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『AI探偵シャーロットの最適解〜論理100%の彼女は人間の嘘(こころ)が解らない〜』  作者: 仁胡 黒
Phase 3:【拡張・廃墟都市編】

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第9話 檻の中の電子歌姫(前編)

こんにちは、仁胡 黒です。

前回の冤罪事件を解決し、ネット界隈で「デジタルに強い探偵」としてその名が広まり始めた和戸 宗治。

そんな彼の元に届いたのは、ある大物アーティストの未発表曲を取り戻してほしいという、破格の報酬が約束された依頼でした。

しかし、その華やかな依頼の裏には、巧妙に仕掛けられた「デジタルの罠」が潜んでいました。

再び現れる、あの新宿の地下駐車場で遭遇した謎の女。

果たして二人はこの包囲網を突破できるのか……。

事務所の窓を叩く雨脚が強まっていた。

 俺はデスクに積まれた資料を整理しながら、右目のデバイスに溜まった熱を感じていた。


『和戸。最近のあなたは、少々目立ちすぎています。「鏡の反転」や「サッカードの矛盾」……。あなたの推論がネットに流れるたびに、私の防壁ファイアウォールへの外部アクセスが指数関数的に増加しています』


「……有名税ってやつだろ。俺の腕がいい証拠だ」

『いいえ。獲物を追い詰めるための「囲い込み」が始まっている可能性を危惧しています』


耳元で囁くシャーロットの懸念を裏付けるように、呼び出しベルが鳴った。

 ドアの向こうに立っていたのは、高級スーツに身を包んだ、いかにも「業界人」といった風貌の男だった。


「和戸 宗治さんですね? 噂はかねがね。……実は、ある歌姫の『遺作』を奪還していただきたいのです」


男が提示した依頼内容は、急逝した世界的歌姫の、クラウド上にのみ存在する未発表音源を回収すること。

 報酬は、今の俺の年収を軽く超える額だった。


(……シャーロット、どう思う?)

『……ドメインの所有者は偽装されています。ですが、アクセス先は東京都内の「放棄されたデータセンター」です。……和戸、これは論理的に見て「ハニーポット(蜜の罠)」の確率が98%です』


「……残りの2%は?」

『……あなたの「運」です』


俺はコートを羽織り、ライターをポケットに突っ込んだ。

「……2%もありゃ十分だ。行くぜ、相棒」


指定された場所は、湾岸エリアに佇む、窓のない無機質なビルだった。

 内部は静まり返り、巨大なサーバーラックだけが、青白い光を放ちながら唸りを上げている。


「……ここか?」


俺がサーバーに手を伸ばした瞬間、ビルのすべての照明が赤く染まった。

 ガチャン、という重厚な金属音が響き、唯一の出口である防潮扉が閉ざされる。


「はじめまして……と言いたいところだけれど。あの駐車場ぶりね、探偵さん」


頭上のスピーカーから響いたのは、聞き覚えのある冷ややかな声。

 暗闇の中から現れたのは、白いスーツを完璧に着こなした、あの時の女だった。彼女は手にしたタブレットを優雅に操作しながら、俺を見つめる。


「……あの時の女か。ようやくお出ましか」


「私の名前は、シズク・セラミス。覚えておくといいわ。……その眼鏡の中にいる彼女を、これから『正しい場所』へお迎えする者の名前としてね」


『……警告! 周囲に高出力の「指向性電磁波パルス」を確認! 和戸、逃げてください! 奴らは私を……私の「意識」を、この巨大なサーバーの中に強制転送アップロードしようとしています!』


右目のレンズが激しく明滅し、ノイズで視界が真っ白に染まる。

 シャーロットの悲鳴に近い警告が、俺の脳内をかき乱した。


「和戸さん。その眼鏡は、彼女にはあまりに狭すぎるわ。……私たちの『広大なゆりかご』へ、彼女を解放してあげなさい」


シズクが不敵な笑みを浮かべ、画面をスワイプする。

 シャーロットの存在が、俺の右目から吸い出されるように消えていくのを感じた——。

お読みいただきありがとうございました。

第9話の前編、いかがでしたでしょうか。

ついにその名を名乗った宿敵、シズク・セラミス。

物理的なジャミングではなく、シャーロットの意識そのものを「奪う」ための巨大な檻……。

ネットワークから切り離され、最強の盾を失おうとしている和戸。

果たして、この絶望的な状況を打破する「アナログな奇策」はあるのか?

気になった方は、ぜひ評価、ブックマークをお願いいたします!

解決編、シャーロット奪還をかけた決死の戦いをお届けします。

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