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第30話 #読者は神様ではない。だが①

 東京丸の内近くのマンション、部屋内にて。

 明神ミヨコ。24歳。


 職業、警察官。ダンジョン課勤務の巡査。

 ほぼ最短で丸の内警察署に配属された、若く優秀な女性警察官である。

 彼女が警官を志したきっかけは、学生時代に巻き込まれた事件の際、親身に接してくれた女性警察官だった。

 

 以来、気を抜けば忙殺されそうな日々を送っているのだが、そんな彼女にも、非番な日はある。


 彼女は家事を終わらせると明日は非番なので、視聴者スキルで配信を視聴し始めた。


 脳内に別枠でライブ配信されるのは、テンプレのパイル(杭)JKちゃんねると、シンボリーの大きな剣の集い。


 いわゆる同時視聴なのだが、彼女のそれは精度が違う。なにせ他に3つ。最大計5つもの配信を限定的ながら同時に精査できるのだ。


「やっぱりシンボリーさんは今日も、死んだ目でモンスター狩ってますね。相手はあのサイですか」


 最低限3つ以上の同時視聴を行い、ある程度の情報収集ができなければ、警察のダンジョン課は務まらない。

 彼女は学生時代。引きこもっていた訳ではないが、時間があれば好きな配信の同時視聴を行っていた。さらにある警官からコツを仕込まれた努力の成果である。


 そうしている内に、今回は新しい企画発表配信を行う予定のテンプレが、パイル神と共にいつも通り姿を見せていた。


「こんにちパイルー! パイル(杭)JKちゃんねるに、ようこそ〜!」


「みんな元気か。俺はガソリンスタンドでの洗浄を断られて、正直ショックだった」


「何してんの神様。今日は自宅配信なのね。こんにちパイルーっと」


〝こんにちパイルー!〟

〝こんパイー!〟

〝神様開幕なにしとんwww〟

〝ダメなん。ガソスタw〟


〝気持ちは分かる。あれ1回体験してみたいよねw〟

〝犬とか身体洗ってんの見たことあるような〟

〝それ海外の動画じゃね?〟


「だって、ずっと体験してみたかったんだ。長年の夢なのだぞ?」


「わざわざ変身して交渉したけどダメだったよ。めっちゃ恥ずかしかったんだけど。マジで」


「……車を買えば、ワンチャン?」


「ないよ!? 置いておく車庫がないでしょうが、車庫が、もう!」


「ぷっ……くくっ……あははっ」


 笑いのツボに深く入ったのか、ミヨコは鳩尾を押さえ、涙目で悶絶してしまった。


〝wwwwww〟

〝諦めが悪いwww〟

〝そのために車買うんかいw〟

〝あれ、でも乗り込めないような〟

〝あ、でも透過できるんすね。わーおw〟

〝乗れるんだw〟

〝神はボケも一流だったw〟


「そなたが成人して車を買ったら、もう一度チャレンジしてみよう。では新企画の発表を行うぞ」


「はいはいっと、じゃーん!」


 テンプレが掲げた手持ち看板には、少女らしい丸文字で大きく。リスナーさんの無茶振りミッション企画と、派手に縁取られて強調されていた。


〝おー!〟

〝古き良き伝統に挑戦するのかぁ〟

〝ちと古いが、新人の登竜門でもあるなw〟

〝昔やったなぁ、懐かしいっす1000G〟

〝はい! エッチなのはどこまでですか!〟

〝エッチ確認!〟

〝こらー、タイホされるぞぉ〟


「もー、私は現役女子高生なんだから、あんまりエッチなのはダメだよ。まったく」


「本当に逮捕してやろうかしら。こいつら」


「どれになるかは完全ランダム! スパチャしても変わらないから、そこは注意してね!」


「要望にはできるだけ応えよう。だが配信とそなたたちが、除外されない程度になることを注意だぞ」


〝サーセンw〟

〝なるほど、ギリギリを攻めろということですね。はあく〟

〝こいつら……〟

〝ガチJKなんだから、ちゃんとだぞお前ら〟


〝この企画、カスタムのクソが大昔にやってたやつじゃん。ざけんなよ100G〟


「おいコラぁ! ここに居ない配信者様の事をコメントで書くのは良くない! まして悪口とか完全アウト! 謝罪を要求するよ!」


 横暴な視聴者のコメントに、容赦なく怒って一喝するテンプレ。この子強いなと、ミヨコは目を瞠った。


〝そうだそうだ!〟

〝テンプレちゃんが正しいな〟

〝これ容認しちゃうと、この配信自体がサイトからアウト貰うからな?〟


〝ざけんなはお前なんだよなぁ〟

〝コメントしたやつのスキル逃げたな。っち〟

〝妙だな。アンチにしては大昔から知っているとな?〟

〝アンチが一番のファン定期w〟

〝他の配信の話すると、露骨に機嫌悪くなる声優さんとか居るしな⋯⋯マナーよね〟


〝てゆーか〝コイツ嫌い、Sランクの面汚しカス野郎が〟とか執拗に見るし、今のもbotかAIじゃねえの〟


〝機械だろうな。彼は定期的に画面の向こう側から恐怖を植え付けてくる。一定以上の実力ないと、そもそも書けねえからな〟


〝それはそれとして、カスタムとはどうなん?〟


「たまに神様と、ご飯作りに行ってるけど?」


〝バカな、匂わせ……だと?〟

〝え、マジでそう言う関係なん?〟

〝嘘だろ、テンプレちゃん……?〟

〝いや、保護者同伴ならただのホームパーティーじゃね?〟

〝未成年だしな。いや待てユミナ氏は⋯⋯?〟


「え、だって。いつか捻り潰す相手の胃袋を屈服させてるって、その時点でサイコーじゃない?」


 テンプレはまるで魔王か何かのように、ゲハハハハハと邪悪な哄笑を響き渡らせた。

 彼女は視聴者たちに何1つ負い目なく宣言し、心底打倒カスタムに燃えている意思を示したのである。


〝お、おう、漂ってきたじゃねえか〟

〝うむ。すっげえ濃い闘争の気配だけどなw〟

〝濃厚なカンケイなんすね(闘争的な意味で)〟


〝ギリ師弟関係っぽいのに、まったく敬ってないあたりがマジ悪人カスタムw〟

〝そっちだったかぁ〟

〝テンプレちゃんブレないw〟

〝そこはかとなくえっどいけど羨ましいかと言われると⋯⋯w〟


「それにそのねえ。こういうプライベートなことを本人たちの居ない前で言うのもなんだけどさ。ユミナちゃんのほうがほら〝ガチ勢〟だからさぁ⋯⋯」


〝ああ〟

〝あー……〟

〝うん〟

〝なんかもう。それっぽいトゥイッターとかアレだもんね〟

〝信者かつ厄介ファンかつメンヘラかつ病んでるという爆走役満キャラよ⋯⋯〟

〝おお神よ。なぜあの男にこれほどの試練を?〟


「恋愛とは人生最大の戦いであり、最大の試練なのだ。うむ」


 ユミナはトゥイッターでカスタムへの思いを、それはもう次々と絨毯爆撃のように暴露している。


 時には10分に1度は呟いており、その内容は「また結婚しようって」「飼いたい」「飼って欲しい」「手首ヤバい」「通わせて」「なんでもしてあげたい」「なんでもしてほしい」「すき」「あいして」など、日に日に危ない方向へと爆走していた。


「だから、そのね。少しでも防波堤がいないと、再来年あたりにはその、もう赤ちゃんの顔とか見ちゃいそうな勢いじゃない?」


「彼女は積極的に、ダンジョンに行かせているのだがなぁ⋯⋯」


〝おっも〟

〝もう妄想告白されとる〟

〝そこまでやってこれかぁ〟

〝神様でも対処が無理か〟

〝もうハダカの写真とか、勝手に送ってそうな勢いやもんね⋯⋯〟


〝あいつ犯罪はしないから、その度に消してそう〟

〝うらやま、いや、羨ましくて良いのかコレ?〟

〝えっどいけどうーん〟

〝ストレス解消がストレス解消になってねえw〟

〝もうこれカスタム逃げられなくない?〟

〝さすが蛇にしか変身できない女。真顔になるわ〟

〝ヘビは執念深いからなぁ⋯⋯〟


 ミヨコは閉じていた目を開いて、スマホからトゥイッターアプリを開いて検索。ほどなくしてユミナらしき相手を見つけた。


 そこにはカスタムに向けた、様々な重い愛が刻まれており、ユミナが自分たちに逮捕されないように祈るしかなかった。


「じゃ、じゃあ気を取り直して、新企画のルールを発表するよ。10分間コメントとトゥイッターからランダムで2つ募集します。その2つからみんなで相談して、最終的に決定します!」


「同じ物は1つとして扱い、1度行なったものは基本的には行わないぞ。1人で連投すると警告が来るから注意してくれ」


〝了解。1回やったらダブり無しね〟

〝もう同接4万突破したやん〟

〝雑談でこれは凄いなw〟

〝同接は新企画効果か、今発表したしもっと来そうだなw〟


 同接数が増えれば増えるほど、無茶ぶりが採用される可能性が低くなるのだが。そんな事はお構いなしに視聴者たちは盛り上がって増え始めていた。


「じゃあ、さっそく第0回、試しにやってみるよ! トゥイッターに企画募集流したらスタートね!」


 ほどなくしてテンプレはトゥイッターに情報を流して、企画募集のスタートを宣言。まるで合戦か何かのように怒涛の勢いでコメントが書き込まれていく。


 ミヨコは無難におすすめのラーメンを教えて欲しいと書き込もうとして、実は以前から念願だったダンジョン配信のアニメ化について意見を聞いてみたいと思い、視聴者スキルでコメントを送った。


「はいそこまで! じゃあ抽選するよ!」


〝おい、サイトの方、若干遅くなってねえか〟

〝みんな書き込み過ぎでワロタw〟

〝スキルと分けてんのに、メインサーバーが対処しきれねえのなんて何年ぶりだよ〟

〝また伝説が増えてしまった〟


「えっと、抽選結果が出たんだけど、ちょっと関連して確認することがあるから、みんな待ってね?」


 そう視聴者たちに伝え、テンプレは自室の外に出た。なぜか「おー」とか「むほほほほ」とか、妙な彼女の声が、扉の向こうから聞こえてくる。


〝なんだ。トラブルか?〟

〝トイレか?〟

〝いや、扉越しに居るみたいだし、違うだろう?〟

〝扉の向こうは視聴できねえな〟

〝神様居るしな。なんだろう〟

〝あ、戻って来た。なんか嬉しい連絡でもあったのかな〟


「お待たせ。じゃあさっそく発表するよ!」


 パイルバンカー神の杭とテンプレの右手が、共にテロップを示す。

 そこには「アニメ化して欲しい」と「今からノーパンで配信して欲しいw」という、2つの無茶ぶりミッションが表示されていた。

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