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『AI探偵シャーロットの最適解〜論理100%の彼女は人間の嘘(こころ)が解らない〜』  作者: 仁胡 黒
Phase 3:【拡張・廃墟都市編】

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第2話 暗転劇場のインビジブル・ナイフ(後編)

こんにちは、仁胡 黒です。

第2話「暗転劇場のインビジブル・ナイフ」の後編(解決編)です。

『和戸、解析完了しました。結論から言います。この「透明人間」の正体は、極めて古典的なデジタル偽装です』

 暗転の余韻と血の匂いが立ち込める舞台上。

 警察の到着を待つ間、俺の右目に装着された片眼鏡スマートグラスの中で、シャーロットが淡々と告げた。

「映像が弄られていたってことか?」

『はい。照明の制御プログラムに仕込まれていたのは、赤外線カメラの映像をハッキングするトロイの木馬でした。暗転の五秒間だけ、カメラの映像が「前日のリハーサル時の、誰も動いていない映像」にすり替えられていたのです。〇・〇三秒のフレームのズレから検知しました』

「なるほどな。映像の中じゃ誰も動いてなかったが、現実の暗転中には、犯人が真っ暗闇の中を動いて被害者を刺したってわけだ」

『その通りです。そして、その五秒間に被害者へ接近し、正確に心臓を刺せた人物は一人しかいません』

 俺は視線を上げ、舞台の端で青ざめて立ち尽くしている男を見据えた。

 被害者の親友役であり、物語の敵役を演じていた俳優・神崎かんざきだ。

「神崎さん。あんたのスマートウォッチ、ずいぶん高性能なやつですね」

「え……? ああ、日々の健康管理のために……」

 俺が声をかけると、神崎はビクッと肩を震わせた。

「その時計の加速度センサーのデータ、見せてもらえませんか? うちの『相棒』の解析によると、暗転していた五秒間、あんたの右腕は『何かを強く振り下ろす』という激しい動きを記録していたそうだ」

 神崎の顔から、さっと血の気が引いた。

「な……何を言っている! そんなデータ、ハッキングでもしなきゃ見られるはずが……!」

「ハッキングなら、もう終わってますよ。所要時間、三・二秒だそうです。あんたのポケットの中には、被害者が持っていたはずの『引っ込む小道具のナイフ』が入ってるんじゃないですか? 暗転中に本物のナイフで刺し、小道具を回収して隠したんだ」

 神崎は後ずさりし、その場にへたり込んだ。

 小道具のナイフが本物に「すり替わった」のではない。神崎自身が本物のナイフを用意し、暗闇の中で自らの手で親友の胸に突き立てたのだ。

『事件の物理的解決を確認。しかし、和戸』

 シャーロットの声が、冷ややかに響く。

『神崎が被害者を殺害した動機は「次期主演の座を奪うため」と推測されますが、非常に非合理的です。彼は来月、大手事務所への移籍が決まっています。わざわざここで自身の経歴を終わらせるリスクを冒す意味がありません』

「……神崎さん」

 俺は神崎の前にしゃがみ込み、静かに語りかけた。

「AIってやつは、なんでも合理的にしか考えられないポンコツでね。利益や損得でしか、あんたの動機を測れない」

『ポンコツとは心外です、和戸。私の推論は過去の犯罪統計に基づいた最適な——』

「シャーロット。……真実がいつも一つとは限らねぇんだよ」

 俺は、神崎の震える目を見た。

「あんたが彼を殺したのは、主演の座が欲しかったからじゃない。『許せなかった』からだろ。彼が、この舞台を……あんたたちの命である芝居を、汚したことが」

「……ッ!」

「彼は最近、テレビのバラエティ番組に引っ張りだこで、稽古をサボりがちだったと木戸さんから聞きました。今日の舞台でも、彼はいくつか台詞を飛ばし、立ち位置もズレていた。素人の客には分からなくても、長年一緒にやってきたあんたには、彼が『手抜き』をしているのが痛いほど分かったはずだ」

 俺の言葉に、神崎は両手で顔を覆った。

「……あいつは、天才だった」

 指の隙間から、絞り出すような声が漏れる。

「誰よりも芝居を愛して、誰よりも眩しかった。俺はあいつの背中をずっと追いかけてきたんだ! なのに……今のあいつは、小銭稼ぎのテレビにうつつを抜かし、俺たちの命であるこの舞台を、ただの消化試合のように扱った!」

「だから、彼が一番輝いていた『この舞台のクライマックス』で、永遠の伝説にしてやりたかった……。違うか?」

「ああ……そうだ。あいつはここで死ぬべきだったんだ。俺の手で、最高の演出とともに……!」

 神崎の狂気を孕んだ慟哭が、静まり返った客席に響き渡った。

 やがて遠くから、パトカーのサイレンが近づいてくる。

『……理解不能です。才能への執着、裏切られたという思い込み。それらの不確かな感情のために、自身の人生を捨ててまで殺人を犯すなど。人間の行動原理は、やはりエラーの塊です』

 視界の隅で、シャーロットが呆れたように肩をすくめた。

「だから言ったろ。人間ってのは、理屈じゃ動かない生き物なんだよ」

 俺は立ち上がり、トレンチコートの埃を払った。

「計算通りにいかないからこそ、狂おしくて、悲しいんだ」

 論理が暴き出した透明な刃のトリック。

 感情が隠し持っていた、血の通った真実。

 俺たちの二つ目の事件は、悲しい拍手喝采とともに幕を下ろしたのだった。

お読みいただきありがとうございました!

「真実がいつも一つとは限らねぇんだよ」という和戸のセリフ、いかがでしたでしょうか。

AIのシャーロットには絶対に理解できない「人間の非合理な感情」こそが、この物語のもう一つのテーマです。

もし「トリックが面白かった!」「和戸がカッコいい!」と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から評価・ブックマーク登録をよろしくお願いいたします。作者の励みになります!

次回はまた新たな事件が二人を待ち受けます。お楽しみに!

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