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第16話 淡い炎

 機体の周囲に転移してくるコンテナミサイルの絶え間ない射出音。地形が即座に変化するほどの絨毯爆撃が襲いかかってくる中を、瓦礫を蹴って飛ぶように駆け抜ける。

 ほとんどマグマか隕石でも落とされているのと変わらず、散弾砲で前方の足場も砲撃されている。再装填のある散弾砲はともかくミサイルはほぼ絶え間なく撃ってくるので、テンプレたちは反撃の糸口をつかめずにいた。


「ぎぃええええええええ!?」


「うわぁ、モエちゃん、もう女捨ててるねえ!」


「アホなこと言ってねえで、お前も撃ち返せ!」


 カスタムは背中から2つのトサカを持つ恐竜の頭部を生やし、毒液を高速で吐きつけるスキル。ディロフォヘッドでミサイルを上手く迎撃していく。

 無双化しているとはいえ、巻き込まれただけの素人なモエは杖を構え振り返る余裕もなく、一心不乱に走るしかなかった。


「クソったれ、何であんなバカスカ撃って、銃が誤作動しねえんだ!?」


「神様! 魔石液を取った時のアレ、ミサイルにできない!?」


「虹閃光か、イメージしてみるといい!」


 カスタムが投げつけた魔石液を奪った時と違い、自らの意思で左手の指先に眩い虹閃光をイメージする。

 10、20、30、40、と際限なく増える様々な色の光が、彼女の指先に渦巻く。


「こう、かな!?」


 宙に虹を描くように、指先から光を放ち塗りつける。飛来するミサイルは虹閃光に囚えられてコントロールを奪われ、テンプレの周囲に付き従った。


「返すよ!」


「でかした、くらえぇえ!」


 計50発以上のミサイルを乗っ取って撃ち返す。


 黒鉄のロボットは追加のミサイル、散弾砲の射撃で迎撃するが、1発のミサイルに張り付いたカスタムが一気に距離を稼ぎ急接近。

 肩部にレックスライサーを全力でブチかました。


「ちっ⋯⋯割れたがバリアかよ!?」


 だが、蒼色の流体する球形バリアごと貫き装甲も砕いたが、肩部に動作不良は見られない。


 黒鉄のロボットは大きく距離を稼いで両肩の砲塔を展開。

 空中に静止して砲全体に青白いスパークを閃めかせ、一瞬だけ無音になると膨大強まりないエネルギーが、砲塔の先端に集まっていた。


「ねぇ、なんかヤバくないですか!?」


「まさか、レーザー砲なの!?」


「いや、目ン玉キラキラさせて喜んでる場合か!?」


「来るか。急ぎチャージパイルを使え、信者よ!」


「諱舌l繧、謦?※縺セ縺」


 酷い雑音の繰り返しを叫ばれている。

耳奥を貫き、そう直感できるノイズ混じりの電子音。

 直後に照射された青白いレーザー極光弾が、空間を斬り裂き周辺を薙ぎ払う。


 テンプレは急激に機構を加速させるパイルバンカー神に押され、勇気を振り絞ってレーザー極光弾にその腕を突き込む。


「こ、のォオオオオオオオオオオ!!!」


「ああもぉおお!」


 青白い極光がパイルの先で2つに裂かれ、虹色の閃光に塗り替えられていく。

 ぶつかり合う余波で石柱は弾け飛び、地形が熱したバターのように溶解して飛び散る。それでも彼女は極光を斬り裂いて駆け抜ける。


 ユミナも涙目でファイヤーボールを何度も撃ち込む。1発が天井に直撃し、落下してきた大岩がレーザー極光弾を一瞬だけ欠けさせた。


「⋯⋯っ、もらったぁあ!」


 そのほんの僅かな隙を見逃さず。パイルがレーザー極光弾、バリア、左肩装甲、左肩フレームをまとめて穿うがつ。

 神の力が左肩部から注ぎ込まれ、全体を繊細な極彩色に変化させようと侵食していく。


「繧「繧オ繝ォ繝医い繝シ繝槭?菴ソ逕ィ!」


「えっ、きゃあぁあ!?」


 誰もが勝敗が決したと確信した、その時。


 碧色のバリアが一気に膨れ上がり、弾け飛ぶ。同時に黒鉄のロボットは左肩パーツの接続部ごと、切り離す手段に出た。


 彼は危機を脱し、テンプレをバリアの崩壊で遠くへと弾き飛ばすことに成功していた。


「テンプレ!?」


「大丈夫、カスタムさん。でもなんてヤツ⋯⋯!」


「隱阪a繧医≧、縺昴?蜉帙r」


「えっ⋯⋯?」


 カメラアイの赤い光が急に消え、ロボットの武装が次々に転移する。

 黒鉄のロボットは頭部をテンプレに向けて傾け、まるで最初から存在しなかったかのように消え去っていた。


「おい、どうして急に退く⋯⋯?」


「なんで私に頷いてたの? ⋯⋯電話?」


 繋がらないはずのスマートフォンに呼び出し音。画面表示は見たこともない文字化けしたようなマークが羅列されている。


 耳に当てて通話ボタンを押す。控えめな音量で奏でられていたのは、先ほど聞いたノイズと電子音だけの歌だった。



◇◇◇



 もともと草1つ生えていない岩肌のダンジョンだっったが、大量のミサイル燃料が熱を帯び巻き散らかされた青焼けや、レーザー極光波が溶かした地面は、惨状という言葉も生ぬるい結果となった。


 鼻奥もスス臭さで酷く、戦闘が終わった直後にユミナは崩れ落ちてしまう。


 ぐしゃぐしゃの顔を腕カバーで何度拭いても涙が溢れ、動けない。

 彼女は先ほどの人外魔境な戦闘のショックで、とうとう精神が限界を迎え、幼児退行してしまっていた。


「もうだめだでない歩けない抱っごじでカスタムざぁん⋯⋯」 


「⋯⋯しかたねえな。ほれ、美人が台無しだぞ」


「泣いてても可愛いって言って、ひっく、言って」


 カスタムが落下してきた時と同じように抱きあげようと手を伸ばす。

 だが、その伸ばした手をつーんとした表情のテンプレが、手のひらで遮った。


「おい、なんだよ⋯⋯?」


「ユミナちゃん。この人すっごいわるーい人なんだよ。だから抱っこするなら、今度こそ私がしてあげるね?」


「やだ。カスタムさんがいい。カスタムさんじゃなきゃやなの。テンプレちゃん、もうおうちかえりたいよう⋯⋯」


「はいはい。すぐ帰れるからね、ふひひ⋯⋯」


 ユミナは体温がかなり低く、抱き心地抜群のカラダで吸い付きたくなる。頭や頬や腕や足に髪先の蛇が甘噛みしてくるのも小気味よく愉快だった。


 決して嫉妬ではない。そう、決して嫉妬ではないが面白くない。


 恋人でもないのに何度も女の子を目の前で抱きあげようとするカスタムも、事情も心情も理解できるが甘えすぎなユミナにも少しチリチリする。


 まだどちらに嫉妬しているのかさえはっきりしない淡く複雑な心を抱えて、彼女はもがくユミナを抱きしめて逃さなかった。


「配信者スキルも繋がらないし、とにかく離れようよ。下手すると周りも崩れて来ちゃうよ?」


「お前の言う事を否定するつもりもねえけどよ。なんか釈然とできねえな、おい」


 しばらくしてユミナは正気に戻り、恥ずかしそうにテンプレの手を握り、一緒に歩いていた。


 壁際を調べるとテンプレたちは神殿の祭壇らしき場所で、転移紋章を3つ発見した。

 パイルバンカー神のおかげで眠気も疲労感もないが、それでもいつ敵が飛び出して来るか分からないダンジョン内では、精神が擦り減っていく。


 あのゾウ頭が住処にしていたのか見張りも立てやすそうなので、彼らはここで休息を取る事に決めた。


「テンプレお前、さっきからなんか楽しそうだな?」


「だって、よく考えたらダンジョンで不測の転移とか、超王道テンプレじゃん!」


「はは⋯⋯」


 騒がしいやり取りがユミナの目の前で繰り返され、少しだけ彼女は笑う。この時はまだ、彼女は影に潜む脅威に気づく事もできなかった。


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