第2話 Sランクモチヅキの危機①
配信者には、それぞれFからSランクの7段階が設けられている。
FEランクは駆け出しの新米であり、DCランクが一般的な配信者。Bランクでいわゆる上位モンスターの一定数討伐。Aランクでドラゴンなどの強大なモンスターの一定数討伐。
そして、それ以上の異常な強さ持つ特級モンスター討伐を一定数果たした者たちこそ、Sランク配信者と尊敬の念を込めて認められる。
つまり、誰にもわかりやすい実力差と功績による、それぞれの枠組みが設けられていた。
◇◇◇
東京地下駅ダンジョン入り口にて。2人の男女がスキルを用いて、配信活動を開始していた。
「5円の民、御主人様方。今日もメイドを勤めさせて頂きます。この私に小銭を弾めるダンジョン配信、スタートですわ」
〝モチヅキさん今日も可愛いですね♡100G〟
〝あ、グリンさん、どもっす1000G〟
〝相変わらずなんか企んでそうな糸目ッスね〟
〝モチヅキさん小銭シャワーどざー100G〟
「おのれら居酒屋で久々におうた、兄ちゃんかなんかかいな?」
「うっふっふ、やはりダンジョンで御主人様にかけて頂ける仮想通貨シャワーは、格別ですわね♡」
コメントに付随する大量の100Gを眺め、頬に両手を添え、うっとりとした恍惚の表情で、モチヅキと呼ばれた少女は悦ぶ。
彼女はリスナーから頂く小銭を1つ1つ。すべてコレクションしており、通称、世界一好感度のわかりやすい配信者と呼ばれている。
とどのつまりは、個性的な可愛らしいわざとの勘違いである。
地竜のウロコ鎧を軋ませ、何か企んでそうな風貌だがそんな事とは一切無縁なAランク配信者。剣士グリン、19歳。
魔法使いを思わせるマントを中心に白巧の美肌。メイドを彷彿とさせるキュッと締まった美しく細いコルセット。
大胆で眩しい太ももを包む、愛らしい黒リボン付きストッキング。
Sランク配信者、メイド術師モチヅキ、16歳。
この2人の関係は表向きバレバレだが「お金の雇用関係」だった。
〝今日はどこ行くんすか100G〟
〝前回行った30階のボス部屋っすか?〟
〝この前は逃げられましたもんね⋯⋯〟
「しゃあないやろ、砦ゴーレムが頭部の砦だけで逃げ出すとか、今まで情報皆無やったやん?」
特級モンスター砦ゴーレムは、手足を失っても予備の手足を展開して逃げ回る事ができる。
彼らモンスターは個体によって相応に知恵があり、不利と見れば逃げ出す事も多かった。
モチヅキはグリンの肩に軽く触れる。先端に円形の五芒星と小さな鐘、中央に鎖と分銅が括りつけられた杖をじゃらりと下げ、床の転移紋章に触れた。
何度か杖先で触れることを繰り返すと、一瞬視界が暗転する。彼らは何事もなく予定通り、地下30階ボス部屋近くに転移していた。
「さて、どうでしょうか、グリン御主人さま?」
「移動した気配はない。足跡も、各種スキルに反応も無し。だが何か来るで!」
ボス部屋の扉を挟み込む左右の通路から、60cmほどの影が多数飛び出てくる。軍服を羽織い槍を持つ上位モンスター、ブリキネズミ兵が現れた。
「チュウウウウ!」
彼らは一斉に槍を突き、連携して襲いかかって来る。グリンは手慣れた様子で魔剣を引き抜き、オチヅキは五芒星杖を掲げた。
「お引きください、逃げるなら追いませんわ」
彼女の杖から劫火渦巻くファイヤーウォールが2人を守り、同時に触れたブリキネズミたちが次々に溶かされていく。
あっという間にCランク魔石と宝箱が、床に転がり始めていた。
「チュウ⋯⋯」
「ほれ、無駄だから逃げ。こっちだって余計な体力使いとうないんや」
グリンがしっしと手で追い払うと、数匹の残ったブリキネズミ兵は、軍服を翻して撤退して行った。
〝流石Sランク。上階だと一匹でもボス扱いの群れを一蹴とは100G+Cランク魔石〟
〝ブリキネズミは砦ゴーレムを住処にしてるんだっけか?〟
〝そういう情報だけど、サイズ的に入らないよな。どうなんだろう?〟
「住んどるんや。なぜか指先くらい小さくなってたけどな」
「小さいままでしたら、見た目は指人形のように可愛いらしくて良いのに。では、参りましょうか」
モチヅキたちは戦利品を集め、ボス部屋の転移紋章を踏み進む。
広間内部は大きめの野球場ほどの広さで、中央からやや右側に5mほどの砦ゴーレム頭部が沈黙を守っている。
その周囲には、岩肌の壁しか見えなかった。
「ゴーレムは居る。けど、なんか様子がおかしいか?」
「ふむ⋯⋯何かおかしな点がございましたら、皆様もご協力頂ければ幸いですわ」
〝おまかせやで〟
〝別角度で見ても何も居ないな〟
〝メイドさんのふとももストッキング⋯⋯ゴクッ〟
〝少なくとも探索AIや視聴者スキルでは⋯⋯おい、天井に何か反応があるぞ!〟
ベテラン視聴者ともなると、熟練のサポートスキル、高性能なAI補助利用を所持する事も少なくない。
注意を促され、彼らは即座に身構えて頭上を見上げる。
そこには、割れ目に身を隠していた見数の目を持つ巨大なサソリモンスターが、尾の先端に毒々しい体液を滴らせていた。
「きゃっ!?」
「やっべ!?」
間一髪、グリンが背の盾を構え割り込む。
だが、尾から噴射された毒素はファイヤーウォールの守りを貫通し、細い針のように盾とウロコ鎧に覆われた腹部を貫いた。
「く、そっ⋯⋯!」
「御主人さま!?」
〝Sランクのファイヤーウォールが効かない!?〟
〝こいつ、特級モンスターか!?〟
〝さらに下階層の奴が出張って来たのかよ!?〟
サソリは間髪入れず多くの脚で壁を縦横無尽に駆け回り、グリンに向けて大きくハサミを振り下ろした。
彼は負けじと開眼しつつ、魔剣でハサミの上部を斬り飛ばす。
「よくも、このっ!」
モチヅキは舞うように背後へと回り込み、尾の付け根を狙い、展開していたファイヤーウォールを放つ。
だがサソリは後ろ脚2本を器用に振り上げて、自身の身代わりにしてみせた。
残った脚で大きく身を引き、高速で壁を駆け上がるサソリ。7mはある巨体が無数の目で見下ろすのは、動かない砦ゴーレムの方だった。
〝なんであんな砦ゴーレムを見てやがるんだ?〟
〝グリンの体力が目に見えて減ってやがる。コイツ、毒と速さ特化だ!〟
「ならば、これで如何です」
モチズキは杖を鎖ごと、地面にじゃらりと突き立てた。
放出されたアイスウォールのスキルが縦横無尽に駆け回り、壁も、床も、天井も、広間全体が一気に凍りつく。
同時に。彼女はグリンの怪我も応急手当として、熟達したスキル操作で浅く凍りつかせる。
さらに素早くスキルを追加で使用。多くの氷の塊を、宙に浮遊展開させた。
〝上手い。アレなら相手の動きを大きく封じつつ、毒の進行も防げる〟
〝流石Sランク。継戦能力が伊達じゃない!〟
〝スキルを上手く併用すればここまでできるのか、スゲーや!〟
「おおきに、モチズキはん。まだやれるで」
「ではもう一度盾に、次で終わらせましょう」
着地したサソリは、凍りついた地面を上手く歩けず。周囲に浮遊する氷に取り囲まれて、身動きが取れない。
苛立たしげに尻尾を地面に叩きつけて氷を砕いている。
「⋯⋯⋯⋯いけません、逃げられる!?」
その時、サソリの頭上に転移反応が現れた。
「なんや!?」
〝助太刀します!〟
〝エルフさんキターーーッ!?〟
〝なんだ、あの武器、パイル!?〟
〝パイルバンカー様のお通りだ!?〟
転移して来たのは彼らの様子を視聴者スキルで伺っていた、テンプレとパイルバンカー神だった。




