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第4話 正体バレました

 パイルバンカー神が詳しいと豪語するので、マコは両親が帰って来る前に苦手な日本史の勉強をしようと思い立つ。

 彼女の成績は中の上と言ったところだが、勉強をおろそかにすると両親にダンジョン配信活動を反対されてしまうので、努力しなければならなかった。


「では、近代史を少し授業しよう」


 ひとりでに宙に浮かせ内容を確認していた教科書を元に戻す。パイルバンカー神は、実際に自身が過去に観測した光景をマコに見せ始めた。


 それは、日本海に隕石が落下している光景。何度か再現映像を見た事のあるマコも、そのリアルな情景に、思わず息を呑んだ。


 1945年8月3日早朝。日本海領海内に隕石落下。


 当時の船乗りの証言から隕石は肉眼で見ても一切赤熱しておらず。海水衝突直前に大幅に減速。最終的に巨大な円形の島のように着水する。


 1948年。日米。隕石調査に先遣隊を派兵。史上初の「モンスター」との戦闘勃発。日米軍は終始優勢だったが最終的に全面撤退。

 原因はいまだ持って正式な表明が無い。また、この頃から隕石島に形状変化が観測された。


「この頃から人間がモンスターと戦うと、経験値マナを得て、スキルを使うようになったんだっけ?」


「そうだな。当時は経験値マナ魔力マナとも、元々は米国からの流行語だが、日本では特殊技能を素奇留スキルと呼ばれ、研究され始めたな」


「確かダンジョン内だと銃とかって、マナの影響で良くないんだっけ?」


「効かない事はないが、複雑な射出武器は動作不良が多くなり、弾薬も嵩張り弾の値段も高い。個々人に向いたスキルと専用武器の方が一般的だな」


「で、現代では昔と違って、ドライブレコーダー的なダンジョン内交戦規定があると」


「そういうことだ。配信やAR・AI補助利用も、その一環だな」


 1950年。隕石島の形状は日本そっくりとなり、様々な憶測が飛び交う。


 1951年。米国。佐渡を拠点に対モンスター軍隊「ダンジョン隊」を設立。

 これらはモンスターによる大規模襲撃または関連する国家軍事的問題の際、佐渡沖を拠点に全世界から無条件援助、派兵を盛り込む事に同意する。


「ただいま〜!」


 ここまで授業したところで帰りを知らせる両親の声が響いた。マコは夕飯のお手伝いを行おうとして階段を降り、荷物を受け取り冷蔵庫に食料品を仕分け始めた。


「おかえり。パパ、ママ、ダンジョン行って来たよ」


「どうだ今のダンジョンは、大丈夫だったか?」


「スライム倒してただけだもん。ふふっ」


 ふわふわと浮かぶパイルバンカー神は認識阻害を行い、両親に存在を悟られていない。

 彼女は自身がテンプレであることをいつか両親にも話そうと思うが、今は黙っていた。


 親子3人でカレーを作り食事を終えると、玄関から呼び出しブザーの音が鳴り響いた。


「おや、この子はマコのお友達かい?」


「えっ、誰かな、はーい?」


 マコの父親である十平ユウジは、玄関先をカメラ付きインターホンで確認して手招きしている。

 彼女がモニターを覗き込むと、そこには清楚な私服に身を包んだモチズキが、玄関の前で立っていた。



◇◇◇



 玄関先にはモチズキが乗ってきた豪華なリムジンが止まっている。運転手付きなのか、エンジンは止まっていない。

 マコはバレてしまったらバレたで良いかと思い直し、パイルバンカー神に目配せしてインターホンのスイッチを押した。


「どうも、はじめまして。モチヅキさん」


「夜分遅くに突然のご来訪お許し下さい。本日はお忘れ物を届けに参りました」


「あはは、ありがとうございます。じゃあ、私の部屋でお話しでいいかな?」


「はい。突然の来訪にも関わらず、受け入れて頂き、ありがたく存じます」


 ドアを開けると丁寧に一礼して家に入るモチズキ。近くでゆっくりと拝見すると流麗な美少女で、思わず見惚れてしまう。


 マコはSランク配信者で有名な彼女を招く事を、内心ドキドキしてしまったが、自室へと丁寧に案内した。


 両親に探られる訳にもいかないので、先んじてお茶を淹れ、再び自室のドアを開く。


「魔法使い様、馳せ参じました、ご命令を!」


「きゃあっ、だめよ騎士様、そんなカラダで⋯⋯」


 扉を開けて目線が交じわり、時が止まる。


 モチズキは部屋で待っている間にマコのコレクションしている人形を使って、なぜか迫真の劇を繰り広げていた。


 そんな微笑ましいやら恥ずかしいやらな光景を、パイルバンカー神はくるくる悶えながら、ずっと見下ろしていた。


「ええっと、上手、だね⋯⋯?」


「コホン。勝手に手に取ってしまい、誠に申し訳ありません。つい善きコレクションに刺激され、童心に帰ってしまいましたの。コレクターとして羨ましいですわ」


 モチズキは手に持っていた人形を膝の上に置き、軽く抱きしめて撫でている。


 一見冷静に対処しているように見えるが、耳の先が真っ赤なのでごまかしきれていない。彼女は根っからのコレクターだった。


「あはは、どうぞ。粗茶ですけど」


「お構いなく。それで……テンプレ様は、ご在宅でしょうか?」


 様々なスキル、多少の権力による恩恵を受け、辛うじてテンプレの追跡こそできている。

 だが、出会ったばかりのモチズキには、あまりにも情報が少ない。


 家族らしき者の反応から、それらしき事を探るしかない。勘違いしているが、大胆な一手である。


 マコは唇に手を当ててしばし考える。別に知られてしまって問題になる事はない。隠しているのは、いうなればただの趣味に他ならない。


 というより、先輩かつ同年代のSランク配信者である彼女と秘密を共有するのは、実に楽しそだとマコは思いつく。

 パイイルバンカー神も頷くようにハンドガードを下げたので、マコはすべて素直に話してしまう事を決心した。


「神様、良いかな。よければお願い」


「よかろう」


 マコは変身を行いテンプレとなり、パイルバンカー神も認識阻害を解除。

 驚き目をみはるモチズキに、観念するように笑いかける。

 モチズキは立ち上がって、思わずテンプレに変身したマコの手を取っていた。


「まぁ、本物の魔法少女の変身。まさか、人生で出会えるなんて⋯⋯!」


「あんまりこれ以上、嘘はつきたくないの。お話を聞いて貰えるかな、モチズキさん?」


「それはもちろん。是非お聞かせ下さい」


 マコはパイルバンカー神との出会いと、これまでの経緯を伝えた。

 にわかには信じられない事ではあるが、モチズキはずっと期待に満ちた目でパイルバンカー神を見つめていた。


「さっきの戦い。危なかったわけでもないのに横槍を入れちゃったみたいで、ごめんなさい」


「いえ、むしろ逃がしてしまって悔しいくらいなのです。お気になさらず。ですが、神様、ですか」


「半身半疑か、それも良かろう。人間は信じたい事を信じて生きるべきだからな」


「⋯⋯ふむ、ではこの事は黙っていたほうがよろしいんですの?」


「できれば、秘密を共有していただけると楽しいです。でも、ずっと黙っているつもりもないので」


 マコは茶目っ気たっぷりに、八重歯を見せて人さし指だけを唇の前に立てる。

 そんな彼女を見て、モチヅキは了承を示すように微笑んだ。


「で、では、わたくしも魔法少女に、変身させて頂く事は、可能ですか⋯⋯?」


 そう。彼女の秘めた目的はそこだった。妙に力の入って真剣な面持ちで頼むものだから、マコはおかしくて耐えきれず吹き出してしまう。


 パイルバンカー神は気前よくモチズキを魔法少女に何度か変身させ、門限の時間寸前まで、彼女は思う存分変身を楽しんでいた。

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