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第28話 遥かなるレアの申し子

 ダンジョンには大枠に分けられるが、様々な種類を合わせ持つモンスターが徘徊している。


 人に害を及ぼさない益獣モンスター。

 人に害を及ぼす、危険な害獣モンスター。

 戦闘力が高く、変質する可能性を常に秘めている、進化モンスターなど。


 レアモンスターはその中で最も個体数が少なく、低確率で珍しいレアアイテムの入った宝箱を落とすモンスターであると、人々に知られている。


 妹☆ホブゴブリンは進化モンスターでありながら、レアモンスターの分類にも属していた。


「お兄ぃい、ちゃん!」


「うわっと!?」


 執拗に男性であるカズトだけを狙う、妹☆ホブゴブリン。

 背中を丸め中腰に構え、右手を握りしめ、左手手刀を添える。古風なレスリングスタイルも、非常にサマになっている。


 カズトは間一髪、危うい所でタックルを避け、3人揃って一旦距離を取った。


〝かっけえ、かっけえのにw〟

〝強そうなのに下手なお笑い芸人より笑い誘ってんのはなんなんだコレw〟


〝まるでどこぞの巨大特撮ヒーローか、世界が倒すのに何十年もかかった名選手みてーな構えなのにw〟

〝レアモンスター襲来で人が流れて来た。今300人だよマコマコ!〟


 なにせ、盛り上がった胸筋をピッチリと押さえるのは、フリルのあしらわれた赤いワンピース。


 明らかに伸び切った袖から覗く人を絞め落とせそうな剛腕と、誰も目にしたくないスカートから飛び出ているぶっとい豪脚。


 そのようなモンスターが、真剣極まりなく戦っているギャップ。意味不明な笑いを耐えられない視聴者が騒ぐのも無理はなかった。


「何がお兄ちゃんだ。僕には兄しか居ないよ!」


「⋯⋯フッ、お兄ちゃん、お兄ちゃん?」


 そんな妹☆ホブゴブリンはニヒルな笑みを浮かべ、開いた左手手刀の指先をクイ、クイ、と2度だけ動かす。


 なんと、彼らを挑発してみせたのである。


 完全に格下と見下した態度であり、3人はお兄ちゃんという言葉の意味が別の意味に聞こえ、非常にムッとするほど、闘志を焚き付けられた。


〝あれ、ちょっとマジでカッコいいぞ?〟

〝お、おお?〟

〝意外に武の者だったw〟

〝生まれは選べなくても生き方は選べるとでも言いたげな⋯⋯お、おうw〟

〝カッコいい⋯⋯だと?〟


「上等だよ、この。負けるもんか!」


 その態度にカチンと来たマコは、スピアヘッドで突撃。右後方に棍棒と盾を構えたユミナが追走。その背後から連携して、カズトがモーニングスターを振りかぶる。


「おぉ、にいちゃんんん!」


 槍の穂先を左手手刀、肉と薄皮で受け流す。ニヤリと笑う妹☆ホブゴブリンは、万力を込めた右拳でマコの腹部を狙う。


「させません! きゃあ!?」


「うわぁあっ!?」


 ユミナが盾を構え割り込んだ。先ほどのギロチンスライムと違い受けきれないほどの一撃に、マコごと滑る壁際まで吹き飛ばされてしまう。


「こ、のぉお!」


「おぉおおおにいいぃい!」


 飛び上がり縦に1回転、全体重と全膂力を乗せるカズトの切り札(スキル)

 レオアーツと、足を踏ん張り繰り出す分厚い額が、火花を散らしてせめぎ合う。


〝お、おお!〟

〝なかなかの見応えバトル〟

〝良い踏み込みとタイミング。やるな、両方とも〟

〝格上だから、最適化モードか?〟

〝いや、今のはただの実力以上クリティカルだな、だが⋯⋯〟

〝ああ。まだ足元が青い〟


 両者、一歩も引かず。だが、カズトは粘液のせいで、わずかに着地する足並みを乱してしまう。


 妹☆ホブゴブリンは額から流れ出る血を舌で舐めると、一見やられて倒れ込むように、フェイントをかけて突撃した。


「なっ!? ぐぁあ!?」


 AIメットのカスタムは、読み切って最適化モードに変更した。だが、使い手であるカズトは間に合わなかった。


 追撃を加えようと振り上げたモーニングスターが手放され、宙を舞う。カズトは強力なラグビータックルを受けて、受け身も取れず床に投げ出された。


 だが、妹☆ホブゴブリンが頭に攻撃を受けたダメージも、決して無視できるものでは無い。

 槍をいなしたせいで傷つき、震える左手を構えるまで、たっぷり5秒。


 その5秒の間に本来、遥か格上の戦いを知る2人の行動は、的確かつ迅速極まりなかった。


 ファイヤーボールの連射でカズトへの追撃を防ぎ、床に飛び散っていた粘液のほとんどを焼いて除去したのである。


「これでもう滑りません!」


「もっぱつ行くぞぉおお!」


〝戦い方がマジでテクいな、双方〟

〝おお、判断が素早い!〟

〝手慣れてる。この2人本当にEランクか?〟

〝上手い、相当な時間配信見てるんだろうなw〟


 マコは再びスピアヘッドで鋭く、先ほどよりずっと深く踏み込む。

 左手手刀で受け、先ほどの焼き回しかと思われた妹☆ホブゴブリンの右剛腕は、空を切った。


「お、にぃいい!!?」


 マコはしなやかに足を運び、ギリギリ鼻先をかすめて大きな拳を回避。

 通り過ぎた直後に器用に体制のみを反転させ、杖部分から無防備な背にファイヤーボールを追撃してみせた。


 杖槍の利点はここにある。自身の体制を入れ替えるだけで、強力な2連撃を一連の流れで即座に撃ち込む事ができるのだ。


 なお、この動きにスキルは一切関係ない。パイルバンカー神とカスタムのアドバイス。マコ独自のセンスと工夫の賜物である。


〝うわ、今のベテランでも早々できねえぞ!?〟

〝まるで踊ってるみたい、すごい〟

〝横だけどポールダンサーやんけw〟

ひるがえるオリエンタルなパーカーが色っぽいw〟


「ふふっ、アタシはお兄ちゃんじゃないよ。でっかくて変な、お・に・い・さん♡」


「むぅううう!」


 マコの挑発返しに冷静さを欠き、無理に体制を変え反撃を試みる妹☆ホブゴブリン。だが彼は迂闊にも足元をよく見ていなかった。


 そう、先ほどまで自分とカズトが戦っていた足元。唯一ファイヤーボールで乾かしていない、粘液が飛び散ったままの足元である。


「!?」


 マコが狙って行なった訳では無いが、妹☆ホブゴブリンは最悪のタイミングで片足をくじいた。


 ズレた足の側面で無理に踏み込んでしまい、右足関節に致命的な損傷が生じる。


 とっさに両手で受け身を取るも痛みに呻き、3人の瞳が絶好のチャンスだと、きらめいた。


「ここだ、勝機ぃい!」


「お、おご、おぉおお!?」


 囲まれて体制を整える間もなくボコボコに殴られる妹☆ホブゴブリン。

 最後にカズトのレオアーツがもう一度頭部にめり込んで、彼は耐えきれずに宝箱に変化してしまった。


 勝利である。ただカズトにとっては、少しだけ苦い経験となった。


「ふぅ、勝てた、けれど⋯⋯」


 大きく息をついて、モーニングスターを下ろす。妹☆ホブゴブリンの技量は下位モンスタートップの格上だった事は間違いない。


 実力や戦闘センスでは敵わなかった事を、少しだけカズトは悔いた。


〝これはゴブリンさん運がなかったな〟

〝途中までは良かったが、挑発返されて負けるとは、因果応報やなぁ〟

〝南無。惜しい、いや、おかしく面白いゴブリンを亡くしたw〟

〝てか魔石でなくて宝箱か、マジでこれレアアイテム習得あるんでね?〟


〝この大きさだと、中身はスキルブックかもなw〟

〝いやいや、宝石とかじゃね?〟

〝もしくは便利なアクセサリーアイテムとか?〟


 気を取り直して3人はパイルバンカー神が見守る中、宝箱を観察する。

 宝箱は今まで見たこともないほど小さく。鍵もついておらず。箱というより片手で持ち上げられるほど小さな容器に近かった。

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