第26話 10年前のカスタム
神宮高校、マコの教室にて。
予冷が鳴り響く休み時間。テンプレことマコは、教室中を人知れずふわふわ浮かぶパイルバンカー神と共に、アヤカと数人の友人たちと雑談に花を咲かせていた。
「だからさぁ、今度支援会もできるらしいし、本当にすごいんだって、テンプレちゃんとパイル神は」
話し込んでいた隣のアヤカが少しぎょっとするほど、マコの耳がひくひく動く。気になった彼女は後ろの話し声に顔を向けた。
「あ、カズト君じゃん?」
「やあ、十平さん」
数人の男子生徒と切り抜き動画をスマホで覗き込んでいたのは、以前、マコを助けて共にダンジョンに挑んだ。荒井カズトだった。
「この間はごめんね。トラブルになってさ」
「そんな、気にしないでよ。コメント消すって言っちゃったし。あれからどうだった?」
「僕に粘着はしてないみたい。それに、僕でもあの時みたいに対応するから、それこそ気にしないでよ」
「あぁ、あのショート動画の子か。パイルバンカーな神様の。でもよぉ、テンプレだっけか、Sランクの手伝いしただけで、たまたま神装備を手に入れただけの1発屋なんだろう?」
まだある程度その通りなのだが、一緒に見ていた男子生徒の何気ない1言で、マコとカズトは気に入らず片眉を揃って跳ね上げた。
次いでパイルバンカー神がスーッとその発言をした少年に近づく。マコは貼り付けた笑顔で、さりげなくその道を遮り、彼を守った。
この神、時に少しだけ短気である。
「あのねぇ。よく知らないんだろうけど、そういう言い方はよくないだろう。じゃあほら、そのSランクさんの最初期の動画を見てみなよ」
カズトはスマホを操作して、ある古い配信動画を再生する。
そこには多少荒い映像で在りし日のカスタムが、誰かの手を引いてダンジョンの中を駆け回っていた。
『怖いか、怖くないって言えれば嘘だよな。僕もだ。僕が逃げないように、みんな見ててくれ』
「きゃぁあ! カスタムさん小っさい!」
「おっほ、めっちゃカワイイ男の子じゃん」
幼さの残る意外な一面に、マコは思わず黄色い悲鳴を叫び、アヤカは好みだったのか目元が獲物を狙う猛禽のようで、怪しかった。
「よくこんな古いの知ってたな、カズト?」
「最近カスタムさん話題だから、偶然回ってきたんだよ。これ有名になって新聞にも掲載された回で、配信者wikiにも残ってるらしいけどね」
「10年近くってかなり前だな。ああでも、有名なソシャゲとかも10周年してるんだから、そんなもんかもな」
「これ、誰か助けてんのかしら?」
「視聴者からの無茶振りミッション企画やってたんだって。それで、アクシデントでダンジョンに迷い込んだ女の子を偶然見つけて、助けたんだってさ」
〝さぁ、手を繋いで、行こう!〟
今と違いショートソードを振るい傷だらけになりながらも、果敢にモンスターと戦うカスタム。
視聴者たちも慌てふためく者や応援する者、空気を読まずからかったりする者など、様々なコメントを書き込んでいる。
ただ、何年が経過した弊害なのか。視聴記念に書き込んだような、数年後の日付だけが表示されていくコメントも多く。
今は流行っていない、流行語らしき物が表示されている事も多かった。
「なんだ、こいつAIメットかぶってねえじゃん。舐めプか?」
「バカねぇ、10年前よ。AIどころか家の親はスマホも持ってなかったわよ、確か」
「少し調べたけど、この頃はAIメットとかも無かったんだってさ」
「ふーん。無茶振りミッション企画かぁ。悪くないね。ユミナちゃん先輩にも教えてあげよっと」
「え、十平さん、ユミナ先輩って、まさか2年の三笠ユミナ先輩?」
「そうだよ。この前偶然⋯⋯えっと、入学前に、コンビニで知り合ったの。うん」
マコはとっさに嘘をついてしまった。
顔こそ変身で隠していたが、ユミナがダンジョンでテンプレに救助された蛇少女ではないのかという噂は、すでに学校中に広まっている
後ろめたい事もなく、テンプレである事がバレたらバレたで構わない。
だが、無闇に学校で騒ぎを起こす気も無いので、彼女は何か勘付いてそうなカズトに、沈黙を貫く。
────キーンコーンカーンコーン。
予鈴が鳴り響き、生徒たちが慌ただしく移動を始める。マコは内心そっと胸をなで下ろした。
「⋯⋯そうなんだ。じゃあ、今度紹介してくれよ。十平さん。資格があるなら、3人でダンジョン行こうよ」
「あはは、うん。じゃあ、その時は一緒に行こうか。また連絡するね、カズト君」
自分の教室に戻るカズトに、彼女は曖昧に笑いかけた。
思いついて先生が来る前にユミナへ、見せてもらったカスタムの動画URLを転送するマコ。
すぐ既読の付いた返信のメッセージには、感動して泣いているようなスライムのスタンプと、家宝にしますとだけ、メッセージが添えられていた。




