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第17話 大胆な告白は

 今日は12月24日のクリスマスイブ。東京の街路樹は美しく蒼いイルミネーションが飾られ、公園の中央に突き刺さった巨大なパイルバンカー神の周囲には、多くの恋人たちが待ち合わせをしていた。


 ユミナは公園でずっと待ってくれている彼に、息を弾ませて駆けつけ、声をかけた。


「カスタムさん、待ちました?」


「いや、今来たとこだ。行くぞ」


 今日は最近気になる彼との初デート。髪をふわふわにロールして精いっぱいニット服とコートを着飾ったユミナは、まるでどこぞの白い姫君のよう。


 カスタムとの他愛ない会話に花を咲かせ、手を繋いでパイルバンカー神の方へ歩く。彼はぶっきらぼうに、綺麗に包装された箱を差し出した。


「ほれ、クリスマスプレゼントだ」


「やった! 開けて良いですか!?」


 よほど嬉しいのか、返事を聞かず箱の包みをバリバリと破るユミナ。

 そこには彼女によく似合う。ずっと欲しかった白亜の手鏡が、素晴らしい夢のように煌めいている。


「⋯⋯⋯⋯え」


 だが、そこに映る姿は、人間ではない。


 黒目は血走り凍えるような青ざめた瞳に。仕上げた美しい黒髪は、白濁したような色合いと無数の蛇がにょろり。服装も雪積もる寒空には考えられないレオタード姿である。


「やっぱりお前、オレを騙していたモンスターだったんだな」


「ち、違います! 私、あの神様に変身させられているだけで、モンスターなんかじゃ!?」


「うわっ、モンスターだ!?」

「なんでこんな町中に、モンスターが!?」

「どっか行けや、このバケモノ!」


 周囲の恋人たちもユミナに指をさして、口々にモンスターと決めつけている。威勢の良い者はユミナに小石を投げ始め、カスタムは面倒臭そうに舌打ちを打つ。


 振りかぶって投げ込まれた石が、ユミナの額に向かって放物線を描く。

 無残にも額を抑え、血と涙を流すユミナ。誰もがそう思ったが、そうはならなかった。


「ゴォオラァアア! 何やってんだアンタたち!」


 投げ込まれた石を手でキッチリ受け止めたのは、怒り心頭なテンプレだった。


「何がバケモノだ、オラァアアア!!!」


「ぐはぁあっ⋯⋯!?」


 彼女は有無を言わさずカスタムの懐に飛び込むと、何の躊躇ちゅうちょもなく、思いっきり土手っ腹をぶん殴る。

 続いてくの字に曲がった彼の身体に、遠慮容赦無い飛び蹴りを繰り出して、恋人たちの方へ吹っ飛ばした。


 巻き込まれた恋人たちは、飛び込んでくるカスタムを避けようとして、ボーリングのピンのように軽々しく吹き飛ばされていた。


「い、いきなり何しやがる、テンプレ!?」


「お前ニセモノだろう。本物のカスタムさんが、こんなしみったれたことする訳ないし、させない。てゆーかそんなに弱いはずがないじゃん!」


「う、うるせえ! お前もただの夢のくせに、だいたいユミナだって、コイツの本名を知らないだろうが!」


「え、夢?」


「あ」


 ボワンと奇妙な音を立てて、彼女たちを見ていた恋人たちが消えていく。

 周囲の景色も曖昧になり、変化しなかったのはテンプレとユミナとカスタム、そして巨大なパイルバンカー神だけだった。


「ヒ、ヒッヒヒヒ、ユミナ、お前はモンスターだ。だって、あのパイルバンカーの神様は、お前を騙して嘘を付いているンだぜ!」


 カスタムの姿が変わっていく。全身に亀裂のような赤黒いグロテスクな血管が走り、背中に薄い羊膜を張った翼を生やし始めている。


 誰がどう見てもカスタム本人ではないことが明白な姿に、テンプレは呆れ、ユミナは青ざめた。


「ざけんな! いまこの状況で、そんな戯言を誰が信じるもんか! 神様ぁあ!」


「その願いを聞き届けた。出て行け下郎!」


「うっ、ち、ちくしょおおお!?」


 巨大なパイルバンカー神が曖昧な景色を破砕しながら倒れてくる。変化したカスタムはアームガード部分の下敷きになり、無惨に潰されていた。



◇◇◇



 ユミナは悪夢から目が覚めた。全力失踪したように息が切れ全身汗だくで、何度も殴られたみたいに頭がガンガンする。

 心臓の音もうるさく、現実では叫んでいないのに酷く喉が渇いている。


 そんな彼女を覗き込んでいたのは、汗をハンカチで拭いてくれていたテンプレと、ぐるぐる回っているパイルバンカー神だった。


「おはよう、ユミナちゃん。すごいうなされてたけど、どうしたの?」


「なんか、変な夢を見て⋯⋯?」


「ふむ⋯⋯」 


 パイルバンカー神が時間を止め、外で見張っていたカスタムを目の前に転移させた。


「あれ、なにかあったのか、神さんよ?」


「今、ユミナに取り憑いているモンスターに対処するために、急ぎ時を止めた。どうやら彼女が眠りについた事で、取りいてしまったようだ」


「ええ、さっきの夢、モンスターなんですか!?」


「モンスターだと? いつから狙ってやがったんだ!?」


「曖昧な気配ではっきりしなかったのだがな。ここで対処しても良いが、ここでは罠や人質を使って逃げ、何度も同じ事をされる可能性がある。いっそ30階まで引きつけたいと思うのだが。良いか?」


「わかった。なにか合図を決めよっか、神様」


 驚きこそしたがパイルバンカー神の提案に、全員頷く。

 彼らは素知らぬフリで逆にモンスターを罠にはめるために、準備を整えて出発した。


 彼女たちの目の前には、3つの転移紋章が床に描かれている。

 1番右側の転移紋章はサイのレリーフ。中央の転移紋章はサソリのレリーフ。左の転移紋章は、首の無いドラゴンが彫られていた。


「これどれだと思う、みんな?」


「サイは下で、サソリは間違いなく上だろうな。前モチヅキと戦ったヤツだろう。問題はドラゴンか」


 ドラゴンの頭部は何者かに破壊されたのか、明らかに首の根元から無くなったように見える。

 力任せにもぎ取られたというよりは、鋭い何かに斬られたかのように、切断面が綺麗である。


「どうする。ドラゴン行っちゃおうか?」


「俺はまた今度に1票。一度来たなら道順次第で、転移紋章踏んで、また来れるだろうからな」


「信者たちよ。俺もサソリに一票だ」


「その⋯⋯カスタムさんって、お付き合いしてる人って、居るんですか?」


 唐突で脈絡の無いユミナの質問に、全員の目が点になった。

 彼女は憂鬱でしかたない表情で下を向き、ボソボソとしゃべっているので、全員が聞き間違えたかと思った。


「なんだよ。どうした急に?」


「すみません。どうしても気になって、つい」


「そうかい。居ねえぞ、モチヅキに説教されてから作ってねえや。寂しいもんさ」


「うっそだぁ。すっごく遊んでそうなのに」


「毎度女に金で裏切られて、遊ばれる方だぞ俺は」


 そう言われると少し納得した。彼は遊ぶ時は悪いことができるくせに人が良い。

 一口に不良と評する事もできない程度にはアンバランスで個性的なくせに、損をしても飄々としている。


 彼なりの人間臭さや世渡り方なのだろう。一応ルールは守ろうとするし、これが大人ということなのだろうか。

 まだ高校生であるテンプレには、判別がつけられなかった。


「私はカスタムさんに、あ、愛してるぅ、なんて、言いません、ので⋯⋯」


 声は変に裏返っている。何なら髪の蛇ごと、裏返っている。もう何を言っているのか、ユミナ自身にもよくわかっていなかった。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯お前いきなり何言ってんだ。アタマ大丈夫か?」


 男として鈍いというより、当然な反応の範囲だろう。

 出会ってそう多く言葉を交わしたわけでもない、年端も行かない少女に突然愛していないなどと言われても、当たり前過ぎて聞いているこっちが頭ポカンである。


 もっとも、これは悪夢で煽られた結果であり、彼女がカスタムに多少自覚のある一目惚れをしているせいでもある。


 そして、横で彼らの会話を聞いていたテンプレの反応は劇的だった。


 それは、まるで宝石か花束、あるいは気になっていた可愛らしい服でも意中の相手に差し出されたかのような、初々しい乙女の反応。


 彼女は、人が恋の駆け引きをしている姿を、初めて見てしまった。


 耳まで肌を赤く染め、両手で口元を包み目をみはり、首を傾げているカスタムと真剣で切ない表情のユミナを、忙しなく何度も見比べている。


「なんだよ。お前もどうした?」


「いや、ユミナちゃん、すごい大胆だなって⋯⋯? よし、あたしも言おう。私もカスタムさんのこと、好きじゃありません。愛してませんよー」


 口に出してみると、胸にモヤモヤしていた気持ちが少しだけスッとする。案外悪くないなこれと、口元がたゆむ。


「⋯⋯え、そんなに嫌われてたのか、俺?」


「最初の印象は、あんな事をしていたのだ。良くはなかっただろうな。ちなみに俺は善良な信者たちを愛すると決めているぞ」


「お、おう?」


「カスタムさん、かーらーのー?」


「よくわかんねえけど、俺は言わねえよ! なんなんだよ、ったく」


 ユミナが真っ赤な顔で軽快に笑い続けるテンプレに、蛇たちを向けて絡んでくる。

 もっともこの大胆な行動が、眠れる獅子⋯⋯というか蛇を、恋とヤンデレに目覚めさせてしまった。


 後々、カスタムとテンプレことマコにとって、それがある問題となるのだが、この時の彼らに知る由もない。


 結局、相談の上でサソリの転移紋章を選び、彼らは再び地上を目指して、歩みを踏み出していた。

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