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第12話 自由なる選択肢の中で

テンプレは大きく上に飛び、天井に逆さに張り付いた。距離を取った隙に収納ボックスから解毒剤を飲み干す。感覚のズレはひとまず治まった。


「第2ラウンドは空中戦で良いのか!?」


「ま、まだまだぁあ!」


 片手斧から繰り出される鉤爪のような衝撃波を、ファイヤーボールで迎撃。爆煙から突っ込んでくるカスタムに、張り手で返す。


「(今のであと18回、でも⋯⋯!)」


 大きく飛びのいてファイヤーボールを6連射。すべて命中するがやはりカスタムには効果がない。


 彼は自身の背から鱗に覆われた大きな尾を生やすスキル、テールクラブで反撃にかかった。


「そらそらどうしたぁあ!」


「このっ、う、あぁあ!?」


 身体を大きく回転させたテールクラブと、不利な体勢で腰の入っていないテンプレの前蹴りが交差する。

 テールクラブは粉々に砕け散ったが、大きく反対側の壁まで頭からめり込んだのは、彼女の方だった。


「今のは大きくノックバックさせるスキルだ。空中で受けたり、踏ん張れねえと転倒もさせる。勉強になっただろう?」


「ぺっ、ぺっ、ああもう、あと何回なの!?」


「ははっ、俺にそれを聞くのかよ、俺は敵だぞ!」


 口の中に入った埃と砂を吐き出す。単純な話、彼女はあと20回以上ファイヤーボールで攻撃すれば、勝利する事はできる。


 しかし、今の彼女は完全に翻弄されている。これまでのやり取りや実力で、そのような予測可能な事を、この戦士が許すとは思えなかった。


「⋯⋯⋯⋯なに企んでるんでるの、本当に」


「さてね。敵が作戦を親切に口に出すわけねえだろう。時間をやるよ。勝てるように選んでみな」


 カスタムは風呂上がりにビールでも取り出すような気楽さで、新しい瓶を収納スキルから取り出している。


 実にいやらしくわざとらしい。だがその間にまばたきは一度もされていない。覗き込めば覗き込むほどゾッとするような精密な動きに、彼女は戦慄せざるおえない。


 勝利する手段。パイルバンカー神を手に取れば大きく有利になる。なんなら勝利を願えば不利や優勢に関係なく勝てる、はず。


 今とてパイルバンカー神の力に頼って、彼と勝負の土台に立っている。


 つまり、この戦いは勝利しても1点の曇りもない完勝には程遠いのだ。


 頼って勝てば、一応は勇ましく格好は付く。録画でも配信を行えば顔も見たこともない人々に英雄として称えられる。

 何ならパイルバンカー神に願えば、世界一の王者として、全部総取りだってできるだろう。


 ─────── とてもつならない事に、だ。


 自由なる選択肢の中で。


 何かが欠けた勇者になるか。

 顔も知らない人々に、英雄の証を示すか。

 それとも、すべてを見下せる王者となるか。


 きっと未熟なままの、飾った笑顔を、画面の向こう側に映して。


「そんなの全部知ったことじゃないもん! もうただ勝ちたいの、あんたに!」


「へぇ⋯⋯いいぜ、なら今まで1人しか見せてない、とっておきを見せてやる。来な!」


「うわぁああああああああああ!!!」


 真っ直ぐな目ではあった。だが精神的に追い詰められて耐えられず、余分も余裕もない。

 だからこそ絞り出した激情が宿る。テンプレは叩く事も忘れて、ただ叫びがむしゃらに突撃する手段に出た。


「ごはっ!?」


 体当たりの直撃を右胸に受けて、大きく仰け反るカスタム。先ほどの彼女とは比べ物にならない速度と衝撃で、反対側の壁に激突したまま動かない。


 どう見ても彼は使っていたスキルを中断して、ただなんの身構えもなく、突き飛ばされてしまっただけのように見える。

 彼は1種類だけなら、どのような攻撃を受けても死なないスキルを所持している。


 戦闘経験の浅い彼女は余裕もなく、そのスキルを視野に入れる事も叶わない。


「うそ、勝てた?」


いてぇ⋯⋯いいや、お前がかかったのさ」


 いつの間にか、カスタムの左手から奇妙な盾が手放されている。

 それは床に転がると一瞬でテンプレと瓜二つな形状へと変化し、反撃を繰り出す。


「うわぁああああああああああ!!!」


「な、なんで、きゃあぁあ!?」


 叫び声まで同じように、彼女へ体当たりを敢行。カスタムの反対側の壁へと、大きく吹き飛ばした。


「う、うぅ⋯⋯」


「シャオラァアアアアア!!!」


 数字に表すなら体力1桁台であるギリギリのせめぎ合いの中で、ここでも差が出る。

 テンプレは人生でここまで大きく出血した事もなく、ほぼ偶然手放さなかった杖を必死に構えるので精一杯。


 対して経験豊富すぎるカスタムに依然変わりなく。手放さなず残った斧を両手に取り、上段に構え敵に駆け出す。


「あ、あぁ、あぁあああああ!?」


 迫りくる敗北に焦りファイヤーボールを撃てるだけ撃つ。だが狙いも定まらず。

 彼女の頭に振り下ろされるはずの斧は、ピタリと眉間の手前で急停止していた。


「ひぇっ!? ⋯⋯な、なんで?」


「はぁ⋯⋯俺の負けだな。さっきので決まってねえと、できるか分かんねえが、もう毒瓶使って相討ちするぐらいしかねえわ」


「引き分けと言った所だろう。判定勝負なら、まあ黙っておこうか」


 カスタムは頭を抱えて守っていたテンプレに、跪いて手を差し出した。

 パイルバンカー神は、2人の傷と汚れを元通りに回復させる。


 戦いは終わった。だが、テンプレの胸の奥はまだバクバクと心臓の音が煩く。杖を自ら手放せない。


「指、外せるか。その杖折れるぞ?」


「うっ⋯⋯」


 彼女は杖がミシミシと軋み、悲鳴をあげていた事にも気付かなかった。1本1本指を引きはがすように外し、何度も手の平を開いて閉じた。


「勝てる手段を投げ出せる度胸、その時に意志が読めなかった事もな。それは悪くなかった。ダメな事を憂う奴は上に行く。忘れんな。勝ちたいならな」


「うぅう、納得いかない、最後のアレどうやったの!?」


「入り口前に、宝箱が御丁寧に置いてあるダンジョンがあるわけねえだろうが。自分で攻略してみな、俺から初めてツーミス取った青二才さんよ」


「だ、誰が青二才よ、誰が!」


 ニシシと笑って背中をバシバシ叩いて来るので、テンプレも真っ赤になって否定するしかない。


 まだお披露目を迎えたばかりの新米なのだから、言っている事に間違いはないのだが。

 彼女はとにかく思い通りにならない事に悔しくて、仕方がなかった。


「じゃ、何か食って帰ろうぜ。そのほうが落ち着く。お披露目祝いに奢って⋯⋯お前、誰だ?」


 モンスターが近づいてきたかと思い、カスタムは斧を拾って再び握り締めえう。彼はテンプレの前に陣取った。


 現れたのは数人のガラの悪い青年たち。先日マコに言いよって来た、Aランクを自称していた湯本ケンジたちだった。


「おい、マジでテンプレちゃんも居るじゃん!?」


「テメェこら、カスタム。テンプレちゃんに何やってやがんだ!?」


「お前らこそなんで、こんな夜中に。というかその頭どうしたんだ?」


「てめえ、くらえ!」


「危ない!?」


 青年たちは、その手に握り込んでいた何かをカスタムに向けて投げつけてきた。

 彼女は咄嗟にパイルバンカー神と共に、カスタムを庇おうとしてしまう。


「いかん、これは!?」


「えっ⋯⋯⋯⋯な、どこ、行ったんだ?」


「い、居ねえぞ、居なくなった。⋯⋯消えた?」


 パイルバンカー神に直撃した石は碧色に輝き、彼ら2人と1柱をかき消すように消し去った。


 その場に残されたのは、突然の事に呆けた顔を浮かべる若者たちだけだった。

Φ Φ Φ Φ Φ


 あとがきと補足


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