第23話 配信者になりたい
「カンパーイ!」
ぐつぐつ煮えるつみれ鍋を囲み、彼らはまったりとした雰囲気で配信を開始していた。
ユミナは身元が簡単にバレないように変身しているが、今回は大事な部分が見えないように、キッチリ用意した毛布を被っていた。
〝なんかこー⋯⋯絵面が主人公と女幹部と魔王と武器が、一緒に鍋を囲んでるみたいやね⋯⋯〟
〝www〟
〝珍妙すぎワロタw〟
〝的確ストレートスギィ!〟
〝カスタムが魔王定期w〟
〝羨ましい⋯⋯〟
〝くそぉ、仕事中になに見せやがるんだ〟
〝仕事中なら仕事しろ定期〟
「俺は普段着だろうが、誰が魔王だ、誰が」
〝何呑んでんすか、カスタムと神様?〟
「本醸造品だ。飲みやすいフルーティーで新酒らしいフレッシュな口当たり。温めれば一転、キレがより深くなる一品だぞ」
パイルバンカー神は1杯呑み終えたカスタムの枡に酒を注ぎ、カスタムもまた、同じようにパイルバンカー神の枡に酒を注ぐ。
双方、酒の趣味が合うのか、四角い枡を打ち鳴らし、一息に濁りなき清酒を飲み干す。
人、三杯にて酒を呑む。そう言わんばかりの呑みっぷりに、視聴者たちも喉を鳴らした。
「本当に良い酒知ってるよな。刺身に合いすぎる。流石は神だぜ」
「⋯⋯お酒って美味しいんですか?」
「さぁ、飲んだもとないもん?」
〝俺たちはビールだよ。喉越しがすべてやね〟
〝ワイン。香りと渋み、コクだな〟
〝カレー鍋だぜ。シメはチーズ予定w〟
〝てか、テンプレちゃんとパイル神、ダンジョンの未公開録画も出してんのか。ほれhttp.www⋯⋯100G〟
〝マジか!? マジだ⋯⋯!〟
〝はえー⋯⋯すっごい〟
〝リベンジ中のカスタムはやっぱ鬼だな。やべーや〟
〝明らかにステータス差が酷いのに、終始アドバンテージ崩さないのはもはやキモいw〟
〝爆アドどころか神アドあってもコレかい。名勝負だな2000G〟
〝というか、もしかしてテンプレちゃんってダンジョン初心者なん?〟
「そうだよ。まだダンジョン潜って1ヶ月も経って無いの。だからさぁカスタムさんのせいでめっちゃくちゃ悔しいの! この野郎に仕返しするために、パーフェクトな勝利方法を教えろ下さい!」
テンプレは両手をブンブン振り回して、女性としての恥も外聞もなく駄々っ子のように、そう言い切っている。
だが、指を差されたカスタムは、嬉しそうに笑い、見せつけるように唐揚げを頬張った。
〝お、おう〟
〝勝つために相手を目の前にして媚びないその姿勢。もはや美しさがあるわw〟
「チートだろうが神様を味方につけてようが、満足に勝ちてえなら「たたかう」「たたかう」「たたかう」を選び続けるしかねぞ。クソガキ」
「むぅううう!」
「あはは、それでテンプレちゃん。あのロボットからの電話って、どうなったんですか?」
〝それ気になる!〟
〝何者なんだろうな、あのロボ?〟
「電話は止まったけど、神様もまだ調べてる最中なんだって。誰かこの曲に聞き覚えないかな?」
〝聞きたい!〟
〝興味深い、是非再生してくれ〟
〝濶ッ縺?□繧阪≧。閨槭¥縺ィ濶ッ縺〟
「え⋯⋯?」
「ほう⋯⋯?」
文字化けのコメントが流れた直後、1ループだけノイズ混じりの曲が、繋がっている全員の聴覚に再生される。
いきなりの事でテンプレは、手に持っていたスマホの再生ボタンを押すことができなかった。
〝良い曲だな。電子楽器オンリーみたいで、もっと無機質かと思っていたが〟
〝ああ。でもセンスとしては、なんか酷え追い立てられてるみたいな?〟
〝後半は深い祈りを感じます。まるで、夜に眠らないフクロウのような〟
〝誰かちょうど文字化けしててワロタw〟
「私まだこのスマホ、操作してないよ⋯⋯?」
〝は?〟
〝マジ?〟
〝え、じゃあ今のはいったい……?〟
〝マジかよ。だって今確かに、この耳に〟
〝わーお⋯⋯〟
〝おいおいおい本格的にオカルトじみて来たな?〟
「こっちの配信を認識してるのか、おい文字化け野郎。できるなら返事してみやがれ」
カスタムが酒臭く息巻いて煽る。だが、しばらく待っても文字化けしたコメントが流れる事はなかった。
〝フルシカト乙〟
〝日頃の行いのせいw〟
〝歌う文字化けってところか?〟
〝まあ、気持ちはわかるw〟
「テメエらアカウント名、覚えたからな。そろそろシメにするか。うどんと何があんだっけ?」
「ラーメン!」
「米は譲れんぞ」
「か、カレー粉とチーズ⋯⋯!」
全員違う事を宣言するので、じゃんけん争いで鍋に最後に入れる具材を決定した。
熾烈極まりない戦いを制したのは、パイルバンカー神。
虹閃光で無駄に表現されたグーチョキパーの勢いに慣れず、カスタムとの接戦を勝利した結果である。
黒鉄のロボットの仮称は、文字化け、あるいは歌う文字化けと、いつの間にか呼ばれるようになっていた。
◇◇◇
「それで、相談って、なんだよ?」
「配信で次の企画どうしよっかなって、一応トップじゃん。カスタムさん」
「一応って、お前なぁ・・・・・・」
ソファにぐだっと寝転がって、テンプレは食後の紅茶を楽しんでいた。完全に自分の自宅か何かのような、太々しいにも程があるくつろぎっぷりである。
一方で、ユミナはぴったりと背後に浮遊するパイルバンカー神のせいで、少し気が気でなかった。
彼はユミナが悪戯しないように見張っていたが、それ以上に反応が面白くてわざとそうしている。善意ではあるが時々彼は意地が悪かった。
「食ってすぐ横になると、牛になるぞ」
「むふっ、もーもー。牛さんになっても、愛してくれるカナ?」
「アホか。牛の着ぐるみでも着て、勝手に視聴者でも喜ばせてやがれ、マセガキ」
「あ、あの! 私も実は、ダンジョン配信やってみたいんです。けど⋯⋯」
控えめに自分の手をあげるユミナ。内心、カスタムに近づきたいという下心もある。
だが、彼女はせっかく知り合ったカスタムやテンプレに置いて行かれるのも嫌だった。
そんな所だろうとは思っていた。カスタムは壁に立てかけてあった、新品の盾をユミナに差し出した。
「これは?」
「昔、俺が使ってたのと同系統のモデルだ。少し使ってみたが、取り回しはずっと良くなってる。やるよ」
「あ、良いなー! 私にも何かちょうだい!」
「お前には色つけてやっただろうが。訓練ぐらいは付き合ってやるが、先輩なんだから、ダンジョンまでちゃんと面倒見てやれ。一緒に配信もすれば良いだろう?」
「えー、テンプレで私好みだけど、視聴者さんは、それじゃつまんなくない?」
「基礎講習も学んでねぇ素人連れて、余計なことしようとすんじゃねえの。配信は常に一発勝負なんだからな。それに⋯⋯」
「それに?」
「良い配信者ってのは、運にも悪運にも恵まれちまうもんだ。その点、ユミナはお前以上に、とびっきりだろうさ。なあ?」
彼は半分以上、冗談のつもりで、だがなんとなく確信めいた同情を添えて、ユミナの盛り上がった胸元に、盾を軽く押しつけた。
彼女はそんな彼を目を丸くして見つめ返したが、少し考えて言葉を返した。
「⋯⋯今、交際してくださいって言いました?」
「あー⋯⋯私にもほんのちょっとだけ、そう聞こえたのかも?」
「お前らの耳はどうなってんだ。むしろ脳みそか?」
「乙女脳ならぬ乙女耳というやつだ。これこそ違っても、理解を示すと良い」
「お、おう⋯⋯?」
女性と男性の間には、暗くて長く、深い大河が流れているようなもの。
彼は若く、1度肩まで大河に浸かっても、分からない事が多かった。
腑に落ちない全員の返答に、自分が間違っているのだろうかと、カスタムは首をかしげるしかなかった。




