第4話 亡霊(ゴースト)の潜むスマート・ドック(後編)
こんにちは、仁胡 黒です。
第4話「亡霊の潜むスマート・ドック」の後編。
前編で佐藤が追っていた「幽霊ID」の正体と、恩田が仕掛けた「事故」の裏側を暴きます。
デジタルな偽装を、物理的な「位置」というアナログな証拠で崩す。和戸とシャーロットの連携、お楽しみください!
逃げろッ!! 潰されるぞ!!」
叫び声とほぼ同時に、俺は隣にいた高瀬の襟首を掴んで、コンテナの隙間へと飛び込んだ。
一秒後。鼓膜を突き破るような轟音とともに、数十トンの鉄塊が大地を叩いた。凄まじい振動が足の裏から突き抜け、視界が粉塵で真っ白に染まる。
激しい咳き込みながら、俺はスマートグラスの無事を確認した。
(……おい、無事か。システムへの衝撃は?)
『問題ありません、和戸。……落下したのは、高濃度の洗浄用薬品を積載した危険物コンテナです。本来、ここへ運ばれる予定のない荷物です』
俺は粉塵の中で、一人だけ真っ先に安全圏へ逃げ込んでいた恩田を睨みつけた。
(シャーロット、落下地点の分析を。……あいつ、何を守ろうとした?)
『……予測完了。もし、今のコンテナが予定通りの出力で激突していれば、その直撃地点は——佐藤氏が最後にログインしていた「ゴーストID」のコンテナ、109番の真上でした』
なるほど、そういうことか。
俺はコートを払い、膝をついている恩田に歩み寄った。
「恩田さん。あんた、さっき『停電だ』って騒いでる最中、自分のタブレットを操作してましたよね。……暗闇の中で、あんたの顔だけが液晶の光で青白く浮いてたぜ」
「な、何を……! 私は復旧を試みようと……」
「いいや、逆だ。あんたは『予約されていた事故』の実行ボタンを押したんだ」
俺は、落下の衝撃で扉が歪み、中身が露呈した「109番コンテナ」を指差した。中からは、佐藤の遺体と、大量の密輸品が転がり落ちている。
「佐藤が追っていた『幽霊船』のデータは、あの109番コンテナの中身を隠すためのものだった。あんたは、今日ここに集まった俺たちもろとも、あの証拠品を『危険物の落下事故による火災』で焼き尽くすつもりだったんだ。……違うか?」
恩田は絶句し、ガタガタと震え出した。だが、すぐに顔を歪めて笑った。
「……フン、証拠はあるのか。このドックのシステムは完璧だ。誰が操作したかなんて、ログには残らない!」
(シャーロット、トドメだ)
『了解。……恩田さん、あなたは「幽霊ID」を使えば足がつかないと思ったようですが、物理的な証拠を見落としています』
俺はシャーロットが耳元で囁く解析結果を、そのまま恩田に突きつけた。
「あんたが今使ったタブレット。……このドックのメインサーバーは、外部からのハッキングを防ぐために、操作端末の**『物理的な位置情報(GPS)』**をミリ単位で記録している。……今、この暗闇の中で、落下コマンドを実行した端末の場所は、あんたが立っていたその位置と完全に一致した。……幽霊は、足跡を残さないが、あんたの端末はバッチリ残してたってわけだ」
恩田は手元にあるタブレットを、まるで熱い鉄板でも触ったかのように放り出した。
無人のはずのドックで、自らが信奉したシステムに引導を渡された男は、そのまま崩れ落ちた。
『……お疲れ様でした、和戸。今回は私の「制動介入」が間に合わなければ、今頃あなたも灰でした。……次は、もう少し安全な依頼を受けてください』
(……へっ、善処するよ、相棒)
お読みいただきありがとうございました。
今回は、犯人が自らの管理権限を悪用し、「事故を装った証拠隠滅」を計るというエピソードでした。
「幽霊」を追う者が、実は一番物理的な足跡を残していた……という皮肉。
第5話は、さらに深い「和戸の因縁」に触れる事件が始まります。ぜひご期待ください!




