第29話 正体バレました(2回目)
「なんだろうね。これ?」
「とりあえず今日はもう、入り口に戻ってから開けてみよっか?」
ファイヤーボールの連射と予想外の連戦で、疲労感は重くのしかかっている。
先日のテンプレたちの戦闘で、モンスターたちも気が立っているのかもしれない。
彼らは速やかにダンジョン入り口に転移して、簡単に持ち運べる宝箱を開けてみることにした。
〝おお、同接1000人行ったよ! すごいじゃん!〟
〝おめでとうございます1000G〟
「やったね。コインさんスパチャありがとうございます。じゃあ1000人達成記念に開けてみます!」
カズトが代表して箱を開けると、中に入っていたのは一冊の本だった。
スキルがその場で習得できるスキルブックのように表紙に何かが書き込まれている事も無く、真っ白で綺麗な表紙の本に見える。
背表紙を見ても、上品な装丁こそあるが、何も書かれていない。およそダンジョンで見つかる本というよりも、誰かの忘れ物か何かのようである。
「なんだろう、これ?」
〝あ、それは〟
内容を確認しようとカズトが白い本を開く。すると周囲が突然暗くなり、どこからともなく彼の目の前に、スポットライトの光りが振り注ぐ。
「お兄ちゃんっ」
「へ?」
突然スポットライトの向こうから、赤いワンピースを着た少女が、カズトに向かって抱きついてきた。
どことなく気の抜けたようなファンファーレが鳴り響き、周囲の明かりは元通りに戻った。
「なんなの、今の?」
〝遅かったか〟
〝その本のせいだな〟
〝レアアイテム。妹☆図鑑を開く事で契約できるモンスター。開いた対象を兄もしくは姉と認識して、どこまでも追いかけてくるという⋯⋯〟
「え、この子、モンスターなの?」
よく見ると頭部は愛らしい少女そのものだが、肩や指先。裸足の各関節が人形のような球体構造をしている。
身長は130cmほど、外見年齢は11歳程度だろうか。マコが頭を撫でると喜んで手を掴み、手を握られるとほんのり温かかった。
「どこまでもついてくるんですか、この子?」
〝マジでどこまでもついて来るぞ。邪魔な時は隠れんぼしようって言えば隠れてくれるが、腕前には個体差がある〟
〝詳しいな、解説ニキ?〟
〝好事家多いからな、妹☆図鑑シリーズ〟
〝オークションでも契約済みの本、結構な高値で取り引きされるからなぁ〟
〝役所に申請して、どうぞ。モンスターの密猟はダメ絶対だぞ〟
「こ、困ったなぁ、母さんたちにどう説明すれば⋯⋯」
「お兄ちゃん⋯⋯?」
妹☆は上目遣いで不安そうにカズトを見つめたあと、愛くるしい仕草で艷やかな金髪の髪を擦りつけてくる。
よく見ると鼻の下を伸ばしかけているカズトの事が、少しだけマコは気に入らず。抱きついている彼女に質問してみる事にした。
「ところで妹ちゃん。さっきの妹☆ホブゴブリンとは、何か関係あるの?」
「⋯⋯⋯⋯⋯えへへ」
人はなぜレアリティの高い物を欲するのか。それは、山の頂に登る事と似ている。
妹☆モンスターは曖昧に笑うだけで、お兄ちゃんとしか言わず。
彼女の詳しい思惑は、誰にも分からなかった。
◇◇◇
1通り雑務を終えて、カスタムは視聴者スキルを使いながらスマホを手に自宅でくつろいでいる。
スケジュール表アプリをタップしても予定は無い。窓の外に落ちる週末の夕日を眺めながら、彼は夕飯をどうするか考えていた。
「⋯⋯杖槍のマコ?」
ふと、スマホの動画で流れてきたショート動画のタイトルが目に止まる。たった30秒ほどの動画。
愛らしい八重歯を持つ女子高生が、女装したホブゴブリンに、踊るような一撃を繰り出していた。
「⋯⋯へえ」
「おじゃましま〜す。ご飯作りに来てあげたよ、感謝してね」
次の動画を視聴しようと指を伸ばすと、玄関から聞き慣れた声が響いた。パイルバンカー神とテンプレが買い物袋を下げてリビングに歩いて来た。
「珍しいじゃん。スマホで何見てたの?」
「お前のショート動画だよ。マコ」
突然。教えてもいない本名を呼ばれて、テンプレことマコは足を止めてしまう。彼女はまだ自身がテンプレと名乗っている事を、モチヅキとユミナにしか話しておらず。カスタムには変身した姿だけで接している。
気になる男性に、少しでも綺麗な自分を見せたい。他にも悪戯心や積極的なユミナへの対抗心など、彼女なりに複雑な乙女心のせいである。
「ま、マコって? 誰のこと?」
「下手なとぼけ方だな。くくっ、可愛いとこあるじゃねえか」
「かわっ⋯⋯もう、からかわないでよ!」
そっけなくカスタムは寝転んでいたソファから立ち上がる。振り回されかけた荷物を受け止め、テレビの電源を入れた。
夕方のニュースでは、東京地下駅ダンジョンのエレベーターが新たに発見されたと話題になっている。
テンプレたち3人とパイルバンカー神の顔写真も公開され、発見時のアーカイブ配信が早くも累計1000万再生を突破している。見れば、美人のキャスターが報道していた。
『────また、今夜は深堀ケイジロウこと、シンボリー氏の配信者スキルにて、未開領域のライブ配信が予定されており、全世界の注目が集まっています』
「そういうことにしといてやるよ。だがよ、あんまり未成年の若い女が、男の1人ぐらしの家に来るなって言っただろう?」
「保護者同行なんだから問題ないじゃん。むしろ良くないのは、ユミナちゃん先輩の方でしょう?」
パイルバンカー神を目で示す。彼は勝手知ったる様子で、先ほど購入したインスタントコーヒーを火にかけていた。
「それに、私たちが顔出さないと、またユミナちゃんとだけになっちゃうじゃん?」
「そこなんだよなぁ⋯⋯」
ユミナは今週だけで、もう3度もこの家に顔を出している。必ず先に連絡してくれるが、断るとかなり食い下がられるのでカスタムとしても少し悩みの種になりつつあった。
「と言っても今日はコレをネタにして楽しもうって、私が誘ったんだけどね。にっしっしっし」
意地悪く笑う彼女が差し出す映像は、今より幼い頃のカスタムの動画。
最初は彼女の表情のせいで胡散臭そうにスマートフォンを見ていたカスタムも、ハッとして顔を近づけた。
『怖いか、怖くないって言えれば嘘だよな。僕もだ。僕が逃げないように、みんな見ててくれ』
「おまっ、これ俺か懐かしいなおい!? 何年前だ!?」
「10年前だぞ。どうだ、若い頃の自分と再会した感想は?」
カスタムは様々に顔色を変えたあと、目を細めて鼻から長く息を吐く。
10年と言う歳月。シルエットのような淡い記憶。まだ、立派な戦士ではなく。何も知らず短い剣と共に駆け抜けた日々。
どこか遠い故郷でも思い出しているかのように、こみ上げているもの。その顔は、はにかんだ子供のようだった。
「僕だって。昔のカスタムさん、カワイーじゃん?」
「やかましい。さっきのやり返しかよ、はは⋯⋯」
〝がんばれ、カスタム!〟
〝カスタムしゃん。⋯⋯ありがと〟
多くの声援コメントに背中を押されているが、映像の中のカスタムは未熟で、向こう見ずで、臆病で、だからこそ色褪せる事なく輝いている。
玄関の呼び鈴が鳴り、ユミナが控えめに姿を見せたのは、そんな時だった。
Φ Φ Φ Φ Φ
あとがきと補足
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