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第10話 祝、お披露目

 東京地下駅ダンジョン。地下1階隠しエリアにて。


 一歩進むと、小さなスライムが通路を愛らしく転がる。パイルバンカー神が入っていた空の宝箱も相変わらず鎮座していた。


 パイルバンカー神は、せっかくだと思いつく。彼はスライム達にテンプレと同じ、碧のリボンや見目の良く可愛らしいヘッドドレスを施していた。


「でも良いのかな、私だけ今日を25時間も貰っちゃってさ?」


「1時間程度は誤差だな。だが、そなたを若く戻す事もできるが、時間操作は多用はしない方が良い」


 マコはパイルバンカー神と相談して1時間だけ配信の為に、別枠の時間を作って貰っていた。


 現在の時刻は昼間の12時16分。神宮高校ではもう1人のマコがアヤカと談笑しており、12時30分にはこちらでお披露目雑談配信を行う予定だった。


「自分が2人いるっていうのは、少し不思議な感じだね」


「時を戻し、些細な矛盾点を修正して、学校に戻っているだけなのだがな」


 マコとしても、今回だけの特別な贈り物として受け取っている。


 よほどの理由がない限り、時間遡行は多用するつもりは無い。実際に体験してみたい好奇心の方が遥かに強いだけである。


「それにしても事前告知の反応すごいよね。スキルかスマホが壊れたかと思ったもん」


「本当にすさまじいのは、人の目と数だ。こればかりは神でも驚くしかあるまい?」


 最初に見た時、パイルバンカー神も事前に予測できていても、その勢いに言葉を失った。


 事前告知したパイルバンカー神のトゥイッターに向けて、1度に数百数千にも及ぶ怒涛の勢いで新しいフォロワー登録通知が絶えず、今なお増え続けている。


 フォロワー数に関しては元々増加傾向にあったが、既に累計200万人を超えていた。


 これはパイルバンカー神が、様々な多言語を淀みなく使用していること。時折、転移で信者の前に姿を現していること。

 そして既に多くのやり取りが、リアルタイムで常に遅延なく行われていること。

 彼は休眠を必要としないので、ほぼ24時間休みなく活動していることも、要因の1つだった。


 お披露目配信を行うのはマコのスキルではなく、パイルバンカー神の配信者スキルを中心に連携して行う。


 テンプレであるマコが複数のスキルアカウントを持つ事もできるが、機械、スキル、AI問わず、何らかの手段で分析されない為の用心だった。

 

「なんか、火に油って言うか焼け石に水じゃない、これ?」


「あくまでこの配信の主役はそなただとも。堂々と信者1号として気軽に振る舞えばいい。一緒にAIメットを、いつか楽しむのだろう?」


「うん。すっごく緊張するけど、がんばる!」


 気合い十分だが初めての試みである。彼女の手は震えていたが、パイルバンカー神はそれ以上何か言う事もなく。予定通り配信開始の時間だけを告げた。


「時間だ。始めよう」


 パイルバンカー神を中心とした認識が、視聴者スキルとインターネット世界へと拡大。

 お披露目を今か今かと待ち侘びていた視聴者たちへ、繋がった。


「あ、えっと、みんな、お待たせ。こ、こんにちパイル! パイル(杭)JKちゃんねるのテンプレだよー!」


〝マジでテンプレちゃんじゃん!?〟

〝見間違えるわけがねえ。今度こそ、今度こそ本物のパイル神とテンプレちゃんだ。うぅ⋯⋯〟

〝泣くな兄弟。この探し回った時間、本当に長かったな⋯⋯〟

〝こんにちパイル!〟

〝こんにちパイル?〟

〝お披露目おめでとう、盛大に歓迎だ!〟

〝おめでとう!〟

〝めでたい!〟

〝おっほ、もう同接1万超えとるやんけw〟

〝海外勢含め5万かぁ、一夜にしてシンデレラや〟


 同接とは同時接続数の略称であり、視聴者スキルやスマートフォンのアプリでリアルタイム視聴している人数を示す。

 主に配信の盛り上がりや、人気度を測る重要な指標として扱われている。


 怒涛の勢いで吹き荒れる祝福を示すコメントの嵐。テンプレは目を回して腰砕けになりそうになりながらも、大きく手を振ってアピールした。


「あっは、みんなありがとう! 初めてでめっちゃくちゃ緊張してるけど、嬉しくて声が震えちゃうよおぉ!」

 

〝ぶるぶるじゃねえか(ガン見)1500G〟

〝そっかー、えがったねえ(ガン見)〟

〝マジでめろいなテンプレちゃん10000G〟

〝テンプレちゃんとパイル神の初めて⋯⋯ゴクリ〟


「うふふ、初めてのスーパーチャット仮想通貨、《ゴールド》ありがとうね。じゃあ今日は予定通り、あと1時間だけ雑談配信するよ。神様にも質問してね!」


 この時点で同接は3万3千を突破。海外からの接続はもっと多く、SNSのトレンドにも本物、テンプレとパイルバンカーなどの文字が占拠している。


 質問が次々に押し寄せ、初めてとなる大量コメントの感覚に、テンプレは戸惑う。

 今の彼女はSランク以上の認識拡大を行なっているのだから、無理はない。

 だがパイルバンカー神のサポートもあり、適切に1番多い質問を取り上げた。


〝はい! テンプレちゃんは本物の魔法少女なんですか!?〟


「これにするね。魔法少女っていうか、あまり堅苦しくないけど神様の信仰者だよ。あ、でもちゃんと変身してるよ!」


「そうだな。地上に降臨して初めて出会った人間が彼女で、世話になっている」


〝はい! パイルバンカー神の構造をできれば、詳しく⋯⋯!〟

〝いや時間ねーだろ。⋯⋯無いよな?〟


「ふむ、その点についてはあとで解説付きで詳しく公表しよう。まだ人間には伝えない方が良い物もあるからな」


〝ふぅ⋯⋯最高にロマンだぜ。これ情報料と費用に使ってくれ50000G〟

〝マシンポルノ派多くね?〟

〝一般性癖では(一般性癖ではない)〟

〝はい! 変身ってどうやってるんですか?〟


「ふむ、信者よ。良いか?」


「別に良いんじゃない。大事な所が見えるわけじゃないんでしょう?」


〝えっ、するの?〟

〝え、マジでするの、こんなダンジョンで?〟


 虹色の閃光が、テンプレの周囲で暖かにまたたく。

 光が止んだあとダンジョンに立っていたのは、巫女服姿のエルフなテンプレ。ご丁寧に周囲に転がるスライムたちも巫女装束に着替えていた。


〝巫女さんだー!?〟

〝生着替え⋯⋯いや、生変身だぁああ!?〟

〝フォームチェンジじゃん、すっげぇ!〟

〝巫女スライムも可愛い、てか変身するんだw〟

〝か、髪の奇跡や。本物や〟

〝生の魔法少女、生ぎででよがっだ20000G〟


「ぷっ、誤字ってるよ。あはは、さあ、どんどん質問してね?」


 その後も質問に答え、テンプレが現役女子高生であることや、今住んでいる場所は東京であること。


 パイルバンカー神がなぜパイルバンカーなのか、本当に神様なのかなどに答え、最後の時間が近づいてきた。


〝次の配信はいつですか!?〟


「えっと、実はカスタムさんに明日の夜ダンジョンで会うの。もしかしたらそれになるかも」


〝おっと⋯⋯〟

〝2回目の、それも負けたカスタムかぁ⋯⋯〟

〝流れが変わった、いや、2つに別れたな〟

〝アイツ嫌い〟

〝戦うのかな、一回勝ってるんだし余裕っしょw〟


 視聴者の中には主に楽観視している者と、カスタムの実力を認めている者がおり、二分している状態である。


 テンプレは切り抜き動画は多く視聴した事はあるが、彼が素行の悪いSランク配信者であるというイメージ程度しか知らなかった。


「録画は許可を貰ってするつもりだけど、カスタムさんは何かあるの?」


〝アイツは嫌われててもSランクトップで、ダンジョンに勝った男だって、古馴染みは知ってるのさ〟


「おっと、信者よ。そろそろ時間のようだ。質問はここまでとしよう」


「あ、はい。じゃあみんな、週末にはダンジョン配信するから、また告知出すので来てね。バイパイルー!」


〝了解。バイパイルー!〟

〝パイルー!〟

〝ちょっとエッチに感じる挨拶だなw〟

〝僕はテンプレちゃんの⋯⋯いえ、なんでもないです神様〟

〝バイパイルー!〟


 パイルバンカー神が、スキルの接続を予定通り切断した。


 無意識に張っていた緊張の糸が切れ、テンプレはその場に座り込んでしまう。どことなく心配そうに、巫女スライムたちも床を転がっている。


 最後に確認した同接は驚く事に5万人を越え、海外を含めれば20万人を越えていたのだから、立っていられないのも仕方のない事であった。


「あはは、どう、だった?」


「立派なものだったとも。さぁ、学び舎に戻ろう。アヤカが待っているぞ」


「うん。あー⋯⋯緊張したぁ。ふふっ」


 まだ緊張に震える足を張りマコは立ち上がる。他の事に思いを馳せる余裕もない。

 この時の彼女はまだ、強者に挑むという真の魅力を理解してはいなかった。

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