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『AI探偵シャーロットの最適解〜論理100%の彼女は人間の嘘(こころ)が解らない〜』  作者: 仁胡 黒
第一部:探偵始動・事件編

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第2話 暗転劇場のインビジブル・ナイフ(前編)

こんにちは、仁胡 黒です。

第2話から、いよいよ本格的な事件に突入します!

観劇中に起きた、暗闇の中での不可能犯罪。

AIとアナログ探偵のコンビは、この「透明な刃」の謎をどう解き明かすのか?

お楽しみください!

「……理解に苦しみます。なぜ人間は、このような非効率な娯楽を好むのでしょうか」

 下北沢にある小劇場の最後列。

 カビと埃、そして独特の熱気が入り混じった薄暗い客席で、俺の右目に装着された片眼鏡スマートグラスから不満げな声が響いた。

 視界の隅では、銀髪のAI少女・シャーロットが腕を組んで宙に浮いている。もちろん、彼女の姿は俺にしか見えていないし、声も骨伝導イヤホンを通じて俺にしか聞こえていない。

「映像作品であれば、最新のCGとAI音声を用いることで、演者の体調不良や台詞忘れのリスクをゼロにできます。わざわざ狭い空間に集まり、不完全な人間の『嘘(演技)』を鑑賞する行為は、著しく合理性を欠いています」

「だからお前はポンコツなんだよ、シャーロット。この演者の汗と息遣い、客席との一体感。計算通りにいかない『生モノ』だからこそ、胸を打つんだ」

 俺は小声でぼやきながら、舞台上に視線を戻した。

 今日は、警察時代に世話になった先輩であり、現在は退職してこの劇団の支配人を務めている木戸きどから、「たまには顔を出せ」と招待券を送られて観劇に来ていた。

 舞台ではちょうど、物語のクライマックスが始まろうとしている。

 主演の若手男優が、裏切り者の敵役に向かって短剣を突きつける緊迫したシーンだ。

「覚悟しろ! これでお前の野望も終わりだ!」

「ふん……やれるものなら、やってみろ!」

 男優が短剣を振り上げた瞬間。

 バツンッ! と音を立てて、劇場の照明がすべて落ちた。『暗転』による演出だ。

 客席が完全な闇に包まれ、静寂が訪れる。次に照明が点いた時、敵役が倒れている……という演出なのだろう。

 しかし、その闇の中で響いたのは、台本にはないはずの「悲鳴」だった。

「がああああっ!?」

 ドサッ、と重いものが床に倒れ込む音。

「な、なんだ!?」

「照明! 早く明かりを点けろ!!」

 暗闇の中で怒号が飛び交い、数秒遅れてパッと舞台の照明が全開になった。

 客席から、悲鳴が上がる。

 舞台の中央。仰向けに倒れていたのは、短剣を持っていたはずの主演男優だった。

 彼の胸には深々と刃物が突き刺さっており、真っ赤な鮮血が舞台の床に広がっている。血糊なんかじゃない、本物の血の匂いが劇場を覆った。

「誰も動くな!! そのままの席に座っていろ!」

 俺は客席から立ち上がり、探偵のライセンスをかかげながら舞台へと飛び乗った。

 首筋の脈をとる。……ダメだ、すでに息を引き取っている。心臓を一突きだ。

「和戸! やっぱり来てくれていたか!」

 舞台袖から血相を変えて飛び出してきた支配人の木戸が、俺の姿を見てすがるように叫んだ。

「木戸さん、警察と救急車は?」

「スタッフが呼んでいる! 和戸、頼む、何が起きたか見てくれ! 招待した矢先にこんな……嘘だろ、なんで小道具のナイフが本物にすり替わってるんだ!?」

 木戸の言葉通り、男の胸に刺さっているのは、小道具と全く同じ装飾が施された本物のサバイバルナイフだった。

 俺は片眼鏡のつるを指でトントンと叩いた。

「出番だぞ、シャーロット。ただの事故じゃなさそうだ」

『了解しました、和戸。ただちに本劇場のセキュリティシステム、及び照明・音響制御サーバーへの侵入を開始します。……ハッキング完了』

 視界いっぱいに、無数のコードと劇場の見取り図が展開される。

「犯人は、暗転の最中に小道具を本物のナイフにすり替え、彼を刺した。暗転時間は約五秒。その間に近づけたのは、同じ舞台上にいた敵役の俳優か、舞台袖にいたスタッフだけだ。カメラの映像はどうなってる?」

 俺の問いに対し、シャーロットは珍しく数秒の沈黙を置いた。

『和戸。舞台上部に設置された、演出用の赤外線カメラの映像です。暗転中の五秒間がすべて記録されています』

「よし、誰が彼を刺した?」

『……誰も。映像を見てください。暗転中、被害者の半径二メートル以内には誰も近づいていません。敵役の俳優も、恐怖でその場に立ちすくんでいます』

 俺は目を疑った。

 赤外線映像の中の主演男優は、真っ暗闇の中で一人、見えない何かに胸を貫かれたようにのけぞり、倒れ伏していた。

『さらに不可解な事実があります。被害者が振り上げたナイフは、暗転する〇・一秒前の映像まで、間違いなく刃が引っ込む「安全な小道具」でした。事前にすり替えることは不可能です』

「誰も近づいていないのに、小道具が本物に変わり、自ら命を絶つように刺さったって言うのか?」

『はい。現在の物理法則に照らし合わせると、これは「透明人間による犯行」としか説明がつきません』

 シャーロットの無機質な声が、俺の背筋に冷たいものを走らせた。

 密室ならぬ、観客全員が見ていた中での、透明な殺人鬼。

「……面白い。魔法なんて存在しない以上、必ずどこかに仕掛けがあるはずだ」

『同意します。物理的なバグが存在しないのであれば、これは巧妙に設計された「エラー」です。和戸、照明の制御プログラムのログから、不可解なデータを発見しました。……解析に、あと十秒いただきます』

お読みいただきありがとうございます。

前編部分の不自然な描写を修正いたしました。ご指摘に感謝です!

密室ならぬ「衆人環視の暗転殺人」という、ミステリーの王道に挑んでみました。

絶対不可能な状況ですが、シャーロットの演算と和戸の観察眼が次回の「後編」で火を吹きます。

「次が気になる!」「どうやって殺したの?」と思っていただけましたら、ぜひ下部の☆☆☆☆☆から評価・ブックマークをお願いいたします!

次回、鮮やかな解決編をお届けします。

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