第19話 双撃
「ギャハハハハハハハ!」
耳を塞ぎたくなる哄笑を響かせ、アルプは自身の身体を4つに分身。一気に懐に飛び込んだテンプレは、その1体に杭を突き刺す。
「閃光の、チャージパイル!」
神の怒りを過剰に注がれ、爆散する1体のアルプ。4分の1がやられた事も気にせず、カスタムへ残り3体が殺到する。
この中で唯一、神の助力を受けていないカスタム。もっとも弱く倒しやすいと考えての行動だったのだが、彼はテールクラブで反撃に出た。
「オラァア!」
奮われる背中の尾は関節部で伸び、節別れしたヌンチャクのように、突っ込んできた3体を巻き込む。
1体が力任せに破壊しようとすると、他の2体が大きく悲鳴をあげた。
「バカが、明らかに力に振り回されてやがる。ユミナ、撃て!」
「そ、それぇえっ⋯⋯!!!」
ファイヤーボールの連射が襲いかかり、2体の身体のほとんどを消し去る。だが隙間ができた途端に残りの1体は上手く脱出してしまった。
〝あのスキル、そんな使い方もあるのか!〟
〝上手い、見事な空中罠配置だ!〟
〝ファイヤーボール強力過ぎない?〟
〝せっかく4体に分裂できたのに、ねえどんな気持ちどんな気持ちwww〟
〝でも無制限に分身されっと厄介だな〟
「ギィイイイイ!」
アルプは視聴者たちのコメントを認識しているのかいないのか、苛立しそうに翼を何度も羽ばたかせる。
横に高速回転して夜空の星を絡め取り、無数に枝分かれする赤紫色の光矢と変化させ、雨あられと撃ち込んでくる。
テンプレはすぐに指先を伸ばし、虹閃光をピンポイントで配置して、光矢を絡め取った。
「返すよ!」
無数の矢が双方ぶつかり合い、光の壁が両者の間で広がって行く。
その間にアルプは不気味に大きかった両目を、さらに3mほどの大きさに肥大化させた。
〝なんかどっかで見たような〟
〝もはやSFロボットのビーム撃ち合いか、艦隊戦みたいw〟
〝それだ!〟
〝なんだありゃ、目玉!?〟
〝怖っ、ブッ壊れたおもちゃかなにかかよ!〟
〝あのデカい目玉で攻撃する気か!?〟
「⋯⋯遠距離攻撃が来る! ユミナ、俺の後ろに!」
「上等だよ、まとめてブチ抜く!」
「キャハハァアア!」
肥大化した両目に宿り、絞り出すように照射される2条の熱線。レーザー極光波に勝るとも劣らない射撃は、3人と1柱をなす術もなく包み込む。
配信映像も、一瞬で赤紫の閃光に塗りつぶされてしまった。
〝ぐわぁああああ目がぁああああ!?〟
〝くっそ、とっさの遮光なんざ無理だっての!〟
〝何も見えねえ〟
〝ガチで終わったやん⋯⋯〟
〝ビームは無理だろビームは⋯⋯〟
〝そんな、先輩⋯⋯〟
絶望に突き落とされる視聴者たち。溶かされる地面を、ただ空虚な瞳で見つめていた。
────── 赤紫たる1条の光を斬り裂いて、虹閃光が天を駆ける。
〝マジ、かよ〟
〝⋯⋯マジで?〟
〝まてまてまて待ってぇえ!〟
〝嘘やんwww〟
〝マジかぁあああああ!?〟
────── 傲岸不遜にも太古の化身が、恐れ振りまく竜が、今度こそ絶滅を物ともせず、大地を駆ける。
〝ぶはははははははwww〟
〝バカだ、バカが居る2人もwww〟
〝すげええええ!〟
〝うおぉおおおおおおおおおっふ!〟
〝ははっ、すっげ〟
〝おぉ⋯⋯神よぉお!〟
〝やっちまえ、先輩!〟
大嵐の如く狂喜乱舞するコメント欄。ぎょっとして卑しい盗人は攻撃を避けようとするが、自ら無闇に巨大化させた目のせいで、その身を引くと事もままならない。
「ぎぇええええええええ!!?」
「断末魔はそれでいいな!?」
「吹っ飛べぇええええ!」
上下に交差するアギトのような双撃。衝撃で大きすぎる目玉を根元ごと引きちぎり、アルプを錐揉み回転させながら遠くへ吹き飛ばす。
もはや、視聴者には何が起こったのか想像も届かず。
現在の同接は爆発的に増加傾向で、日本だけでも15万人を突破、その勢いはとどまる気配もない。
未知の階層からの帰還、モンスターとの連戦という、SNSの上のトレンドすら置き去りにしかねない電撃的かつ前代未聞な事態が話題を呼び込む。
必死に追いつきたい者達が目を光らせ、血眼になって拍車をかけ、他に類を見ないほど世界中に噂が駆け巡っている。
未知の実力持つ者たちによる戦いに、誰もが目を離せないのだ。
まさしく世界を魅了する。超新星である。
「お、ごご、ぐぎぃいいいいい!」
アルプは血混じりの濁った咆哮を撒き散らし、背の翼を再び毛細血管のように変え、折れ曲がった片翼が千切れるのも構わず、見境なしにその場でのたうち回り始めた。
〝往生際の悪い!〟
〝こいつ、見えないからって自分の体ごと傷つけてやがる!?〟
〝イカれてんのか〟
〝もうまともなモンスターですらねえぞこれ〟
「終わらせよう。神様」
「よかろう」
熱い排熱に異空間が震えあがり、テンプレの踏み込みだけで全体が軋み、嘆き叫ぶ。
頑強極まりない金属と合金が尻上がりに駆動し、虹閃光の火花が烈しく舞い散る。そそり立つ極太のパイルロッドを、アルプの眉間に定めた。
「閃光の、チャージパ⋯⋯!?」
「⋯⋯っ、やべえ、引けテンプレ!?」
急激な危機感を察知したカスタムの声は、残念ながら間に合わなかった。
長年貼り付けたシールでも剥がすような、ぺりっ、という、場違いで不気味な音。
「えっ⋯⋯?」
パイルバンカー神の杭が突き刺さるはずだった箇所。綺麗に縦1つ、斜め下2つにアルプの全身が割れ、中から漆黒の球形が、その姿を現す。
それは、反則的なまでの吸引力で、テンプレたちを吸い込み始めた。
「え、ぇえええええええ!!?」
〝まさか、ブラックホール!?〟
〝ここに来て隠し玉かよ!?〟
〝こいつまさか、そのために暴れたのか!?〟
「いかん、飲み込まれる!」
テンプレは必死に地面に爪を突き立て、パイルバンカー神は素早く小型可動式のロケットアンカーを床に向けて放った。
だが、直前までアルプが暴れていた地面が捲れ上がり、彼女たちは数本の毛細血管ごと、推定ブラックホールに飲み込まれてしまった。




