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SOL REGALIA  作者: angou
8/8

第八話 血と残響

 陽が頂に差しかかる頃、既に四人は殆どの構成員を撃破していた。


「…疲れた」

「湊、血だらけじゃん!大丈夫?」

「大丈夫~」


 軽口を叩く湊を、昴が睨みつける。


「おい、お前らしっかりしろ。まだ終わってないぞ」


 その視線の先には、三人の構成員と胡桃くるみが並んでいた。ただ立っているだけで、先ほどまでの雑兵とは空気がまるで違う。


「次は、私たちの番だよ☆」


 胡桃が唇を舐め、楽しげに笑った。


「…恐らくあの三人は魔累巣の幹部メンバーだな…聞いたことはないが」

「強いのかなぁ?」

「強いぞ!」


 声が聞こえていたのか、男の構成員の一人が声を挙げる。そして、腰に手を当て堂々とした立ち姿で大きく息を吸い込んだ。


「俺は大和田おおわだ 琉叶るか!!!!魔累巣最強の男だ!!!!」


 吹き飛びそうな声量に、空気が震えた。漫画であればドンッ!と吹き出しが付いてしまいそうなほどの声で自身の名前を叫ぶ。そしてその声量のまま、隣に立っている他のメンバーについても勝手に説明を始める。


「そして俺の右にいる細身な奴が四条しじょう 歩流ある!!魔累巣で屈指の女好きだ!!そして胡桃の左にいる静かなのが、五十嵐いがらし 永愛とあだ!!魔累巣一の頭脳を持つ!!!そして、我らが魔累巣のボス!!馬渡まわたり 胡桃くるみ!!コミュ強だっ!!!」

「勝手に僕の説明しなくていいから」

「…うるさい…さっさと、死ね……」

「私の説明雑じゃない?」

「とまあ、俺たちは仲良し魔累巣幹部会というわけだ!!!!」


 その場にいる全員から、仲良し要素はどこ、と言わんばかりの視線を向けられても動じないその図太さに誰もが関心する。


「そんな奴抱えて良く幹部とかボスとかの素性隠せて来たね?」

「運…よかった、だけ……」

「そんな話は後でだ。今はさっさとアイツらを倒し稲荷との関係性について強引に聞かなければならない」


 昴が全員の会話を遮った。そして拳を構え始める。


「やるんだろう?早く始めろ」

「ん~もうちょっとお話ししたかったんだけど…ま、いっか!じゃあ——」


駿馬しゅんめ


 声と同時に胡桃の体が掻き消えた。


「…ッ!?」


 一瞬後、鈍い音と共に椿の身体が後方へ吹き飛ばされる。


「…っぐ!」

「きゃは♡すっごい飛んだぁ♪」


 胡桃は頬を紅潮させ、蹴りを決めた足をゆっくり下ろす。その姿は危ういほど妖艶で、しかし暴力そのものだった。


「てっめぇ!」


 昴がその姿を視認した瞬間、殴りかかろうとする。しかしそれは、すぐさま間に割り込んだ巨漢によって防がれてしまう。


「さ、NOVA・9最強!!!相手はこの魔累巣最強の俺だぁ!!」


 琉叶が楽しそうな咆哮を挙げる。


「すば——」

「…隙、だらけ…」

「…っく!?」


 昴の方を向いていた湊の影に、永愛が迫る。すぐに防御態勢を取ろうとした湊だったが、それはあっけなく徒労に終わる。湊の腕を永愛が掴み離そうとしない。思い切り振り払おうとする湊だったが、何故か振り払うことはできない。


「こんな小さな女の子が出していい力じゃないでしょ!」

「……小さい、言うな……っ!」

「うわっ!」


 湊はそのまま力負けし、仲間とは反対の方向へ投げ飛ばされる。


「……」


 皆がそれぞれ相手と対峙しているのを見ていた楓に、歩流が近づく。


「いやー悪いね。不意打ちみたいな感じになっちゃって。というわけで、お相手頼めるかな?クールな美人さん」

「……」


 その言葉に楓は反応を返すことも無く、ただ拳を構える。


「OKってことでいいのかな?」


 歩流はニヤリと笑い、楓を一瞥した。



—――――――――――――――—――――――――


「じゃあ、遠慮なくいかせてもらう、よっ!」


 歩流は背後から金属バットを取り出すと、まるで舞台役者のように軽く肩で回し、勢いよく楓へ振り下ろした。空気を裂く鋭い風切り音。楓は直撃する寸前、わずかに体を引き、つま先で後ろへ滑るように退く。

 次の瞬間――バットが地面へ叩きつけられ、鉄と石がぶつかる甲高い衝撃音が鳴り響く。破片が散弾のように飛び、火花すら散った。


「おお、凄いね。当たったと思ったのに」


 歩流は驚きの声を上げながらも、瞳には好戦的な光が宿る。


「(この歩流とかいう奴との相性は…最悪だな。武器持ち相手じゃ間合いを取られ続けられたら勝ち目がない。なら——)…ふぅ……っ!!」


 楓は息を深く吐き、拳を握る音が骨の軋みと共に響いた。


(間合いを取られる前に、大きく詰める!!)


 鋭い踏み込み。足裏が地面を叩きつけ、砂埃が舞い上がる。

 —―間合いを詰める。バットが届かない至近距離に踏み込めば、こちらの勝ちだ。

 楓は体を低くし、瞬間的に歩流の胸元へ迫った。彼女の拳が突き破るように振り抜かれる――が、その拳が当たることはなかった。


天空てんくう使


 歩流は笑みを浮かべたままバットを放り捨て、代わりに腰から短棒を抜き放つ。その瞬間、棒が伸縮音を立てて一気に長大化。彼はそれを地面へ突き立て、棒を支点に空中で身体を一回転させた。


「なっ!?」

「あーら、よっとぉ!」


 旋風のような蹴りが楓へ叩き込まれる。視界がぐるりと反転し、楓の体は宙を舞った。数メートル先で無様に地面へ叩きつけられると、肺から空気が抜ける。


(正直舐めてた…!ただのチャラ男じゃない。こいつちゃんと強い…っ!)


 歩流は伸縮棒を器用に回し、ひゅんひゅんと唸らせながら近づいて来る。


「どうしたの?もう終わり…なんてこと、言わないよね?僕は粘り強い娘がタイプなんだ」


 楓は顎から滴る汗を拭い、苦しげに息を整えつつ再び拳を構える。


「…っふぅ」

「お、本気モードって感じかな?いいね。楽しくなりそうだ」



—――――――――――――――—――――――――


「さあ!!全力でやり合お——」


 琉叶のその言葉の最中、昴が電光石火の踏み込みで間合いを潰し、拳を叩きつける。

 ――爆発のような一撃。通常の構成員なら数人まとめて吹き飛ぶはずの威力。


重装歩兵ザ・ホプリタイッ!』


 だが琉叶は、その拳を正面から軽々と受け止めて見せた。衝突の衝撃で地面がめり込み、砂塵が爆ぜる。


「見かけ通りの、剛腕だな…っ!」

「その通り!何せ俺は、魔累巣最強の男だからなっ!!」


 そう口にした琉叶の顔には笑みが浮かんでいた。喧嘩を楽しんでいる、戦闘狂の眼。昴もまた、瞳に熱を宿し応じる。

 再び昴が突進。それに呼応するように琉叶も拳を振るう。拳と拳がぶつかり合う度、爆音のような衝撃音が響き渡る。


「ほう!!凄まじい力だ!!」

「…クッ!!」

「力じゃ互角ッ!ならば!!」


 琉叶が放つ二撃目。昴は首をひねり、紙一重でかわす。空気を切り裂いた拳圧が背後の壁を抉った。


「小細工も効かないか!!流石、最強!」ハハハ!と豪快に笑い声を挙げる。


(なんだこいつ!力は互角?!バカ言いやがって!!こいつ、俺相手に手加減してやがるっ!!単純な押し合いじゃ、俺が負ける!!)


 昴は歯噛みし、一度距離を取る。琉叶は大地を蹴り、全身を弾丸のように構える。


「ふん…押し合いも楽しいが、このままじゃ一生勝負が終わらないな…であるならば——」


 呼吸を整え、渾身の踏み込み。地面が陥没する。


「俺の一撃を喰らわせ、一瞬で終わらせてやる!!」

「…ッ!!」


 迫り来る轟音――

 それはまるで軍馬の突撃。


重騎兵ザ・キャバリーッ!』


 巨体が放つ拳は形容するなら、まるで横一列に並び、突撃してくる騎兵の様。重く強い最強に相応しい剛拳。


「(避けるか?!いや、不可能だっ!ならば防御…したところで吹っ飛ぶのがオチ!)クソがぁっ!!!」


 迫る寸前で昴は防御を選ぶが、その防御ごと粉砕される。血飛沫を撒き散らし、昴は数メートル後方へ吹き飛んだ。


「終わったか……ん?何だ?」


 琉叶が目を見開く。

 立ち上がる影。白目を剥き、なお拳を構える昴。


「まだ、終わっていなかったか…っ!!!流石最強!!楽しくなるなぁ!」


 ——火が灯る

 ——―戦神が降臨する瞬間だった



—――――――――――――――—――――――――


「いてて…急に投げ飛ばすなんて、物騒だなぁ」

「…早く、終わらせて…帰って、寝る…」


 湊と永愛の対峙。互いの呼吸音だけが響く睨み合いが続く。


(この子は多分、柔道と相撲を齧ってる。華奢で小さいけど、技術と筋力は一級品…!普通に戦っても体力勝ちできるかどうか…)


 湊は永愛がどう来るか様子を伺っている。だが永愛は一向に攻めてくる様子はない。


「どうしたの~?かかってこないの?」

「……そっちが、こっち、来い…私、耐えきれば…仲間…来る」


 永愛は目を伏せながらも低く構える。その姿勢は静かでありながら、凄まじい重圧を放つ。


「あー、そう言う感じね…」


 勝利条件は両者共に同じ。

「仲間が来るまで耐えきる」

 だが、それが分かったのなら、やることは決まっている。


「…攻撃、仕掛けて——」

「――相手をバテさせるっ!」


 目的が定まった二人が接近し、拳を交える。

 湊が駆ける。拳が唸りを上げ、永愛の胴を狙う。しかし永愛は無駄なく手を伸ばし、その拳を掴み止めた。骨と骨が軋む音が響く。


(やっぱり抑えて来た!でも予想通り!)


 湊は即座に足を振り上げ、顎を狙う。

 入った、だがその直前、永愛が手を離し、静かに呟いた。


『…水瓶みずがめ


 滑らかな軌跡で拳が鳩尾に突き刺さる。反射的に湊の身体がくの字に折れ、吐息と血が同時に迸った。


「ぐはっ!」


 思わず声を挙げた湊に、容赦のない連撃が畳みかける。連打はまるで水流。美しさすら感じさせるが、湊にとっては拷問のような苦痛でしかない。


「…がはっ……」

「……一応、トドメ…刺す」


 湊の膝が崩れ、倒れ込む。永愛は冷ややかな眼差しで、倒れた湊の喉に向かい手刀を突き立てた。

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