9、魔王
『わかりやすい隠し方ですね。
そんなに話しづらい事があるとは・・・私、気になります。
今の彼女に問題があるのか、男僧侶様の心の問題なのか
そんなこんなで他に聞く相手もいない自称勇者の彼女は南へ向かい・・・
北へ行きました。
なかなかワイルドな方向音痴ですね。かわいらしい。
さて、南に行っていると思い込んでいる彼女は誰に出会うのか?
それでは、お楽しみください。』
南・・・南・・・南
南は下・・・だよね
夕方には着くって聞いたのに、
森を歩いてもう3日
皆嘘つきだ。
グスン
暗いし寒い。
こんな日はお母さんと一緒に眠りたい。
お母さんなにしてるかな。
元気に料理してるかも。こんなに寒いんだから、今日はシチューかな?
・・・早く勇者として認められないとお母さん寂しくて死んじゃうかも。
ねえ、あなたもそう思わない?
「いや、君のお母さん知らないし
って、気づいてたんだ
自称でも勇者は勇者なのかな?
一応気配は消してたはずだけど。」
気配の消し方が雑。
何か用?
「迷子を助けてあげようかと思って。」
気配を消して?
「そりゃ、キミが魔物かもしれないしね。
安全第一だよ。」
あなたは魔族なのに?
「ありゃ、そっちも気づかれてたんだ。
すごいね。そっちは何で分かったのかな?」
気配の消し方が雑。
「そっちもか。
まぁ、いいや。
ところで、僕の領地に何の用?迷子って言ってもどこか目指してたんでしょう?」
魔族の領地には用は無い、南の村に用が有った
領地・・・魔族の貴族?
「うん、それはこっちとは真横かな?
こっちは人間の城から見て東だから
貴族・・・うん、そんなものかな。
皆は僕の事を魔王って呼ぶよ。」
ひが・・・
魔王・・・あなたを倒せば勇者?
「なかなか過激なてれ隠しをありがとう。
勇者はそんな簡単になれるものじゃないと思うよ。
それに僕はまだ死にたくないしね。」
そう、なれないならいいや。
だったら南西に行けばいいのね。じゃ、これで。
「そっちは南西じゃなくて、北だよ。
そんなに急がなくてもいいじゃない。ちょっと話していかない?
僕、勇者ってモノに興味が有るんだ。」
私は勇者になれない寄り道に興味はない。
それにそんな化け物みたいな魔力を持ったモノと楽しく会話できる自信もない。
「なかなか辛辣だねぇ。ごめんごめん。勇者って「モノ」、は悪かったよ。
それに魔力か・・・これは生まれつきのものだからね。
そうだ!もし話し相手になってくれたら、昔の勇者の事を教えてあげるよ。
勇者になりたいなら、過去の先人の話は価値が有るんじゃないかな?」
・・・なぜ知っているの?
「そりゃ、僕のおねえちゃんが以前の魔王、つまり僕が元魔王の弟だからさ。
おねえちゃんは一時勇者と暮らしてた事があるからね。
その時に何度か話した事が有るし、おねえちゃんからも色々聞いたからね。」
気が変わった。話して。どんどん話して、さあ話して。やれ話せ。
「食い付きがすごいね。
勇者のファンなの?」
そんなもの。私のことはいいから早く。
「クスクス。分かった分かった。けど僕だけが話してばかりなのは、僕がさみしいから、僕からも聞くよ。」
「さっきも言った通り、僕は魔王、そして、昔魔王だった魔族の弟。
魔族は総じて寿命が長いからね。これでも僕は100年は軽く生きてるし。それでも若造に違いは無いんだけど。
そして、今から3代前の魔王が僕のおねえちゃん。しかも4代前の魔王がお父さん。
僕たちは一家そろって魔王なんだ。
君の家族は?」
私のお母さんは元娼婦。今は定食屋を営業してる。
お母さんの料理はさいこーでさいきょー。
お母さんの料理を食べた男は全員ほねぬきなんだって。
特にイモが主役の煮物はちょーさいきょー。
肉とニンジン、玉ねぎのハーモニーがえも言えない。
男殺しで、これでお父さんを落としたんだって、自慢してた。
それで、勇者はいつ出てくるの。
「そんなに焦らなくてもすぐ出てくるよ。
僕たちのお父さんが魔王になったのはその前の魔王が突然やってきた勇者に殺されたから。
その時の魔王は殺されても仕方ない位の事をしてたからね。仕方ない。
長い間続いていた侵略戦争は魔王・・・魔王がいっぱい出てきてややこしいね。
初めて勇者に殺されたのが魔王1、お父さんを魔王2、おねえちゃんを魔王3、僕を魔王6っていうことにするね。僕はその人から数えて6代目だから。
そう、それで、魔王1が長い間続いていた戦争の元凶だったんだ。
ずいぶん前から既に魔族の皆は安定した生活を送れていたんだ。
それでも、魔王1は世界統一を掲げて人間の国に侵略し続けていたんだ。
だから、人間の恨みをかっても仕方ないんだ。
たまに変な事を言ってたし、あまりに長い事生き過ぎたからボケてたんじゃないのかな?
『鎮まれ!俺の左腕!!』とか『フハハハハハ!我が居なくなったところで人間が居る限り第2、第3の魔王が・・・』『ククク、○○がやられたようだな、しかしあやつは四天王の中でも最弱、いいか誰か一人いなくなればこのセリフを必ず皆で集まって話せよ?室内は暗くして、ろうそくを立てて・・ってみなどこへ行く!!』なんて、ちょっと残念だったしね。
魔王としての腕っ節だけなら皆認めてたんだけど・・・
まぁ言ってしまえば脳筋なだけってことだよね。
そして魔王1が倒されて、宰相だったお父さんが魔王として即位した。
お父さんは、魔王1の様に脳筋じゃなかったからね、人間の国と講和して、今の国の安定を目指そうとしたんだ。
けど、お父さんは実際に動く前に勇者に殺されちゃった。」
・・・
「あぁ、今は別に怨んじゃいないよ。
最初はそりゃ殺したいほど憎んだものだけど。
っていうのも、おねえちゃんの事が有ったからなんだ。
ところで、君はなんで勇者を目指してるの?」
私は・・・勇者と縁が深い人を知っている。
私は勇者を名乗る責任が有る。
だから、私は勇者でありたい。
「ふ~ん。
答えにはなって無いんだけどね。まぁいいや。
そう、それでまた魔王の座が空位になってしまって、急な事だったから、長姉だったおねえちゃんが魔王を継いだんだ。
僕はまだ比較的幼かったからね。
最初の頃のおねえちゃんは大好きだったお父さんが殺されたことが良い面でも悪い面でも影響されすぎてたんだ。
お父さんが殺された事に対しての憎しみが強いから、勇者に復讐したい
だけど、新任の魔王に従う魔族も少ない。だから強い統率力、そしてずば抜けた治世能力を発揮せざるをえなかったんだ。
良くも悪くも僕たち魔族はおねえちゃんっていう強い魔王の元、まとまった。
そして、勇者への、人間への復讐の準備が整ったのが、お父さんが死んでから2年後のこと。
2年で一つの国をまとめ上げたんだ。それだけでもおねえちゃんの優秀さが垣間見れたよ。
お父さんの時は魔王1が勇者に打倒されてすぐ、何の準備もなしに魔王2として声明をあげちゃったからね。あれは例外だよ。
人間たちとの講和をやるにしても、もっと時間かけて準備しないといけなかったんだ。
そして、おねえちゃんが魔王3として宣戦布告をしたら、すぐに勇者がやってきたよ。
今までとは違って1人だったけどね。
その時の勇者は、既に武闘派の魔王だろうと、魔術師系の魔王だろうと、単独で勝利できる強さを身につけてたんだ。
そんな勇者に勝利できて、かつ人間たちに復讐できる作戦が勇者を寝返らせて、勇者の力でもって人間の国を滅ぼさせる事。
おねえちゃんはそのために魔族に命じて襲わせないようにし、襲いかかりそうな魔物は事前に討伐させておいたんだ。
そういえば、人間たちにとって、魔族と魔物の違いは理解されてるのかな?」
理性が有るかどうか?
基本的には同じものだと思われているのが通例だけど
「うん、違うね。
魔族は人なんだ。ただ、魔力の保有量、保有限界量が種族的に高いんだ。
魔力が有りすぎると、力を発揮しやすい形に身体がかわっちゃうんだ。
だから、生まれたばかりの赤ちゃんは人間の赤ちゃんとほとんど変わりないよ。
魔物はその動物版。
人間と魔族とも違う森の民なんて言う耳の長い美形種族がいるでしょう?
あれも魔力が顔に影響を与えやすい人間が集まって、そこ以外に影響を受けにくくなっただけで、彼らは人間でもあるし、魔族でもあるんだ
つまり、人間との違いは力を貯め易いか、あまり貯められないかでしかないんだ。」
ごめんなさい・・・。
最初、あなたの事を化け物みたい、って言ってしまった。
「あぁ、別に気にしてないからいいよ。
魔族としてもこれだけの量の魔力は珍しいから。
それで、話は戻るけど、人間は十人いれば十人の考え方が有るでしょう?
魔族も同じ、そんな中で国をまとめあげたおねえちゃんは本当にすごかったんだ。
その原動力が復讐心だとしてもね。
そして、ついに魔王3と勇者が対面したんだ。
結果として、魔王3は勇者を懐柔することに成功した。
成功しちゃったんだ。
勇者の調査は綿密に行われていて、勇者が切実に求めているものを魔王3は差し出したんだ。
愛情をね。
もちろん、演技に決まっているさ。
相手はお父さんを殺した相手なんだから。
魔王3の計画では人間の国を勇者に滅ぼさせた後、真実を明かして絶望を与え、殺してしまう予定だったんだ。
けどね、想定外の事がおねえちゃんに起こってしまったんだ。
おねえちゃんが勇者の事を本当に愛してしまったんだよ。
最初は僕の家の中で呪詛を吐いていたのが、徐々に普通の文句になって、いつの間にか只のノロケに変わっていたよ
あの時はほんとにむず痒かったよ。おねえちゃん全然自覚が無いんだもの。
『殺してやる』って怨念が『何故目玉焼きにソースなのか、塩のみが王道だろう』みたいな不満
そして『あいつは甘い卵焼きが好きなんだそうだ・・・べ、別に作ってやりたいなんて思っていないぞ!ただ、あ、あいつの好きなものはどんな味なのか気になっただけんなんだからな!!』なんて風に変わっていくのを目の前でやられたわけですから。
そんなある日、僕はつい突っ込んでしまったんだ。
『そんなに勇者のことが好きなら、復習なんて諦めたら?』って・・・
僕はお父さんの事で勇者は憎いけど、あれはお父さんにも問題があったなんて考えだったから、おねえちゃんの想いに気付けなかった。」
想い?
「執念とでもいった方がいいかな。
おねえちゃんは魔王3として、もう既に後に引き返せない位に復讐計画を進めていたし、
途中で諦めるには、おねえちゃんの中のお父さんの存在が大きすぎた。
しかし、おねえちゃんは勇者のことを愛してしまった。
そんな矛盾の中でおねえちゃんは最悪の選択をしてしまったんだ。
勇者に裏切りの演技をして闇討ちをしかけたんだよ。
それも勇者ならば必ず気づかれるようにしながら。
お父さんの復讐を諦めきれず、勇者への愛情も捨てられないおねえちゃんは、魔王3として勇者に殺される道を選んだ。
ただの逃げでしかないけど、あの時のおねえちゃんはその道を選ぶしかないと思い込んでしまった。
そして、もっと悪い事に勇者が殺されることを是としてしまった。
そう、おねえちゃんが勇者を愛したように、勇者も魔王3を愛していたんだ。
おねえちゃんの愛情が演技だと見抜いたうえで。
パニックに陥ったおねえちゃんは魔法を暴発させ、勇者に大けがをさせてしまった。
その時、 大けがをした勇者の元へ人間の仲間が助けに来たんだ。
おねえちゃんが呆然としている内に勇者たちは逃げ去り、残ったおねえちゃんは自分のしでかした事と、勇者の理解できない行動でただ、涙を流して座り込んでた。
それからおねえちゃんは勇者を忘れるように政務にはげんだよ。
いや、忘れなかったから仕事をしたのかな?
だって、そのあと、未だに傷の癒えていない勇者と仲間たちが魔王3を殺しても、その後には思っていたほどの混乱が国に生じなかったんだ。
最初、逃げとして、勇者に殺される事を衝動的に選んだ時は違って、おねえちゃんは魔王3としての執務をこなしている中で、自分がいなくなっても国が国としてまわるように根回ししていたんだ。
まあ、そのおかげでちょっとですまない問題も起こったんだけど、それは魔王3が悪いんじゃなくて、そのあとの皆が悪かっただけだからね。総じて言えばおねえちゃんはすごかったんだ。
と、まぁ、僕たち魔族が知る、勇者のお話はこんなところかな。
魔族によってばらつきはあるけど、混乱をもたらす魔王と人間に文句はあっても、勇者個人を憎んでいる人は少ないよ。
色々なモノから裏切りをうけて、それでも何の利益もない魔王討伐なんて事をし続けたんだ。
悪い魔王を打倒してくれた英雄という見方も無くは無いしね。」
利益が無い?英雄?
「彼がおねえ・・・魔王3を打倒したあと、混乱の生じない安定したこちらにも人間の国の噂が流れてきたんだ。
いわく、『勇者は魔族に恭順した裏切り者である。』『本当は作られた存在で人間ではなく、魔族に近い』『勇者は仮の姿、本当は彼自身が魔王。人間の国を内部から滅ぼすための刺客』
利用するだけ、利用しておいて、少しでも自分たちの都合が悪くなると手の平をすぐ返す。
そんな国で幸せになれるはずが無く、肩身の狭い思いで、生きざるをえないのではないか?
っていう風に考える魔族たちもいるからね。つまりは同情心から評価が上がっているのさ。」
そう、じゃあ、最後に一つ
あなたにとって勇者とは、人間とは何?
「幸せになってほしかった人・・・かな?
できればおねえちゃんと一緒に暮らして、二人ともが幸せになってほしかった。
それは決して夢物語ではなかったはずなんだから。
人間か・・・
今の状態を普通に思わないでほしい、当たり前を当たり前のままにしないでほしい人たちかな?
今のあなたたちの生活は、誰とも知れない血で回っているのに気づいて。」
わかった。ありがとう。
「満足いってくれたかな?
じゃあ、こっちからも質問。
君にとって魔族って、何?」
・・・わからない。
いままで分かろうとしていなかったら、分からない。
あなたが魔王だからといって、それを鵜呑みにするわけにはいかない。
だから分からない。
・・・けど、分かろうとしたら分かることはできるはず。
それを今日確信した。
ありがとう。
「アハハ。そう言ってくれたら僕もここまで出向いた甲斐があったものだよ。」
私と出会ったのは偶然じゃなかったんだ。
「そりゃ、ね。
人間の目撃情報は重要だからね。
今、戦争の起こるような火種は起こしちゃだめなんだ。講和を目指す魔王6としても、ね。」
偶然だったら運命なんてモノをしんじたのに・・・残念
「ブッ
・・・ほんと?」
ウソ
そんな簡単に運命の相手なんて見つからない。
「あ~くそ!
最後の最後にやられた。
よし、そんな君に御褒美。
人間の国から東は僕たち魔族の国、南は人間の国の村々、西は荒野、じゃあ、北の方は?
さっきいった森の民が住んでるんだ。
国へ帰りづらかった勇者は、傷の療養のために森の民の集落に少なくない時間滞在したそうだよ。
勇者おたくの君には嬉しいんじゃないかな?」
おたく?
「あぁ、勇者の国の言葉で、その事柄に熱狂的になれる人たちをそう呼ぶらしいよ。
キミにピッタリじゃないか。」
おたく・・・わかった。
今日から私は勇者おたくの自称勇者。
勇者おたくの自称勇者は魔族と人間の講和に尽力する事を誓う。
「クスクス。
いいね。ありがとう。
それじゃあ、またね。
今度は一緒に御飯でも行こう。勇者の事は抜きでさ。
講和できるようお互い頑張ろう。」
なんか少し心がぽかぽかしてきたかも。
次は森の民の集落・・・南?
南は・・・・・・あっち。
西だっけ?
『・・・私も間違える事はあります。
ええそうです、間違えましたー
進行役のくせに間違えましたー
どうもすみませんー
謝罪と賠償をしたらいーんですかー
ふんだ、どうせ私も方向音痴ですよーだ。
次の人なんて、方向音痴な私に教えてもらわなくても分かるんじゃないですかー
北も東も分からない人生の迷子が言う事なんてどうせ無価値なんですからー
ふんだふんだ』




