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第21話 本物の気高い花

「ア、あ、あァあ~!」


 膨れ上がった風船に針先ほどの穴が空いたように、虹色の光が眉の間から吹き抜ける。

 アルプはその手で無様に押さえるが、光の流出は一向に止む気配がない。


 やがて元の1mほどの大きさに戻ったアルプは、自身が作ったブラックホールに引きずられまいと、必死に地面に爪を突き立てていた。


「ひ、ヒヒ、ひぃいい、ヒヒィ」


〝テンプレ! テンプレ! テンプレ! テンプレ!〟

〝テンプレちゃんの偉業を讃えよ!〟

〝もはやバグ枠で草w〟

〝パイル! パイル! パイル! パイル!〟

〝バグ枠×バグ枠×巻き込まれ一般人という魔境w〟

〝こいつ、この期に及んで媚びてやがる〟

〝卑しい⋯⋯〟


 視聴者たちの勝ち鬨を祝う大喝采が、スキルを通して鳴り響く。

 そんな中、崖っぷちに立たされたアルプは媚びた薄ら笑いを浮かべ、ユミナを見つめていた。


「ユミナちゃん。ほっといても良いけど、好きにしていいよ」


 テンプレの言葉に背を押され、ユミナは適当に狙いをつけず、ただうざったそうにファイヤーボールを撃ち込む。


 その口からは返事やののしる言葉さえも、出てこなかった。


「ヒャッ!? あっ」


〝あ〟

〝あ〟

〝あ〟


 アルプは接近するファイヤーボールに驚き爪を引っ込めた。

 両手をまだ地面に付けていれば吸い込まれる事はなかったかもしれないが、そのまま自分で作ったブラックホールに飲み込まれていく。


「ノォ!? オォオオオオオォォぉぉぉ⋯⋯」


 長く滑稽なドップラー効果音を響かせて巻き込まれ、異空間も折り畳むように吸い込まれていく。

 一夜の悪夢か何かだったかのように、アルプが行なった悪事はすべて、跡形もなく消滅していた。


〝南無阿弥陀仏〟

〝妥当な末路だ〟

〝神に手を出したんや、インガオホーやなw〟

〝いやしかしこれ、特例で一気に昇格あるかもな〟

〝どう見ても特級モンスターオーバーだもんなw〟


「ケッ、最後までシケた野郎だ。まさか宝箱1つ落とさねえとはな」


「⋯⋯これ、なんだろ?」


 ふわふわと宙に浮かんでいる赤紫色の結晶のような物を、テンプレは不思議そうに指差す。手に取ってみようとしても触れられず、手の平の上で指先ほどの塊がふわふわと浮いていた。


〝なんだこれ〟

〝鑑定スキルで見ても、なんか■ア・■■って表示されるな?〟


「不思議だね。触ろうとしても指が届かないや」


「ふむ、後で調べてみよう。収納スキルに入れておくと良い」


「じゃあ、入り口に戻ろっか。私も門限まであと40分くらいだもん」


 様々な尽きること無き賞賛を受け取りながら、テンプレたちはダンジョン入り口へと帰還していた。



◇◇◇



 転移した先にはバタバタと駆け回るスーツを着た刑事、警察官たち。モチヅキとグリンが慌てた様子で駆けよって来た。


「マ⋯⋯テンプレ様!」


「あはは、心配かけちゃったみたいだね。ただいま、モチヅキちゃん!」


「はい、はい! 皆様ご無事で、本当に何よりでございます!」


 モチヅキはその瞳に涙を浮かべ、へにゃりと笑ったテンプレと抱き合う。

 一方でカスタムは安堵するグリンに、そっけなく手をあげただけだった。


「じゃあ今回はこの辺でお開きだな。またな、ファン共」


〝はは、カスタムも今回は機嫌良いみたいだなw〟

〝最高だったぜ、バイパイルー!〟

〝夢みたいだったバイパイルー!〟

〝またねバイパイルー!〟

〝愛してるぜバイパイル!〟

〝なんで警察おるんやろバイパイルー!〟


「バイパイルー! 土曜日にはまた配信するから、またねー!」


 全員、興奮冷めやらない視聴者との別れを、名残惜しそうに手を何度も振って済ませていた。


 配信を終えて彼女が振り返ると、桜の代紋が目立つ手帳を書き込んでいる壮年の刑事と、少しダウナーで浮かない表情の女性警官が笑いかけてくれた。


「どうも、丸の内警察署ダンジョン課の藤村ですわ。こっちは明神です」


「⋯⋯連中の件ですか?」


 カスタムが敬語を使い、さらに上階にある東京駅、それも交番がある場所だけを目線だけで示す。藤村警察官は頷くだけで答えた。


「じゃあ悪いんですが、この子ら送ってからでいいッスかね。命懸けの戦いしたせいで正確な聞き取りもムリっぽくて。グリン、悪ィけど頼むわ」


「いえ、私は」


「あ、もうぜんぜんダメだな。むしろ先に病院行かせた方が、良いかもしれません」


 カスタムは驚くユミナの顔に自分の顔を近づけ、少し早口で話しかけた。

 そんな彼を見てまたしてもテンプレは「ふーん」と、何か酷く納得いかないような顔を浮かべてしまう。


 そして、驚いた猫のように固まってしまっているユミナの脳内では「は? 結婚しよ!」の一色に染まりきっていた。実に罪作りな男である。


「承知しました。ではパトカーで」


「それには及ばんよ。ユミナはここの全員で、彼女の自宅に転移させよう」


 返事を聞かずユミナの変身を解除し、パイルバンカー神はその場の全員をユミナの自宅前に転移させた。


「あぁ、やっと帰ってこれたぁあ⋯⋯」


「ふむ。では、後日お電話で聞き取りと言うことで、ご協力ありがとうございます」


「何、ただ門限が近くてな。この子たちもこのまま送るが、良いかね?」


 パイルバンカー神は杭の先で、曖昧に笑うテンプレとモチヅキを示す。藤村刑事と明神警察官は快く頷いてくれた。


 大冒険を終えて何度も手を振ってくれるユミナと別れ、テンプレとモチヅキを自宅の部屋へと送り、ダンジョンの入り口へ戻る。


 パイルバンカー神はため息のようなゆったりとした蒸気を吐き出す。

 彼は珍しく少しだけしんどそうな声で、大人たちだけの本題を切り出した。


「さて、今の2人に聞かせたくないのは、先日の婦女暴行未遂と猥褻物陳列容疑。並びに我々への転移誘拐疑惑、彼への傷害未遂事件の聞き取りだな?」


「流石は神様。本当に話が早くて助かりますわ。もうグリン君の協力で犯人ほぼパクっとるんですが、何分、はっきりしない証言もいくつかありましてねえ。外まで歩きながらで良いでしょうか?」


「連中、そこまでやってたのか」


「監視カメラの映像から、そこまでやったらしいんですわ、先輩。しかも簡単に捕まったんで、Aランクの詐欺っぽいときてます」


「マジか。そこまでかよ」


 階段を上がりわずかに人が減り始めた駅構内を歩く。多少、カスタムとパイルバンカー神が目立っていたが、質問に答えながら外へ出る。


 駅前には何台かパトカーが目立たない位置に停車している。その内部には、Aランク配信者と自称していた湯本ケンジたちが、手錠をかけられていた。


「彼で間違いないでしょうかね?」


「間違いないです。俺たちを転移させたのは、あいつらだ」


「主犯も間違いない。証拠の録画映像も提出しよう。ふむ⋯⋯」


 それとなくパイルバンカー神は見えないように浮遊したが、ケンジは明神警察官を恨めしそうに見咎め、パトカーの中で暴れ始めた。


「お前、さんざん良い思いさせてやっただろうが! 学校でのことも、世間に全部バラすぞコラァ!」


 罵声を浴びせられた明神警察官は、死んだ魚のような目で暴れるケンジを見つめている。

 彼女の脳裏に浮かぶのは、己の凄惨な過去。


 いじめと言う言葉も生ぬるい、他人の顔が判別つかなくなるほどの惨状と、彼らによる犯罪被害の数々。


 だからこそ何の感情も思い浮かばず、彼女は自ら目蓋を閉ざす。


 完全に窓が閉め切られて居るので、罵声はそれほど響いていない。

 だが、パイルバンカー神がくるりと杭を回すと、罵倒は誰にも聞こえなくなった。


「ふむ、少し良いかね。明神警察官殿」


「はい。なんでしょうか。パイルバンカー様」


「よければあの不快極まる愚か者に、相応の対処を願えるが、如何いかにする。あの言いようではともすれば、そなただけを狙って報復するぞ?」


 機械の身体持つパイルバンカー神に、顔色は存在しない。忌々しそうに蒸気をゆるく吐き出すだけである。

 過去の仕打ちが脳を揺さぶる。胃が、ひっくり返ったように震え。喉元まで熱い物がせり上がる。


 身体をくの字に曲げかけた明神警察官に、藤村刑事はハンカチを差し出す。

パイルバンカー神は彼女の体調が良くなるように、虹閃光でやわらかく包み込んだ。


「⋯⋯いいえ、彼に関する事はできるだけ親と学校が捨てたので、御遠慮させて頂きたく。ですがもし、同じように虐げから救いを願う者があれば、《《覚えておきます》》と宣言する言葉で威嚇せよと、どうかお授け下さい」


 血反吐吐き出すようなかすれ声だが、彼女は確かにパイルバンカー神に、己の意思を伝えた。


「⋯⋯なるほど、そなたの尊い願いこそを、この願望神が、ここで拝領いたすとしよう」


 本物の気高い花は、たとえ傷つけられても隣の花を枯らそうとはしない。美しく咲いているだけで良いのだ。

 パイルバンカー神は造花にすらなれないものを歯牙にもかけない尊さに、呻くこととなった。

Φ Φ Φ Φ Φ


 あとがきと補足


 当作品へのフォローや★評価などで応援していただけると、とても嬉しいです。


 執筆活動の意欲にも繋がりますので、よろしくお願いいたします。


 また、ここまでの制作にあたり、以下の質問をGoogle検索AI、Gemini、ChatGPTに解答いただきました。


 時間軸の歪みについて、AIの立場としてどう思うか。なにか社会的な問題があるか。(ChatGPT)

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