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夜雨
静かで、ただ一人で世界に取り残されたかのような
そんな夜が好きだ
そんな夜に飲むお茶が好きだ
決して一人だけじゃない
なのに、一人きりだと錯覚する夜が
自分を孤高にしてくれるようで、
私を見つめるのは月だけで、
独りでいる私を、誰かが見ているという安心感を持っていた
その日は幕が下りていた
私を見守る月は夜の黒い雲に覆われて消え、
私の好きな静寂は雨音に蹂躙された
私が享受していた安心は消えてなくなり
私に満ちるのは際限のない不安だけ
不安な私の鼓動も
私の言葉も
夜の静寂も
私の熱も
私の好きなものを
雨が呑んでしまった
この夜は孤独の夜
ただ一人で、雨を感じる夜
雨以外の何物も感じない夜
肌に感じる雨水の冷たさ
鼻に届く雨に濡れたアスファルトの臭い
耳に届くのは際限ない雨音
目に入るのは無数の雨で塞がれた街
この不安を、お茶と一緒に飲み干そう
濃くて少しだけ苦いお茶を飲んで寝よう
ただでさえ夜は音が少ないのに
雨が降ってしまえば、それ以外の音なんて聞こえてこない




