第13話 誰も知らない大冒険?
明滅する光が収まると、目の前には女性のおケツがあった。
短い制服スカートに包まれた小さい尻で、きゅっと締まった無駄な肉の無い魅惑的なお尻。
なぜかスラリと伸びた美脚を乗せて、磨きあげられた鏡のような白い壁に埋まっていた。
「なんで、お尻⋯⋯?」
「え、日本語!? あなたたちモンスターじゃないんですか!?」
テンプレたちは揃って少し上を見上げる。そこには名前も知らない少女の上半身が埋まっていて、なぜか半泣きで、こちらに手を必死に伸ばしている。
「何だ、こういうモンスターか何かか?」
「私モンスターじゃないです。助けてぇえ!」
「いや、助けろって、言われても⋯⋯」
服の様子や動きで、同一人物の上半身と下半身であることは、一目瞭然ではある。
じたばた連動しているので関係ないとは思えないのだが、なぜか両方ともテンプレたちの方を向き、どうしても見ていると構造的に奇妙でおかしく思ってしまう。
テンプレは壁の背後に回り込んでみたが、やはり
あるべき少女の下半身は壁の向こう側に存在しなかった。
「この壁事態がモンスターで、彼女は囚われているだけのようだ」
「両方こっち向きなのに?」
「なんか変な機械がしゃべった!?」
なにか変な状況なのは、間違いなく彼女の方である。
もっとも、浮遊しながら少女の上半身に近づいているパイルバンカー神と、アニメか少女漫画から飛び出してきたような外見であるテンプレである。
ダンジョンの中を歩いていれば、相当変わり者である事に、疑いの余地はない。
どちらかと言えばコスプレ会場や、特殊な工事現場などが相応しいと言える。
パイルバンカー神が杭の先端でコンコンと壁を叩くと、急に白い壁がむずむずと震えだした。
「なんでこんな妙な事になってるんだ。お前?」
「わ、わかんないです。コンビニに入ったら、いつの間にかスッポリこの通りだったんです!」
「信者よ、このあたりに手加減して突き刺してくれ。それでバラバラになるはずだ」
「わかったよ。ここかな」
「え、何するの怖っ、きゃあ!?」
少女から見て右上の個所に、手加減してパイルの先端を刺し入れる。
すると子供の積み木でも壊されるように、白い壁が崩れていく。彼女は吐き出され、地面に叩きつけられる直前にカスタムが受け止めた。
やはり上半身と下半身の空間が繋がっていたのか、テンプレが見ていた下半身は上半身が飛び出すと共に引っ込んでいた。
周囲に散らばった白い壁の一部は、子供のような短い足をニョキッと突き出し、スタスタと歩いてその場を去ってしまった。
「なんだったんだあれは。おいお前、大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう、お兄さん」
年頃は16歳か17歳だろうか。近くで見ると切れ長のツリ目に、長いまつ毛。
豊かな黒髪は長いストレートに流されている。カーディガンに覆われたハリの良く健康的な胸元が目を引く、綺麗な子である。
カスタムに抱えられて少し恥ずかしいのか顔を真っ赤にしている。そして、何かを期待するかのようにそわそわと落ち着きなく離れようとしない。
同性であるテンプレは女の勘でラブの気配を敏感に察し、これは彼の事を少し良いと思っているなと見抜く。
この少女お年頃で、他人へのラブセンサーが敏感な性分である。
「お前、歩けるか?」
「だめかも。えっと、私は神宮高の三笠ユミナです。お兄さんたち、どこから来たんですか?」
テンプレたちはユミナに自己紹介を行い、1番現状を分析ができそうなパイルバンカー神を揃って見つめた。
彼は杭部分を何かを調べるようにぐるりと宙に巡らせて、困ったように部品の隙間から蒸気を吐き出した。
「うむむ、先ほどの石はやはり転移紋章の刻まれた床の欠片だな。投げつけたのが偶然誤作動し、この東京地下駅ダンジョンの地下61階まで、我々を転移させてしまったのだろう」
「マジか、遭難じゃねえか⋯⋯」
「61階って、未踏破階層の倍じゃん!?」
ダンジョンにおいて、下層の方が強力なモンスターが待ち構えている可能性が高く、危険度が跳ね上がる。
他にも様々な悪影響の可能性も予測されており、地下30階までというのは東京地下駅ダンジョンにおいて、人に影響なく帰還できる国が定めた指標の1つとなっていた。
「転移は、神様。お願いできない?」
「やめた方が良い。一度成功しても壁の中で上下がはっきりしないと、下や斜めに向かってしまったり、窒息死しかねない危険性が捨てきれん」
「じゃあ、この前人未到の地で、上階に上がる転移紋章か、階段を探すしかねえわけだな?」
「神様、ユミナちゃんを何か手助けしてあげられない?」
「では、このような姿はどうだ?」
虹色の閃光が杭から注がれ、現れた鏡に、変化していくユミナの輪郭が浮かぶ。
細くも豊満なカラダ。暗褐色のレオタード。ふとももがオーバーニーソックスに覆われ、履き口に食い込み魅惑を振りまく。
そして、人外を思わせる蒼の瞳に黒から白濁したようなロングヘアーの先端には、なぜか無数の蛇がにょろり。
「なにこのヘビっ子姿、⋯⋯うそ、わたし!?」
ユミナが変身したのは、誰がどう見ても魔法少女などではなく。
人に近い姿とはいえゴルゴンやメデューサと言ったモンスター側に近い姿だった。
「ちょっと神様、どうなってるの?」
「いや、これがふざけておらんのだよ。変身スキルには、どうしても相性というものがあってだな。彼女はほかに変身する才能がまったく無いようで」
「えええ!? 私このままなんですか!?」
「シャー?」
突然のこと過ぎて、髪に生えた蛇たちと涙目で叫ぶユミナ。かくして唐突に始まった地上を目指す冒険が、幕を開けてしまうのだった。




