隣町の月市に出張です
院長から隣町の月市に出張との指令が下りました。
前回早じまいしたから思ったほど数が捌けなかったんですよね。
ミサンガはケチがついたので”願いは……”とかいうのは止めて、カップルで着けるラブラブアイテムってことで売りに出してみます。
「このカップインに一度で玉が入りましたら御喝采。それっ!」
カップインが見事にカップに入りました。おおおーという歓声が上がります。
その後、妹たちがわざと外してみたりなんだりして盛況です。いい感じです。
「魅了持ちが物を売っていいとでも思っているのか!!!」
響き渡った声に辺りがシンとなります。
デジャブな人影が近付いてくるなぁとは思っていたのですよね………。
「この市より即刻去れ!!」
この前の月市で絡んできた正義マンです。うるさいー。
「いきなり魅了持ち呼ばわりですか。わたくしどもは、御領主の許可を得てこの月市に来ております。許可をお出し下さった御領主の誤りだとでも?」
うんうん。私達、魅了持ちじゃないもんね。魅惑魔法が使える”可能性がある”ってだけ。そもそも魅惑だもん。魅了じゃないもん。
走ろうと思わないと走れないように、楽器を練習しないと音楽を奏でられないように、魔法だって魅了だって魅惑だって使おうと思わなければ、習わなければ使えないんですよーだ。
「栄えある貴族学園に通う私にはそんな詭弁は通用せん!!!!」
院長先生のお顔が倍怖くなりました。ひー、マジギレです。
なお、院長先生は貴族学園の顧問だったりします。
ただ、私達はおそらく一度でも身近で魅了の術を見ると、きっと使えてしまうんですよね。
その気になったら感覚で使えるでしょう。そんな気がヒシヒシします。
火や水が失敗してもちょっと焼け野原になったり水浸しになる程度ですが、魅了の失敗は廃人作成も容易く、むしろ感覚でやっちゃうとその気がないのにハーメルンの笛になっちゃったりするらしいです。
あ、治安部隊が走ってきましたね。院長先生からは待機の合図。我らはこのまま続行のようです。
「お騒がせして申し訳ございません。お詫びにお値引きさせて頂きますのでどうぞお手に取ってご覧ください」
治安部隊がギャーギャー言う正義マンを丁重に引きずって行く中、院長先生が柔和な笑顔で商魂逞しい発言をしておられます。
さてさて、一先ず売り子を頑張りますか。




