第3話 Sランクモチヅキの危機②
「信者よ、狙いは右ハサミ、尾は毒が危険と見た!」
「やっ、やぁああああああああ!」
テンプレが振るうパイルバンカーが、サソリに向かって一直線に襲いかかる。見事、杭が腕の硬い甲殻に突き刺さり、右ハサミを粉々に砕いた。
しかし、負傷が重なったサソリの判断は早かった。砦ゴーレムの頭部を長い尾で絡め取ると、残った脚を上手く使って地中に逃げてしまった。
〝判断が速い!〟
〝野郎、怒って地面叩いてやがったのは演技か〟
〝こりゃ討伐は特級の中でもゲキムズだな。頭も悪くねえときた〟
「はっ、は、おっきかったじゃんか!」
地面に突き立ったパイルバンカー神により掛かかって、両膝を付くテンプレ。
彼女は数メートル級の特級モンスターなど、生で初めて目撃していた。今の一撃は、巨体に飛び込む勇気をふり絞って攻撃していたのである。
少し気まずそうに愛想笑いを浮かべ、彼女は驚いているモチヅキたちに話しかけた。
「すみません。余計な手出しだったでしょうか?」
「いや、助かオロロロロ」
「御主人さま!?」
気取ったポーズのまま、綺麗にバッタリと倒れるグリン。見れば、毒と氷に朦朧とした意識で酷く目を回している。
モチズキはハッとして収納スキルに手を突っ込む。解毒剤を取り出し、彼の傷口周りを中心に振りかけた。
「死ぬ前に、死ぬ前にそのデカい胸で、そのナイスなふとももで、報酬はスイス銀行に、ワシは渋いオトコに⋯⋯」
「ちょっやだ、見ちゃやだ!?」
虚ろな意識のまま苦しいのか、ズリズリと地面に身をよじって助けを求めるグリン。
たとえ見られても今の状態では記憶に残りはしないだろうが、中を覗かれかけたテンプレは後ずさってスカートを押さえた。
〝アカン。毒と氷のせいで半端にラリってやがる〟
〝恥ずかしがるテンプレたそマジカワユス500G〟
〝早く病院行こうぜ顔色悪いぞ〟
〝解毒で死にはしねえだろうが、迂闊に女子2人は近づけんなこれ〟
〝見えたのか、見えたのか色は、おい!〟
「もー⋯⋯えっち。でも、本当に顔色悪いね」
「しっかりなさいませご主人様! まだ今日は50円を頂いておりませんわ!」
〝マジか、初の2桁代突入確認じゃねえか!〟
〝とうとう来たかぁ100G〟
〝感慨深いな。今日は酒開けるか100G+Sランク魔石〟
〝くぅ、先を越された!〟
彼らは誰が最初に50Gという低価格を、モチズキに許されるかと競い合っていた。
いつの時代も男児が女子にかける情熱は変わらないものである。もっとも、この場はいささか混乱が過ぎて、趣が違う気がしてくる。
「神様、だめかな?」
「良かろう。ほれ」
ふわふわと浮いていたパイルバンカー神は杭の先端から虹閃光を照射。光を浴びたグリンの毒素は呆気ないほど完全に浄化されていた。
〝てゆーか、パイルバンカーがしゃべった!?〟
「え、神様⋯⋯?」
「あはは、まだヒミツなので。それでは!」
テンプレは短く別れを告げてパイルバンカー神に駆け寄ると、その場から煙のように転移で消え去った。
床を海老のように転がっていたグリンは、毒による苦しみを感じなくなり、モチヅキの手を借りて立ち上がった。
「すまん、モチズキはん。⋯⋯あの娘は?」
「存じあげません。おそらく転移でどこかに向かったと思われますが、詳細不明なスキルですね。私たちも戻りましょうか、御主人さま?」
「せやな。また逃げられてしもうたな」
分銅と鎖がじゃらりと響く五芒星杖を転移紋章に下げ、彼らはダンジョン入り口へと帰還を果たす。
周囲には見守っていたファンや、同業の者たちが胸をなで下ろしていた。
「やれやれ、今回も大冒険でしたわね。それではいつもので終わりましょうか」
〝お疲れした100G+Aランク魔石〟
〝今日も楽しい配信やった100G+Bランク魔石〟
〝彼女とパイルバンカーは何者なんだろうな100G〟
〝神様ってなんのこっちゃ100G+Cランク魔石〟
「毎回きっちり取るのう⋯⋯」
「うふふ、これでまた、良き奥様に一歩近づきましたわ」
グリンの手を握って招き、メイドエプロンのポケットに50円玉を入れて貰うモチズキ。
配信終了の挨拶を済ませる前に彼らが必ず行なっている、じゃれ合いのような儀式である。
毎回整ったまつ毛1本1本が見え、華奢で押しつぶせそうな身体が近くなる。
グリンは胸をドキドキさせ、生唾を飲み込んでしまう。
彼女との独特で、愛らしいおまじないである。
「ところでさっきのお方、御主人様は、なにかご存知でしょうか?」
「なんや、カスタム先輩の悪ふざけ止めよったで、あのテンプレって子。思わず驚いて少しコメントと応援しといたわ」
「─────── へえ、いつの間に私以外の女性によそ見をなさったのか、詳しくお聞かせ願いますか。このわたくしだけの、御主人さま?」
安全な場所に無事帰還を果たし、ついホッとして口が滑る。ダンジョンで危機を脱した直後は、よくあることである。
女性のドロリとした独占欲からくる嫉妬とは、男性が生涯でもっとも向けられたくて、向けられたくない。
相反する複雑な思いの積もった、贈り物であった。
◇◇◇
テンプレこと十平マコは、16歳の女子高生。
彼女は裕福な家庭に生まれ、何不自由なく現在まで過ごしている。ごく一般的な東京市民となる。
数ある趣味のうちの1つは、ダンジョン配信の切り抜き視聴。
時間が空けば視聴者スキルを繋げ、環境音として楽しんでいる。
この春、ようやく視聴者スキルから経験値が貯まり、対応する最低限のスキルを習得。
配信活動を含むダンジョン内交戦規定講習を受け、ダンジョンに出入りする許可を役所から認められた。
彼女は現在。配信活動開始のお披露目もまだ行なっていない。
いわゆるFランクの駆け出しとなっていた。
「神様。布で拭いて油とか差した方が良いかな?」
「うむ。是非行なってくれ」
マコに案内され彼女の自室から階段を降り、車庫に向かう。
パイルバンカー神の全長は3mに達する。一般的な家屋では引っかかりそうなものだが、彼の身体は床や壁を透過できる。
振り返って彼の大きさがまずいかもと思ったマコは、床に溶け込むように浮遊するパイルバンカー神を見て胸をなでおろした。
両親は夕飯の買い物に出かけていた。車庫の主であるスタイリッシュなデザインの自家用車は、彼らを乗せて出かけている。
様々な雑貨がよせられている車庫内には、埃のかぶったスキー板やスノーボード。
雨合羽や半端に使われた車用品。使われなくなった家具は、几帳面に箱の中にしまわれている。
潤滑油の入ったスプレー缶を手に取り、指示された場所に吹き付けていくマコ。
一通り終えると汚れた個所に洗剤を軽く吹き付けて、特にハンドガード部品を綺麗になるまで磨いていた。
「手慣れているな?」
「パパのお手伝いよくするもん。お供え物の変わりとでも思ってよ。ところで神様はなんで、あんな宝箱に入ってたの?」
「いつも石像のように動かず地上を見つめている大天使が、突然「愛、足りなくない?」とかのたまって、それであれよあれよと地上に降臨することになってしまったのだ⋯⋯」
パイルバンカー神としては、世界がそんなに愛に欠けているとは思っていない。
だが長々と議論する前に手続きをテキパキと終えられて、宝箱に入る事になってしまった。
長年の付き合いである。大天使である彼の言いたい事は、100%誤解なく理解している。
とどのつまり。人と人とが顔を合わさず誤解や勘違いが広がっている現状を、彼は憂いている。
顔を合わせて会話していても、誤解や勘違いは多い。
別に顔を合わせずとも平穏無事で幸せいっぱいなら問題ないのだろうが、現状はそうではない。
とくに近年、人間の技術発展が目覚ましく。とうとう人工知能《AI》が一般普及しつつある。
人間の倫理観や教育が自らの技術全般と、機械がもたらす全能感に追いついていない。
祝すべき傾向だが、大天使が考えているのはそんな所だろうと、彼も神として思いを馳せる。
だが、まだ独力で社会生活を行なっていないマコには、彼の話はぼんやりとしか理解できなかった。
「ふーん。じゃあなんで神様は、パイルバンカーなの?」
「そこは生まれた時から杭だとも。厳密に言えば杭が本体なのだ。それで、これからの配信活動とやらはどうするのだ、信者よ?」
「王道なテンプレなら、変身した姿で雑談配信かな。でも私、できれば普通の配信もしたいの」
「その方が良い。世間的な下積みがあれば、バレた時も多くの人間が受け入れてくれる。そうだな、下積みか⋯⋯」
彼は教育番組、AIマンとか。人気があるならダンジョンAI補助利用の専門学校でも、将来的に出資して建てるかと、ぼんやりと長期的に結論づけた。
「まあとにかく、今後ともよろしくだ。幾久しくな」
「うん。こういう場合って、グリップを握れば良いのかな?」
「うむ。それで握手と行こう。トゥイッターにも登録しなければなるまい」
「神様って、SNSやるんだ⋯⋯」
差し出されたハンドガード内側を、彼女は握る。爆速で増えていくパイルバンカー神のフォロワーにマコが驚いたのは、このすぐ後の事だった。
Φ Φ Φ Φ Φ
あとがきと補足
当作品へのフォローや評価などで応援していただけると、とても嬉しいです。
執筆活動の意欲にも繋がりますので、よろしくお願いいたします。
また、ここまでの制作にあたり、以下の質問をGoogle検索AI、Gemini、ChatGPTに解答いただきました。
史上最も最初に生成AIで制作された画像とはなんですか?
VPN(Virtual Private Network)とは?
過去のすべてのチャットをベースに私について説明してください - 魅力的にお願いします。
↑ある日ChatGPTをタップしたら勝手にこの文章で出力されたんですよね。パーソナルスペースに口出しされるマネは、ちょっと如何なものかと思う。
SNSとは?
勘違いとAIの将来推測について。
創作者として誰かを助けるつもりになれて、初めて2流ぐらいの意気込み。これについて。
創作の道中、“辿り着いた”瞬間について。




