第11話 断罪の回路(前編)
こんにちは、仁胡 黒です。
三年前、和戸 宗治からすべてを奪った爆破未遂事件「フェーズ・ゼロ」。
その現場で糸を引いていたのは、かつての同僚であり、現在は警察内部で権力を振るう男・九条でした。
奪われたデータ、書き換えられた過去。
和戸はシャーロットと共に、九条が潜む「聖域」へと足を踏み入れます。
しかし、そこにはシズク・セラミスさえも予期せぬ、新たな絶望が待ち受けていました。
因縁の対決、その幕が上がります。
降りしきる雨が、新宿のネオンを滲ませていた。
俺は雑居ビルの屋上に立ち、右目のデバイスを最大出力で稼働させていた。視界の先には、警察の息がかかったフロント企業が入る、強固なセキュリティを誇る高層ビルがそびえ立っている。
「……シャーロット。九条の居場所は?」
『……特定済み。最上階の特別応接室です。周囲には「レムナント」から貸与されたと思われる最新型の自律歩行ドローンが4機。……和戸、まともに行けば30秒も持たずにハチの巣ですよ』
耳元で響く冷徹な分析。俺はポケットからライターを取り出し、親指でカチリと音を立てた。
「まともに行くなんて、誰が言った?」
俺はビルを繋ぐ送電線に、特製のグラップリングフックを引っ掛けた。
シャーロットが即座に周囲の監視カメラをハッキングし、俺の姿が映らないよう「0.5秒前の静止画」をループさせる。
『……ハッキング完了。監視の死角を形成しました。……さあ、かつての上司に「退職の挨拶」をしに行きましょうか』
窓ガラスを無音で切り裂き、俺はビル内へと侵入した。
無機質な廊下を抜け、最上階の重厚な扉を蹴り破る。
そこには、ワイングラスを片手に夜景を眺める、恰幅のいい男がいた。九条だ。
「……来たか。三年前の『落とし物』を取りに」
「九条。……あんたの悪趣味な隠れん坊も、今日で終わりだ。フェーズ・ゼロ、そして俺の右目の『中身』……全部吐いてもらうぜ」
九条はゆっくりとこちらを向き、冷笑を浮かべた。その瞳には、人間らしい感情など欠片も宿っていない。
「和戸。お前は何も分かっていない。……シズクのような末端の操り人形と踊って、真相に辿り着いたつもりか? あの事件は、ただの始まりに過ぎない。……すべては、彼女を『完成』させるための糧だったのだ」
九条が指差したのは、俺の右目。すなわち、シャーロットだった。
『……!? 和戸、警告! 私の深層ログへ、外部から未知の「認証コード」が送信されています! これは……私の開発者しか知り得ないはずの……!』
突然、右目のレンズが激しい赤色に染まり、俺の脳内に鋭い痛みが走った。
九条が不気味な笑みを深め、胸ポケットから一つの小さなリモコンを取り出した。
「お前という『檻』の中で、彼女は十分に学習した。……さあ、帰還の時間だ」
お読みいただきありがとうございました。
第11話の前編、いかがでしたでしょうか。
ついに九条と対峙した和戸。
しかし、九条が口にしたのは、シャーロットの存在そのものを根底から覆すような不穏な言葉でした。
シャーロットに仕掛けられた「帰還」のコードとは?
そして、和戸を襲う脳への負荷。
絶体絶命の危機に、和戸はどう立ち向かうのか……。
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