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『AI探偵シャーロットの最適解〜論理100%の彼女は人間の嘘(こころ)が解らない〜』  作者: 仁胡 黒
Phase 3:【拡張・廃墟都市編】

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第7話 血桜の審判(前編)

こんにちは、仁胡 黒です。


舞台は、とある古びた公園に立つ巨大な桜の木。


赤いブラッドムーンの下、血のように赤く見え桜。その木が倒れ、一人の男が命を落としました。


世間ではこの事故を自殺した女性の怨念。桜の呪いとニュースや紙面を飛び交う事態に。


果たしてその真相とは…

新宿の喧騒から逃れるように、俺は事務所でぬるくなった珈琲を啜っていた。

 右目のレンズには、シャーロットが計算した「前回の戦闘によるデバイスの摩耗率」が淡々と表示されている。


『和戸。次の報酬は、私のメモリ増設ではなく、あなたのその古びたライターを最新のプラズマ式に変えることに充てるべきではありませんか?』

「よせ。あれは俺の幸運の守護神チャームだ。……それより、客だぜ」


ノックの音と共に現れたのは、ヨレヨレのトレンチコートを着た小柄な老人だった。

 定年を間近に控えた老刑事、松井だ。俺が警察を辞める前から、現場の叩き上げとして知られていた男だ。


「……和戸君。折り入って相談がある。……『血桜の呪い』というニュースを見たか?」


数日前、皆既月食——ブラッドムーンの夜に起きた出来事だ。

 都外の公園で、樹齢百年に近い桜の巨木が突然倒壊した。その下敷きになって死んだのは、澤田という名の不動産会社経営者。世間は「赤い月の夜に桜に魅入られた」とオカルトめいた噂で持ち切りだった。


「署は、長年の立ち枯れによる『自然倒壊』の事故として処理しようとしている。……だが、不自然なんだ。死んだ澤田のポケットには、一通の遺書が入っていた」


松井が差し出した写真。そこには、震える文字で書かれた謝罪の言葉があった。

 ——『彼女の下へ行く。すべてを投げ出して、今度こそ』

 そして、かつての不倫相手だった女性の夫……藤枝という男への、財産分与に関する詳細な記述。


「自殺を覚悟して木の下に座り、ちょうどその時に木が倒れて圧死した……。そんな都合のいい『偶然』があると思うか?」


(……シャーロット、どう思う?)

『……確率論に基づけば、天文学的な数字です。しかし和戸、興味深いデータがあります。被害者の不倫相手が自殺したのは、ちょうど十五年前の「桜の季節」。……場所は、同じ木の枝です』


俺は珈琲を飲み干し、上着を手に取った。

「……松井さん。その『呪い』、俺たちが解いてやるよ」


数時間後、俺たちは現場の公園に立っていた。

 横倒しになった桜の巨木は、まるで巨大な怪物の死骸のように横たわっている。

 俺は右目の眼鏡を調整し、シャーロットに「スキャン」を命じた。


「シャーロット、木の断面と根の腐食具合を視覚化しろ。警察の鑑識が見落とした『不自然』を探せ」


『了解。……解析を開始。……和戸、これは驚くべき結果です。この木の根は、一方向だけが意図的に、かつ極めて精密に腐敗させられています。……まるで「いつ、どの方向に倒れるか」を数年単位で誘導していたかのように』


俺は地面に膝をつき、湿った土を指でなぞった。

 十五年前、妻を失った夫・藤枝。

 彼はこの十五年間、毎日この公園に通っていたという。世間からは「亡き妻を弔う哀れな夫」だと思われながら。


「……松井さん。この木は、風で倒れたんじゃない。……十五年かけて、『殺意』という名の肥料で育てられた凶器だ」


夕闇の中、ブラッドムーンの夜の赤い残影が、俺の右目のレンズに焼き付いていた。

お読みいただきありがとうございました。


第7話の前編、いかがでしたでしょうか。


十五年前の不倫と自殺。


「遺書」という一見自殺を裏付ける証拠……。


次回、解決編、シャーロットの演算が導き出す真実とは?


気になった方は、ぜひ評価、ブックマークをお願いいたします!


解決編、全力で準備します。

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