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プロローグ ブレない少女

 ダンジョンとは、人間に害をなすモンスターが歩き回り、宝箱などが見つかる場所を示す。この世にダンジョンが発見、あるいは誕生してから70年。


 日本における法整備などがある程度えられ、人々はダンジョンに挑み、様々な糧を得ていた。


 そして現代。通信機器の発展や、それらに連携する認識拡大系スキル。配信者スキルと視聴者スキル。

 さらにはAR技術や、個人用向けAIサポート機器などの《《AI補助利用》》発展に支えられ、ダンジョン内の攻略映像と音声を不特定多数に配信する者たちが現れた。


 人々は彼らを、ダンジョン配信者と呼んだ。


 そんな現代ファンタジーな東京地下駅ダンジョン、地下1階隠しエリアにて。 


「宝箱、なぜに⋯⋯?」


 配信経験のない彼女は、AI補助利用もなく、ただのスライムをファイヤーボールで倒しただけである。

 そしてなぜか、とてつもなく受け入れ難い事実を目にしたように、唇を可愛らしく尖らせている。


 通常スライムから手に入るのは、様々な物と交換できるFランク魔石という結果に終わる。


 なのに、出るはずのない宝箱。それもサイズは彼女が内部に隠れられそうなほど大きく、装飾も豪華極まりない。


 通常の配信者なら棚からぼた餅どころか金貨大量神バズりと、神に感謝を捧げる奇跡。


「テンプレじゃ、ないじゃん」


 だがこの少女、ブレない。

 彼女はこの上なく、王道テンプレを愛していた。


「王道なテンプレじゃなくて悪かったな。とりあえず開けてくれないか?」


「宝箱がしゃべった」


「中身さ。しゃべっているのは中身だ。開けてくれないと外に出られないんだ。頼む」


 手に持った魔法杖の先で、宝箱をツンツン突く少女。確かに声は、宝箱の中から聞こえる。


 誰かが悪ふざけで、音声スピーカーでも中に入れているのかもしれない。そう思って彼女は、その手を伸ばす。


 宝箱が少女の両手によって開かれる。不快にならない程度の重油の匂い。錆1つないメタルな部品。鋭い杭持つ、およそ3mの機械。


「パイル、バンカー⋯⋯?」


「いかにも。俺はパイルバンカーで、閃光な神様だ。箱を開けてくれた礼に神様らしく、何でも願いを叶えてやろう」


 ひとりでに宙に浮いて、宝箱から這い出るパイルバンカーな神様。彼は器用に杭の先端を使って、出てきた宝箱の蓋を閉じた。


「何でもお願いを叶えてくれるの?」


「おうとも、何せ神様だからな。チートやレベルを万単位。気になるアイツとのムフフな展開も思いのままだ。さあ、どうする?」


 古今東西、この手の願いを叶える話は後を絶たず、数多く存在する。それだけ願いを叶えることへの人間の欲求は強いということだろう。


 不思議と、このパイルバンカーな自称神様が嘘を言っていると、彼女は感じない。

 虹色の後光は目に優しく、耳奥に伝わる美声は深く心に沁み渡り、いつまでも聞いていたくなる。


 悪い者ではない。彼女はそう直感して、率直に叶えられそうな願いを1つ、口にしてみる事にした。


「じゃあ閃光な神様、王道でテンプレなダンジョン攻略配信、下さい!」


 この少女、やはりブレない。

 彼女は希望に満ちた目で、そう言い切った。


「そうきたかぁ。え、それで良いの?」


「できないの?」


「できなくはないが、願いが漠然としすぎている。そもそもテンプレとはなんだ?」


 王道テンプレなダンジョン攻略配信の成功例。


 様々あるだろうが、何らかの重大なトラブルを解決し、視聴者が目撃して増え、最終的に配信者として有名になる。というのが大枠で考えればほとんどであろうか。


「ふむ。では有名配信者の危機を、正体を隠して助ける姿を配信とか、ダンジョンで違法行為を行なっている配信者を懲らしめるとか、どうだ?」


「うーん。それって本当にテンプレなの?」


「王道テンプレだとも。では服は、こんな所で如何いかがかな?」


 杭の部品が虹色の光を放つと、少女の姿が変身していた。ご丁寧に全身が映る姿見付きである。


 そこに映っていたのは白いシースルーと碧を基調としたヒラヒラの愛らしい衣装に身を包み、フリルやリボンがあしらわれた非の打ち所のないエルフの美少女。

 密かに自慢な発育の良い胸と、短いスカートから覗くふとももが可愛らしい。いかにもテンプレな少女主人公と誰もが思う姿。


 少女は姿見の前で何度もくるくると回り、可憐に芽吹く桜花のように、その表情をほころばせた。


「可愛いー! でも何で、エルフはともかく魔法少女なの?」


「《《いかにも実力と正体を隠しています》》。という、王道なテンプレだろう?」


 この神、有能。否、わざと限定的とはいえ、全知全能ゆえに神である。

 エルフ魔法少女となった彼女は新たな自分の理解者に、その場で地団駄を踏むほど嬉しかった。


「むふふ、神様はサイコーだね。行こう!」


「待て、新たな信者よ。そなたの名は?」


 彼女はどう名乗るか足を止め、やがてイタズラのように思いついた。


「この姿のときは、テンプレって呼んで!」


 かくして少女とパイルバンカーな神様による、実に王道テンプレでブレない道を穿うがち貫く。


 やがて借り物の力が、本物になる事こそを願う。


 視聴者リスナーのハチャメチャな無茶振りミッションを楽しむ大冒険譚が、その幕を開ける。


 後にある事件で、どのように敬うべきでも読者は神様ではない。神様扱いは良くないと。


 そんな珍妙で、奇妙で、風変わりなたとえ話で、説明するべき事態となるのだが。

 この時の無邪気な彼女はまだ、知るよしもなく。


 その時、ダンジョン深層で、誰かが舌打ちをしていた。

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