第9話 カスタム襲撃
その日カスタムこと加賀美ナオマサは、あてもなく東京の街をフラついていた。
今年23になる彼は、若干13歳の頃からダンジョンで生き残ってきた、本物の猛者である。
亡き親が作り、普通の人間なら返済に人生の大半を費やすはずの1億円という借金を、たった6年で返済した手腕からも、その非凡ぷりが伺える。
主に稼いだ手段は、AI産業へのデータ提供。ダンジョン攻略配信においては、紛れもない第一人者である。その分野において、いまだ持ってフロンティアトップランナーの1人と言って差し支えない。
しかし、それがかえって本人にとって良くなかった。一心不乱に借金を返したあと彼に残っていた物は、あまりにも多くなかった。
そんな彼にもファンは居るのだが、彼ら自身が名乗ったファンネームは「下手くそな不良団」本人も犯罪集団の片棒を担ぐより、一応マシかと苦笑いしている。
今回のテンプレに関する騒動では、元々ファンに媚びるタイプでもなく。
一度だけ説明して無視と高みの見物を決め込み、コメントで噛み付いてくる輩を楽しみにしている始末である。
「リベンジしても良いが、ああいう真っ直ぐな目の女殴るのは、あんまガラじゃねえんだよな」
あの時は咄嗟に手を出したが、むしろそれは何かを変えてくれる期待から、パイルバンカー目掛けて攻撃を行なっていた割合が大きい。
それなりに情報収集したのだが、テンプレの足取りも一切追えていない。
これは、パイルバンカー神が邪な心を持つ者からマコのプライベートを守っている結果なのだが、彼にそんな事を知る由もなかった。
「余分を捨てれば勝ち筋は何通りかある。いっそ負かして口説くかな。他にやる事もねえ」
美人で若く、見かけはかなり好みではある。もっとも、高校生と彼が知れば、手を出すのは犯罪なので、そんな事はしない男である。
そんな折に繋がりのあるモチズキから、明日の夜に東京地下駅ダンジョン20階で、テンプレが待っているとスマホに連絡が入っていた。
気の利いた事に、配信者としてのお披露目の日取りも転載されている。
「渡りつけられたのか。相変わらずやる事にソツがねえな。アイツは」
スマホ画面を見つめていると、そのモチヅキから電話がかかって来た。
少々面倒だが他にやる事もない。彼は通話ボタンを押して、近くの壁に背を預けた。
「なんだ。連絡ならちゃんと見たぞ?」
「お久ぶりでございます。先輩がきちんとわたくしのご連絡を把握しているか、確認させて頂きましたの」
「そうかい。俺はてっきりお前の事だから、正体不明とか抜かしてるアイツの事も、もう判明させているかと思ったぜ?」
しばし、通話の向こうで沈黙が続く。長年のやり取りで、それだけでもう正体はほぼ把握してやがるなとカスタムは勘づく。
見透かされた事はモチヅキも同様に感じている。ため息と共に、彼女は言葉を選び始めた。
「⋯⋯そういう人を食った態度、お変わりありませんね。まあ、先輩なら本人に出会ってしまえば、否応なく理解してしまうと思います。⋯⋯彼女に、勝つ気でしょうか?」
「愚問だ。挑むための勝率なんざ、1%あれば十分だろう。ついでに口説いちまうかもな」
ヒヒヒと獰猛に笑う。それは、電話の向こうに居るモチヅキも、例外ではなかった。
「珍しい。先輩は年下の方がお好みではありませんでしたよね?」
「真っ直ぐな目の女だからな。お前にもう質の悪い女と金の件で説教されたくねえもん。懲りたさ」
「そうですか。お立ち会いたい所ですが、あいにく夜は他に用事がございますの。勝利を願いますわ。戦士、カスタム先輩」
「テンプレのヤツにもそう言ってやがるんだろう。調子の良いヤツめ」
「ふふっ、もちろん。ですが、あなたがただ負けたままなんて。このわたくしが、少しでも考えると思いますか?」
「そうかい。グリンの奴にも誕生日来たら、飲もうって伝えといてくれ。じゃあな」
手癖で電話を切って、彼は少し後悔した。どうせなら口説くために色々と聞けばよかった。
これから理髪店に行くことは確定として、女なら服と真っ先に思いつくが、いきなりそれは無しだろう。
配信者としてのコラボでも良いが、むしろチャンネルの治安が悪くなれば、嫌われる可能性もある。
「おいテメェ、目障りなんだよ!」
カスタムは物思いに耽りながらフラフラ裏通りを歩いている途中で、いきなり角材で殴られた。
だが億劫なほど遅い一撃だった。避けるのも面倒なので、彼は遊ぶと決めた。
「く、くそ。なんだコイツ!?」
息を切らして何度も殴ってくる12人の暴漢たち。必死にスキルまで使い、今度はロングソードを持ち出すが、カスタムには一切通用しない。
服を破られないように指先で受け止める。退屈なので眼球で受け止める。まぶただけで白刃取りチャレンジしたりと、やりたい放題である。
「け、ケンジくんの攻撃まで、効いていない?」
「なあ、お前ら、好きな女は居るか?」
「ひっ⋯⋯!?」
あげく、ただなんとなく女を口説く方法の話題を聞き出そうとしたら、自分の女を報復に狙われると勝手に勘違いしたのか。武器を投げ出して蜘蛛の子散らすように逃げて行った。
「ゴミ投げ捨てるのは危ねえだろ、ゴミはよ」
子供が踏みつけたら危ないと思い、適当に投げ捨てられた剣を回収して収納スキルに突っ込む。そんな言葉しか出てこない。張り合えるテンプレと早く会いたいなと、彼は思うしかなかった。




