正義マンうざ
「このカップインに一度で玉が入りましたら御喝采。それっ!」
姉さん3人が同時にカップインに玉をインします。練習の成果が出て、1人の姉さんが実に自然に見える感じで外しました。お見事お見事。
あちこちから「俺なら入るぞ!」とか「ちょっと貸してみろ!」という声が聞こえます。
こうなればもう勝ちですね。意外と入らずムキになった大人や楽しそうな雰囲気にのまれた子供が親御さんにカップインをねだります。
しめしめ。
実演販売様々で過去最高の滑り出しを見せた修道院の雑貨屋です。
が、午後になってウザーな事になりました。
「このミサンガという品は違法品ではないか!!」
観光者ですかね? 供も付けずに一人ですが、仕立てがそこそこいい服です。我々下々とは生地が違いますよね、生地が。ガタイもいいので下位貴族の三男以降で貴族学園に通って「目標は国の騎士!」な感じでしょうか。
「正義マンうざー」
「シャル、正義まんって何?」
「あー、えと、正義な騎士?」
「? 騎士様は正しくて皆の規範でしょ?」
院長先生が正義マンと対応中に後ろでコソコソ姉妹達に説明します。
正義は正義なんだけれど、自分の信じる正義を過剰に他人に押し付けたり、小さなグレーゾーンも許せなくて、自分の正義を貫くために自分の正義を振りかざしてくる人? みたいな曖昧を許せない人? と言い募っていると何とか通じたっぽいです。
「あー、何か分かったかも」
「で、”うざー”って何?」
そしてあたふたしながらウザいの説明を頑張る間に話が終わったようです。
正義マンがこちらを睨みつけながら引き上げていきます。
ミサンガの売り文句である”願いが叶いやすくなる”部分が魅了魔法と主張されていたようです。
実は私達の存在そのものがグレーなんですよね。ナイショですけれど。
魅了魔法は違法です。禁忌魔法の一つで厳重に管理されているのですが、私達は生まれ持って”魅惑魔法が発現する可能性がある”から親元から引き離されているのです。
魅了じゃないよ、魅惑だよ。
あまりにも魅了魔法の忌避感が強すぎて魅惑と言い換えてるだけらしいですけれど。
治安は結構いいし孤児院でも親元が辿れる国ですが、本当に親が分からない、もしくは教えて貰えないのは私達くらいのものでしょう。
親の方は分かってるんでしょうけどね。
普通は、習わないと魔法は使えないのですが、時々、特定の属性と親和性が高くて習わなくても使える子が産まれるのです。精神操作系以外だと持てはやされるらしいのですが、私達不遇属性ってやつなんですかね。
そして魅惑持ちかどうかはとっても簡単に誰でも分かります。
生まれ石を見れば一発です。
産まれたばかりの赤ちゃんが小さな手の中に握り締めているのが生まれ石です。
魅惑魔法と親和性が高いと何故だかこの石がピンクがかっております。
なお、そこらへんに捨てても気付くと身の回りに戻ってきているホラー石ですが、そういう物だという認識を皆さんお持ちなので身に着けている方が多いです。
自分の生まれ石を葉っぱで作った船に乗せて川に流したのに、気付いたら部屋にあったとか怖くない? 私だけ??
まぁ、そんな感じの恐怖石です。これを「不思議だねぇ」で済ますこの世界の皆さんの胆力に驚きます。
などと考えていると院長先生の指示が飛びました。今日の月市は撤収するみたいですね。
お疲れ様でした。