 そう、何か話しづらいことでもあるの?



「いえ!そのようなことは・・・」


あるんだ。


「え、えぇ、まぁ。今さら何か言ったところで問題が有るわけではないのですが、当時を知る人間からすればあまり好んで話したい話題ではありませんね。」



 当たり障りのないことでもいいから、話してほしい。でも、無理はしないでいい。



「・・・分かりました。では私が知る限りをお話しましょう。」




「彼、勇者様は召喚された当日、近衛兵団から騎士隊へと渡ってこられました。彼を勇者と呼ばれるにふさわしい人物になるよう訓練するようにとの言付けと共に。



 一目見たときに私は落胆しました、それと同時に憤慨したものです。なぜなら彼は、見た目は珍しい黒の髪と瞳をしていましたが、見るからに一般人なのですから。身体は貧相、身体運びもなっておらず、ただの素人を勇者として育てるなど、無茶にも程が有ります。



 我々はこの国で最強を誇る騎士団です。勇者を仕立てないと国を守る事ができないと見なされていることに嘆き、更に我々のような騎士ではなく素人が勇者となる事に憤りを感じ、我々騎士団の心中は複雑であったものです。



 彼はそのような我々の心中などお構いなしに距離を詰めてきました。剣を見れば眼を輝かせ、訓練を見れば息を呑み、魔法を見れば興奮し、そばの騎士と共に語らい、けが人が出れば顔をしかめ

まるで子供の様な反応に、やはり平民か、と落胆を覚えました。



 しかし、彼が訓練を始めたら、そのような気持ちは吹き飛びました。





 彼が剣を振るったとたん、相手の騎士が持っていた剣が吹き飛んだのです。



 もちろん彼が相手した騎士は新兵といっても過言ではないような若輩者でした。だからといって、ただの一般市民が手に取れるような相手ではないはずなのです。戦うことを目的とした訓練を行い、騎士という称号を手にした者の1人であるのですから。」



 彼は何をしたの?



「何をしたというのではないのです。ただ、剣を力いっぱい振り下ろしただけ。

しかし、その『力いっぱい』が問題だったのです。いや、問題というのは失礼でしたね。



 あとから知ったのですが、彼の・・・勇者様の特性は力自慢といって、魔法を使えない代わりに、戦う訓練を行った騎士のおよそ5倍の膂力を発揮されるのです。」



 それだけなら、他の騎士でもいいような気がするのだけど。



「ええ、ただの力馬鹿なら勇者としては認められる事はできなかったでしょう。

しかし、彼は恐ろしい速さで技術を習得し、貧弱だった身体が鍛えられるにつれ、爆発的に力も増していったのです。



 きっと、魔法を使えないのは、常に魔力が肉体に強化をかけていたのでしょうね。基となる肉体が鍛えられれば強化の幅も一気に増えていくのです。


 

 肉体強化と技術の習得速度で、彼は瞬く間に勇者として認知されていきました。



 彼は勇者と呼ばれるとくすぐったいそうにしており、あくまで自分は普通の人間であるとして公言しておりました。そのような振る舞いの通り、彼は貴族や王族との付き合いよりも我々、騎士や出入りの商人、使用人たちと交流を深めていきました。」



 人気が出そうな人柄だったのね。



「そうですね。彼に好意を向ける者は少なからずおりました。ただ、それに気づく余裕もないほどに訓練にうちこみ、訓練が終われば泥のように眠るか、我々と街に繰り出し酒を呑むかでしたからね。



 魔王討伐へと出立する前に気持ちを伝えられた者は、皆無でしたでしょう。そのような噂も聞きませんでしたし。」



 話を聞く限りでは、何か言いにくいことはなさそうだったけど・・・

 何があったの?



「む・・・

そうですね、いまなら、


今ならば話せるでしょうかね。



 しかし、これは聞いていてあまり気の良い話で有りませんので、簡単にお伝えしましょう。


 貴女様ならば御存じでしょうが、魔王というのは、たとえ倒したところで、次の魔王が選ばれるのです。



 我々はその事を前回の勇者様の魔王討伐で初めて知りました。」




「あれは勇者様が一度目の魔王討伐から凱旋なされてすぐの時です。国は魔王討伐成功に湧きかえり、魔王討伐成功の知らせと同時に発表された、王女様のご結婚に国は一番の盛り上がりを見せていました。



 その中で、勇者様はなぜか浮かない顔をなさっており、我々は、勇者様は箔付けのため、御同行なされていた王女様へ懸相なされていたのが結婚発表というので、落ち込んでおられるのだと思っておりました。



 いくら勇者といっても、王女様と気持ちが通じ合うというのは無謀であるとして、我々も慰めるのもそこそこに、からかいながら普段の業務に返って行きました。



 しかし、彼は知っていたのです。次の魔王がすぐに来る事を。

 その証拠に鍛錬を辞めることもせず、その時に仲の良かった貴族子女との時間もそれなりに、身体に技術も鍛えておりました。



 今となってはそれでよかったと思っておりますが。



 それといいますのも、彼がその時に仲の良かった貴族子女というのが、今だから分かる事なのですが、あまりよろしくない女だったのですよ。思い上がりの強い方で、当時伯爵を賜っておられましたが、勇者様のお力で更なる地位を目指そうとなされていたようだったのです。



 現在も彼女は伯爵として、政務をこなしておりますが、一時期子爵に下げられ、荒れておられたともっぱらの噂でした。」



 だから、言いにくかったのね。



「いえ、そこまでならよかったのです。



 問題は勇者様が貴族子女様を悪しざまに捨て、雰囲気も以前のような親しみやすいようなものでなく、更に近寄りがたいようになりました。



 その時は貴族子女様も本性を見せず、評判の良い淑女であられましたから、勇者様の評判がどんどん下降していったのです。



 我々騎士共、近衛兵、更には使用人たちも勇者様を批判し始めたのです。もし戻れるなら、あの時の我々を殴りたいものです。



 初めて愛した女は高根の花で、次に愛した女は愛の無い女、倒した魔王は復活・・・彼の心労は如何程のものであったでしょうか。



 それを理解できない我々に心を開くこともできず、彼はあの時、常に孤独と戦い続けておりました。



 2度目の魔王討伐へと旅立つ事になったときに、どことなくほっとした様子だったのは、私の見間違いではなかったのです。」



 後悔してる?



「後に悔いる、とはよく言ったものですね。彼には懺悔しかありません。仲の良かった我らが信じておりましたら、彼は今もこの国で活躍なされていたに違いありません。」



 そう。最後に、一つ聞きたい事が有る。


 あなたにとって勇者はどんな人だった?

 

「彼は私ども愚か者が潰した英雄です。そして、我々の罪の象徴であられます。」


うん。わかった、ありがとう。





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