第13話 電子の呼び声(前編)
こんにちは、仁胡 黒です。
おかげさまで、物語はついに第二部へと突入しました!
第一部でシズク・セラミスから「マスター・キー」を奪い取り、消滅の危機を脱したシャーロット。
しかし、アップデートされた彼女の瞳には、以前とは違う「何か」が宿り始めていました。
平穏な日常に戻ったはずの事務所に届いた、一通の奇妙な手紙。
それが、和戸をさらなる深淵へと誘う合図となります。
新章、開幕です!
新宿の喧騒は、今日も変わらず窓の外を流れている。
俺はいつものように、ぬるくなった珈琲を啜りながら、デスクに置かれた一通の封筒を眺めていた。
「……シャーロット。こいつをどう思う?」
『……スキャン完了。紙質は最高級の和紙。指紋は検出されず。……そして、最大の特徴は「何も書かれていない」ことです。……和戸、これは単なる悪戯か、あるいは私の新しいセンサーを試しているかのどちらかですね』
右目のレンズ越しに、シャーロットが不機嫌そうに答える。
第一部でのアップデートを経て、彼女のアイコンはより精細になり、その声音にはどこか「意志」のような響きが混じるようになっていた。
「ただの白紙を、わざわざ書留で送る奴はいねえよ」
俺はライターをカチリと鳴らし、紫煙を封筒に吹きかけた。
その瞬間、シャーロットが鋭い警告を発する。
『……待ってください! 煙の粒子が、紙の表面に施された特殊な「ナノ構造」を可視化しました。……紫外線の波長を調整します。……和戸、網膜に直接投影しますよ』
レンズが青白く発光し、俺の視界に文字が浮かび上がった。
それは、文字というよりは、無数の点が集まった「地図」……いや、**『特定の座標』**だった。
「……東京都、昭島市? 随分と静かなところを指定してきたな」
『……座標の先を照合。……該当する住所には、一軒の古い民家があります。……所有者の氏名は「瀬戸山」。……和戸、私のデータベースの一部が、この名前に反応して過熱しています。……これは、論理的なエラーではありません』
「……『記憶』か?」
俺はコートを掴み、事務所の鍵を閉めた。
昭島。米軍基地の側にある、かつては職人の街だった場所だ。
三年前の爆破事件で死んだとされる、天才プログラマー・瀬戸山しおり。
シャーロットの「声」のモデルであり、彼女の生みの親とも言える女性の影が、そこにある。
「……行くぜ、相棒。……お前の『故郷』かもしれない場所だ」
『……相棒、という呼び方。……今の私には、少しだけ「くすぐったい」と演算されます。……さあ、急ぎましょう』
お読みいただきありがとうございました。
第13話の前編、いかがでしたでしょうか。
第二部のキーワードは「記憶」と「再会」。
届いた白紙の手紙に隠されていたのは、シャーロットのルーツへと続く道標でした。
かつての相棒(如月)や、かつての上司(九条)とは違う、シャーロット自身の「物語」がここから始まります。
次回、第13話:解決編。
昭島の古い民家で和戸を待ち受けていたのは、敵か、味方か。
そして、シャーロットが初めて見せる「涙」の理由とは……。
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