国策
家庭教師の日です。帰ろうと思ったらお茶でもと引き留められたので、是非と応じたところモンド様が登場されました。分からない。
今日の家庭教師はいわゆる庄屋さんでした。お茶でもと引き留められたので気軽に応じたら何故か上位貴族であらせられるモンド様が対面にお掛け遊ばせるは、その配下様が優雅にお茶をセッティングするわという状況。平民の家に上位貴族。世間の常識が分からない。
現状を分かりたくないので2回言いました。
「ときにシャルティ。メルという技術者は知っているか?」
これは庄屋さんに売られたなと思いつつ相槌を打ちます。
メルは新技術をバンバン打ち出す魔法道具技師と思われる人物で、私ことCの好敵手と思われています。
しかしメルは新技術開発で、こっちは改造や改良・小型化が得意なので正直なところ足元にも及ばないでございます。
「メルは私なんだが、どうしても解決できない問題があるんだよ。聞いてくれるかい」
聞きたくないでごじゃります。
メルって気軽に庶民紙にも投稿しているのに偉い大物がでてきたでござるよ。まさか貴族だったとは。
「実は陛下から直々に個々人の魔力やそもそもの器を高めるように仰せつかっていてね。この問題がどうにもうまくいかないんだよ。我が家門の長年の不手際だ」
やめてー。何も返事してないのに聞かせないでー。そんなに長い間解決してないの言わないでー。
「どうすれば良いと思う?」
知らぬ。と、言いたい。
これはあれですよね。亀ちゃんのにわか遺伝学の処理方法に気づかれた感じですかね。
そこから魔力問題に応用できそうとお気づきになられたとすれば、さすがのメルさんと言わざるを得ませんね。さすがにそこまで気づいてなくて勘かな?
「ときに、その問題に関して我らの扱いはどのようになっておりますでしょうか」
「われら?」
モンド様が片眉を上げました。ピンときていないようです。
「魅惑持ちです」
先日モンド様が怒ったフリをしたときに思ったんですよね。確かに魔力は強いけれど、馬を消したときの姉妹達と正直そこまで強さに差がなかったなって。
「魅惑持ちは一人で生涯を終えることが多いね」
「それでは魅惑持ちも婚姻すればよいのでは?」
ある程度魔力が高くなると魅惑持ちが産まれちゃうのでは?
そこで魅惑持ちを除外しちゃうからそれ以上魔力が高い人が殆ど出てこないのでは?
「魅了が危なくないかい?」
「それは魔力持ち全てに言えることではないでしょうか。魔力封じなどないのですか?」
子供の魔法訓練だって危ないっちゃ、危ないよね? だから見守り隊を付けてるんだよね?
「あるよ。よく知ってたね」
「当てずっぽです。いかにも有りそうではございませんか?」
しかしモンド様は眉間に皺を寄せられた。
「有るにはあるが、あまり使えないんだよ。具体的には体調に悪影響が出てね。使いどころが難しい。あと、道具じゃないからずっと誰かが付きっきりになるね」
魔力は封じられるけど道具ではないと。そして人が付きっ切りで体調に悪影響が出るということは。
「………体に直接、高魔力者の魔力でも流し込んでおりますか?」
「その通り。ご明察」
うわー、えげつな。
他人の魔力が体に入ると吐きそうになるんですよね。つか、吐く。
自分より高魔力保持者にやられると魔力を押し返せないし、それはそれは拷問ですね。
まぁ、流し込んでる方の高魔力保持者も、ずっと流し続けるのは魔力的にも体力的にも厳しそうですけど。
「非常に手間暇かかっておりますね」
「そうなんだよ。魔力封じ係りの方が大変でね」
コスパ悪いな。絶対そういう道具のがよくない?
今まで無いってことは開発が上手くいってないんでしょうけれど。
「安全な魔力封じが無い事は理解致しました。魅惑持ちは高魔力者が多いと愚考いたします。器については、その高魔力者を弾き出している事が要因では?」
モンド様は頷きながらも渋い顔をされている。
「ふむ。しかし国民感情がなあ。添う相手がいなくては如何ともし難い」
うーん。例のピンク嫌いねぇ。
「そもそも何故ここまで魅惑、いえ、魅了が忌避されているのですか?」
「内密に、願いたいのだが、」
いえいえ、もうお腹いっぱいなので止めて貰ってもいいですか?
はぁ。話し始めちゃうのね。
ふむふむ。
要約すると、昔々その昔。
ある国に玉のような女の子が産まれました。
その子はピンクの石を握りしめて生まれてきたそうです。
家族に愛されたその子は、真に可愛らしく美しく、すくすくと成長していきました。
そこまでは良かったのですが、成長するに従って、女の子は誰からも愛される存在となっていきます。そう、誰からもです。
女の子が年頃になりますと、国中からは当然の事ながら、諸外国まで巻き込んだ嫁取り合戦が始まりました。
それはどんどん壮絶さを極め、外交に留まらず血で血を洗う戦に発展し、果ては国々が半分以上無くなったのだそうです。
昔々の事ですので、争いの記憶は月日と共に忘れられていきましたが、生まれ石がピンクの者は不吉だという考え方だけは強く残り続けたということです。
凄く傾国。見事に傾国。産まれながらに習いもせずに無意識で魅了垂れ流し疑惑。
「それは何とも、………本当だとすると凄まじいお話でございますね」
「史実に隠された真実というやつだな」
ふーむ。
「モンドリアル様は、姉を好いておられますよね?」
「は?」
モンド様は突然変わった話題に一瞬呆けるも、すぐに渋面を作られました。
「僕はオーレリア嬢のことは素晴らしい女性だとは思うが、」
「誰がオーレリア姉様の事だと申しましたか?」
「………」
It's a piece of cake.
モンド様、呆気なさすぎです。
「卑賎の身でございますので生憎と存じあげませんが、モンドリアル様は上位貴族であらせられますよね? それも王と近しい、もしくは非常に親密なご家門」
優男っぷりが剥がれちゃってますよ、モンド様。顔怖いです。
「モンドリアル様が我ら修道院の誰かとご婚姻されるというのはどうでしょうか。上位貴族と魅惑の者が結婚する。国全体に衝撃と話題、ともすれば新たな価値観が芽生えるのではないでしょうか」
「しかしオーレリア嬢自身にもお気持ちというものがあるのではないだろうか。僕は彼女に無理を強いるような真似は決してしたくない。衆目の耳目を集めるためだけの婚姻など………………………………………………」
何か早口で長々と言ってる。早口すぎて早々に聞き流しに入ってしまいました。長っ、モンド様、内容が長い! ちびちび飲んでいたのにお茶飲み干してしまったじゃないですか。
そもそもオーレリア姉様だって言ってないってば。”誰か”って言ってるでしょ、落ちついてよ。
まぁ、2の姉様も嫌そうじゃないからいいのかな? いやいや、本人確認は重要。
とにかくモンド様が息切れした隙にこちらから話を捻じ込みます。
「魅惑持ちは罪人ではございませんので、完全に魔力を封じる必要はございません。つまり、亀を腕輪か何かに改良して、漏れた魔力を吸収するという仕掛けにすれば宜しいのでは?」
「そんなに簡単にいくか?」
「感覚的には出来ます、創れます。魅惑に限らず高魔力者の魔力漏れにも対応できるのではないかと愚考いたします。モンドリアル様ことメル様にもご協力いただけましたら十全かと」
「ふむ……」
それから週一でモンド様が修道院にいらっしゃるようになりました。
亀を改良、もしくは改良したことにして魅惑持ちが自由に過ごせるようにする魔法道具を創る研究です。
毎回お菓子やら本やら上質な布地などなど差し入れてくださいます。
オーレリア姉様とも良い感じです。先日なんて微笑みあっておられました! 美男美女の恥ずかし気な笑みありがとーございますっ!! こちらまで幸せな気分です。
院長先生も特に止めておられないので許容範囲ということなのでしょうか。
色恋にも政治にも疎いのでそこらへんは皆様にお任せです。こっちは魔法道具を創るのみ。がんばるぞー!




