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修道院で暮らす魅惑の魔女  作者: 青い時計


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21/22

魅了持ちだらけの修道院


 さて、月市ですが変わらず出店しています。

 正義マンがうろちょろするので、粛清されなくてよかったねと心の中で思いつつジト目で見ていますが、どうやら妹その2のミアちゃんにご執心だったようです。暴言こそ発さなくなりましたが、アプローチの仕方は相変わらず最悪です。ミアが面白がっているので白い目で見ながら見逃してあげております。





「いざ、出陣!!」


 本日は遠足日和の曇天です。涼しい風も吹いていて丁度よい感じです。

 ぞろぞろと大人数で歩いております。


 目の前には闇の森。

 宮廷魔法士の皆様が演習訓練でよくご使用される、魔獣が適度に湧く場所だそうです。

 この闇の森は範囲がそれ程広くないので、適度に樹木の剪定をしているらしく、奇襲の警戒も無用だそうです。

 外周をぐるっと回りましたが、大きめの公園なイメージですかね。あちこちに野営のしやすそうな開けた場所も見えます。


 闇の森というよりは、手入れが行き届いた闇の林ですね。


「ここを境と致しましょう」


 修道院組の最後尾を歩いてらした院長先生が、さらに後に続く宮廷魔法士団や宮廷騎士団やその他の皆様との間の地面を焼き、簡易な線を引かれます。ぉー、見事な火炎放射器。鋭すぎて碧色のレーザービームに見えます。

 先導していた方々が線の向こうの宮廷騎士団の皆さんと合流されます。こちら側は修道院のメンツのみになりました。正確には全寮制の頃の旧修道院メンバーですね。

 皆、魅惑封じ(という体)のブレスレットを次々と外していきます。


「いっきま~す!」


 空間魔法が使える妹その2ミアが、空間魔法を応用して結界に似た物を林の周りにドーム状に張り巡らせます。


 「おお!」とでも言うように目と口を開けた人が何人か見えます。見事に声は聞こえません。ミアちゃん、完璧な疑似結界でございます。

 モンド様も疑似結界の向こう側で興味深そうに結界に触れています。


「何しよっかなぁ」


 得意攻撃魔法が氷魔法の妹その4リズがスッキプしながらさらに先へと進みます。


「そろそろ始めてもよいですか?」


 嵐魔法が使える姉様その3、ぁ、今はオーレリア姉様が修道院から出られたので姉様その2ですね。その2になられたソフィー姉様が院長先生に伺います。


「その先の少し開けた場所にしましょうか?」


 宮廷魔法士になられた姉様その1エミリ姉さんの提案に院長先生が同意されます。エミリ姉さんは星魔法が使えます。分かりやすく言うとメテオストライクですね。

 好きなサイズのメテオをストライクできるそうなのですが、空からの流星をストライクしてしまうと疑似結界が壊れてしまうので、今回何かあった時は基礎魔法だけでご対応いただく予定です。

 エミリ姉様は、宮廷魔法士の中でも超優秀みたいで、この闇の林に出る魔獣ぐらいならどれが出ても、複数で来られても単独討伐できるそうです。


「シャル踊ります!!」


 オープンスペースに一番に辿り着いた私はくるくると回転します。足場が土なためか、あえなく3回で止まってしまいました。5回は無理でも4回は回りたかった。。。


「ホリー歌います!」

「イザベルも歌います!!」


 2人とも歌いだしました。旋律だけですが綺麗な歌声です。


 本日の遠足は、”本気で魅惑魔法を使うとどうなるか”の検証実験です。


 今頃はミアが敷いた結界のさらに外側に宮廷魔法士の皆様が結界を築いてらっしゃるハズです。

 何が起こるか分からないので宮廷の戦力が2/3程、闇の林を取り囲んでおられます。

 今なら近衛兵しか居ないのでお城落とせるかも? なんてね。


 さて、だーれも魅惑魔法の使い方が分からないので好き勝手に魅惑を出そうとしています。お城の文献にも習得方法が確認できなかったそうで、出来そうな感覚を頼りに歌ったり踊ったり手を鳴らしたりそれっぽい呪文を唱えてみたりしています。


 賑やかにしていたからでしょうか、吠え声と共に熊が1匹現れました。2本足で立ち、威嚇してくる口の両側にはサーベルタイガーや象のような見事な牙。


「ズレイヤー」


 1の姉様エミリさんが油断なく身構えます。熊じゃなくてズレイヤーっていうんですね、この魔獣。


 なんて思っていたら、何時ぞやの手乗り仔馬を思い出させる勢いの魔法の奔流が何本も走りました。ズレイヤーは敢え無く塵と化していきます。

 最後に桜吹雪を思い起こさせるような魔法が舞いました。

 青空にピンクのひらひらが舞ってとても綺麗。


 大きめの公園といえば桜ですよね。ライトアップされた夜桜も素敵。桜の花吹雪はまことに風流だったなぁ。


「ぁ、できたかも」


 雪魔法使いのホリーが呟きました。

 これ、桜じゃなくて雪ですね。雪がピンク色に染まっています。手を差し出すとピンク色の光の粒となって消えました。


「どうやったの??」

「ズレイヤーを倒そうと思ったんだけど咄嗟に得意魔法が出ちゃって。得意魔法に魅惑が乗った感じ?」

「魅惑を出すんじゃなくて、他の魔法に乗せるの?」

「うん、そんな感覚だった」


 早速姉妹達が得意魔法に魅惑を掛けて使い始めます。

 ピンク色の弱い嵐にピンクの氷。ピンクの雪に、空間魔法が得意なミアも参戦しているようで、空間自体が薄ピンクがかってきました。


「見てみて! お花がぺこんしてる!!」

「樹も動くよ!」


 花魔法と樹魔法が使える妹その6マリーとその7レナがはしゃいでいます。

 たしかに。植わっている場所からは動いていないですが、茎や枝先がぺこりんと、通常ありえない角度までレイバック・イナバウアーしています。


 ぇ、得意魔法が分からない私は使えない感じ!?


 焦ってみますが出来ない物はできないです。私も魅惑出したい!!


「気をつけて!!!」


 エミリ姉の声が響きます。いつの間にか魔獣に取り囲まれています。

 ズレイヤーにバイコーンっぽい2本角の馬に狼っぽい何かに、ぎゃー、足元よく見たら虫がめちゃくちゃ集まってきてる!!!


 そんな中、普通の足取りでソフィー姉がバイコーンに近づいていきました。

 私とエミリ姉が素早く基礎魔法をバイコーンに叩きこんだのですが、風殺されました。

 風? ソフィー姉の嵐魔法?


 呆気に取られている間にソフィー姉がバイコーンに乗りました。乗りました!?

 姉様、何故通常運転な感じでバイコーンに乗ってんの!? 攻撃されないの??

 集まっている魔獣は動きません。注意深く眺めれば魔獣は全て吐く息がピンクですし、樹木も草花も葉先がピンクっぽいです。


「あははは。楽しい! とても楽しいわ!! 今なら何もかも手中に収められそう!」


 よく見るとソフィー姉の瞳も爪もピンク色です。ぇ、姉様そんな色じゃなかったですよね??

 慌てて見回すとホリーもミアもリズもマリーもレナも、もれなく瞳と爪がピンクです。

 5人とも楽しそうに笑いながらピンク色の魔法を行使しています。


 ぇ。何だか皆、変。ランナーズハイみたいになってる? 私は何ともないから魅惑持ち同士は干渉してないけど、自分の魅惑には自分で酔っちゃってる??


 呆気に取られた時でした。ソフィー姉が水浸しになるのと乗っているバイコーンが消滅するのが同時に起こります。


「シャル! 邪魔しないで!!」


 バタンと地面に落ちたソフィー姉は怒りの形相です。

 ちがっ、私じゃないと弁解する間もなく、姉様が目の前に拳ぐらいの魔法を5つ発生させます。

 考えるより先に厚さ2m程の水板を体の前に発生させました。


 5つの塊はジュッという音と共に水の中ほどで消えます。


 ジュッってことは基礎の火魔法? 基礎魔法までピンク色だったよ!?


「邪魔するな!!」


 リズがピンクの氷塊を複数浮かべています。


 6人とも瞳と爪がピンクを通りこしてマゼンタっていうか蛍光ピンクみたいに発色しています。唇も鮮やかなピンクに変わり蠱惑的で獰猛な笑みを浮かべて身体の周囲にピンク色のオーラみたいな物を発生させています。恐っ。どうしよ。




「<魔法の行使を禁ず><ひれ伏せ>」


 痛いっ。

 いきなりべしゃっと地面にひれ伏してしまいました。響いた声は、少し離れていた院長先生のものです。


「<エミーリア、シャルティ、イザベルノ、ミラハンナ、魔獣を倒しなさい>」


 身体が勝手に動き出して、魅了されているのか、棒立ちの魔獣を片っ端から倒していきます。

 院長先生、もしや得意魔法が令魔法ですか? それも禁忌魔法ですよね??

 あと、5音とか、ウチの修道院貴族多くない? と、頭の中がハテナで一杯になりながも身体は止まりません。的確に魔獣達が灰になっていきます。


 魅惑を使いまくっていた6人はと見ると、頭の周りだけ水球に覆われていて苦しそうに藻掻いています。水の中でガボガボと空気を吐いてしまっています。水飲んでる! 死ぬ! 死んじゃうって!


「院長先生!!!」


 水球が弾けて姉妹がゲボゲボ言いながら水を吐き出しています。

 院長先生の表情が険しくなります。


「命の危機でも魅惑が出続けている……?」


 6人の瞳と爪と唇はショッキングピンクのままです。息を整えると敵意も露わにこちらに向けて何かをしようとしていますが不発です。令魔法は効いているようです。


「令魔法の命令は効いているのに何故魅了の行使が続いている?」


 院長先生が眼鏡のつるに指をかけて考え込まれています。


 動きを止めた先生の横を走り抜けてブレスレットを6人の腕に通します。

 リップを塗りすぎてテカテカしていたような唇の色が元に戻りました。

 瞳と爪の色も薄くなりましたがピンクのままです。


「……元に戻らないとまずい」


 エミリ姉様の声が震えています。

 そうでした。結界の向こうに宮廷総戦力2/3が控えています。


 考えろ。どうしても魅了を止めなきゃならない。

 令魔法で魔法の行使を禁じられてるハズ。止まらないのはおかしい。

 

 待って。行使? 行使、行動して使う事。魅了は使ってない? 何で??

 魔法、ゲーム、RPG、STR、AGI、INT、詠唱、クールタイム、アクティブ、バッシブ、バッシブ! ぇ、バッシブって自動発動でしょ? どうやって止めるの?? ON、OFFが切り替えられないの? ランナーズハイなら一時中止、は、もうしてる。

 ああ! どうしてリセットがないの!! リセットかログアウト、そうだ! ログアウト!! 酔っ払いには水分と睡眠!


「院長先生! 6人を眠らせてください!!」

「<ソフィーナ、ホリーシア、ミア、リズライザ、マリーノエル、レナマリア、昏倒せよ>」


 足掻いていた6人の頭が地に落ちました。

 そのままじりじりと時間が過ぎます。エミリ姉はしきりに林の外を気にしています。

 ミアがかけた疑似結界はとっくに解けていて、闇の林を囲うのは宮廷魔法士の掛けた本物の結界だけです。段々範囲が狭まっているのは、気のせいだと思いたい。。


「うっ」


 こめかみを押さえながらミアが意識を取り戻しました。


 爪は……元に戻っています! 瞳もピンクじゃありません!


「、、、、吐きそう、気持ち悪い」

「ミア! ミア! 大丈夫? 覚えてる!?」


 エミリ姉様が駆け寄ります。


「ぅー、全部覚えてる。基礎魔法を最初に習った時みたいにハイ、じゃなくて、気分が高揚して止まらなかった。。。いい年して恥ずかしい」


 うつ伏せのままミアが答えます。

 他の姉妹達も爪の色が元通りです!


「<解除>」


 院長先生の令魔法が響きます。

 気づくと草木の形状が不自然でない形に戻っていました。あれだけ大量に集っていた虫もいません。


「帰りましょう」


 何とか危機は脱したと思ってよいのでしょうか?

 まだ起きない姉妹を魔法で浮かせながら運びます。


 緊張しながら宮廷魔法士が覆っている結界のすぐ側まで向かいます。

 少しの後、結界は解かれました。何とか帰れそうです。


 事情聴取とかありそうですが、ひとまず安心かな。寿命が縮みました。


 荒ぶる姉妹を背に宮廷戦力との全面衝突も頭を過っていたので、本当に本当に良かったです。



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